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泡瀬埋め立て判決 開発計画の点検急務/環境保全の観点も重要だ2008年11月20日

 希少生物が生息する沖縄市の泡瀬干潟を埋め立てて人工島を造成する東部海浜開発事業に、那覇地裁(田中健治裁判長)が事実上、ストップをかけた。
◆禍根を残すな
 埋め立て事業は1987年に沖縄市が策定した計画を土台にし、2002年度に着工した。第1区域96ヘクタール、第2区域91ヘクタールの計187ヘクタールを埋め立てる。第1区域は12年度に完了する予定である。
 県は沖縄市の活性化につながることを強調してきたが、田中裁判長は19日の判決で「現時点において埋め立て事業に経済的合理性は認められない」と判断した。
 「支出は地方自治法などに反し違法」とも述べ、住民側の請求を一部認め、県には将来分を、今後支出予定だった沖縄市には一切の公金支出差し止めを命じた。
 事業には経済的合理性がないと断じられた以上、県、沖縄市とも開発計画の点検は急務である。
 大規模開発事業では「経済効果」と「環境保全」のバランスが常に問題となる。
 しかし、今回の地裁判決は環境影響評価に少し触れただけで、経済面を重視した。事業の費用対効果が欠けており、環境保全とのバランスを考えるまでもないと、司法は判断したとも言えよう。
 東門美津子沖縄市長は昨年、埋め立て事業を(1)市の経済発展につながるのか(2)干潟等の自然環境は守れるのか―の観点を基本に検討し、第1区域の埋め立てを容認する一方で、第2区域は「推進は困難と判断した」と表明した。
 判決は「推進が表明された第1区域についても、具体的な土地利用計画は何ら明らかでない」ことなどを理由に「現時点においては沖縄市が行う開発事業について、経済的合理性を欠くものと解するのが相当」とした。
 具体性のない計画は税金の無駄遣いであり、今後さらに無駄な支出を続けることは認められないということである。
 埋め立て事業費は約489億円。昨年度までに約199億円が投入されている。既に約69ヘクタールが護岸で囲まれ、そのうち9ヘクタールは埋め立てを終えている。
 市長は昨年「時代のニーズに応え得る計画に見直すことが重要」との考えを示した。判決には「弁護士や庁内で協議しながら対応について検討したい」とした。
 経済的合理性を司法だけでなく、多くの市民にも認めさせることができるのか。市や県には将来に禍根を残さない判断が求められる。
 市長は06年の市長選の際、「市民の意見を集約して判断する」とし、東部海浜開発事業検討会議を設置した。同会議は、約90ヘクタールを市が購入して民間に処分することの見通しを疑問視している。それに対する市長見解も示すべきだろう。

◆民意どう判断
 事業に反対する住民らからは「世界の自然保護運動にも勇気を与えた」と判決を評価する声がある。推進する団体は「東部発展の大きなビジョンを持っている」と、事業継続を求めている。
 県や市は、民意をどう判断するのか厳しい決断が迫られている。
 熊本県の蒲島郁夫知事は「現在民意は川を守るよう選択していると思う」として、国が1966年に計画を発表した川辺川ダムの建設について反対を表明した。
 淀川水系の4ダム建設には三重、滋賀、京都、大阪の4府県知事が国に事実上の建設中止を求めた。環境保全は大きな流れである。
 泡瀬干潟は琉球列島では最大級で、ラムサール条約登録を求める声もある。
 自然はかけがえのないものである。経済的合理性だけでなく、環境保全の観点からの判断も重要だ。


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