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発信箱:されど読み間違え=与良正男

 麻生太郎首相が若い人の前で「僕は新聞なんて読まない。見出しだけで十分だ」と語るのを聞いたことがある。若い人たちも「身近な人」と感じたのか、結構、受けていた。

 まだ首相就任前。「新聞は政治家の悪口ばかり書く」といった文脈だったと記憶するが、新聞記者としては悲しかった。

 麻生首相が「踏襲」を「ふしゅう」、「頻繁」を「はんざつ」と読み間違えたとの話を聞いて思い出したのは、この一件だった。「漫画ばかり読んでいるからだ」というつもりはない。たかが読み間違えである。私も時にする。

 だが、教養や常識(それほど新聞は高尚ではないけれど)など不必要と言わんばかりの発言が歓迎される風潮が、首相の「国民的人気」なるものの一つの要素だったのではなかろうか。そう考えるとまた悲しくなる。

 もっと深刻な問題がある。なぜ、報道される前に周辺の政治家や秘書官が一言、「首相、それは……」と言ってあげなかったのかということだ。

 定額給付金の問題にも通じるところがある。実施しようと思えば、さまざまな矛盾や問題点が出てくるのは、しろうとでも分かるはずだ。それを事前に進言すれば済むものを、首相が「全世帯に給付する」と記者会見で大見えを切った後、閣僚や自民党の幹部たちが好き勝手に発言する。

 以前、本欄で最近の自民党は総裁選ではなだれを打って支持するのに、いざ、首相になって人気が落ちると組織として守らなくなると書いた。今の麻生内閣は早くもそんな状況になっていないか。これは漢字の読み間違え以上に重大である。(論説室)

毎日新聞 2008年11月20日 東京朝刊

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