伊藤清は金融工学の父などではない

確率微分方程式の創始者、伊藤清が数日前に亡くなられたのですが、それに関連してあるかたが書かれた記事に「金融工学の父」とあるのを見て、ぎょっとしました。ニュース記事を見ても、「父」とは書かないまでも、伊藤の業績を金融工学との関連で語る記事は多いように思います。
たしかに、ブラック・ショールズは伊藤の業績をもとにしているのでしょうが、伊藤の業績をことさらに金融工学の文脈で語るのは感心しません。伊藤の業績からすれば、金融工学など、むしろ些末なのではないでしょうか。
 
数学者だった祖父に、あるとき(たぶん80年代半ば)、「伊藤はファインマンの経路積分の基礎づけをした」と言われたことが今も強く印象に残っています。

― posted by きくち at 12:25 am commentComment [10] pingTrackBack [0]

この記事に対するコメント[10件]

1. うなぎ飴 — November 18, 2008 @00:42:31

きくち先生はじめまして。
最近は金融工学が良くも悪くも注目を集めていますから、マスコミがそれに絡めて報道するのは仕方ないように思います。
伊藤先生がガウス賞を受賞されたときなんて、ニュースで取りあげられているのを全くと言っていいほど見ませんでした。

Owner Comment きくち  November 18, 2008 @01:02:52

ええ、ニュースバリューについては重々理解していますが、だからこそ、こういうところで「違う」と言っておかなくてはならないと思うわけです。
なんていうかな、長いものに巻かれないために釘を刺すというかな。「しかたない」と言いたくないというかな

3. nao — November 18, 2008 @16:59:36

 10年ほど前の番組ですがNHKスペシャル「マネー革命」の中で伊藤清氏は自身の数学が金融工学に応用されている事をあまり存じてなかったようにおっしゃってました。
 それより面白かったのが取材に赴いたスタッフ達が氏の説明する「伊藤の補題」を理解することが出来ず、どう説明してよいのか困る伊藤さんの図でした。
 先のノーベル賞の時も同じですが報道に携わる人が疎い人ならどうしても「とりあえずすごい」といったニュアンスになってしまうのではないでしょうか。

4. AGLA — November 18, 2008 @20:31:56

定説では経路積分の基礎付けは未だないことになっている、と思うので、
ファインマン・カッツ公式とかじゃないでしょうか?

「経路積分の方法」を書いた鈴木先生は東大の統計物理の先生でしたっけ

Up5. rna Website — November 18, 2008 @20:23:29

科学の業績というのは一度世に出ればどういう形で利用されても文句は言えないわけで、科学者も因果な稼業だとは思いますが、「父」とか言われちゃうと困りますよね。「子」に対して責任があるみたいで。

金融工学の文脈で語ること自体は、一般紙で「ほら、あれをやった人ですよ!」的に業績を紹介する場合、伊藤氏にとっての重要度よりも読者にとっての重要度で業績を選択するのがスジでしょうから、しょうがないかな、とは思います…

6. うさぎ — November 18, 2008 @23:30:33

うーん、伊藤先生は経路積分の基礎付けと同じくらい金融工学の
父なんでは?これは「基礎付け」と「父」って言葉に対する当方の
感性の問題かもしれんけど。

7. かとう — November 19, 2008 @13:17:00

>「父」とか言われちゃうと困りますよね。「子」に対して責任があるみたいで。

「認知はしとらん。」by 父。

8. Re — November 19, 2008 @19:48:36

あくまで○○の父や母は定型句ですからね。
責任についても、プログラミングでいうクラスの概念の親子関係の責任みたいなもんですよね。大本に変更点が見つかれば派生した子にも影響がある、程度の。

あるクラスライブラリの記述がLinuxのカーネル部分で使われているという認識よりもiPhoneのゲームで使われていると言った方が普通の人には分かり良い。でもOSの基幹の方が専門家にも社会的にもとても重要なんだということなんですよね。

まぁコンピュータのように「父」が沢山居すぎて国籍不明児みたいな子も居ますから。

その中に日本人が居れば日本国籍ぐらいはもらえたのかな?

9. 杉山真大 Website — November 19, 2008 @20:43:48

下村脩氏が受賞した際のエントリで紹介された、「後の二人がああいう仕事をしてくれたから受賞に結びついた。それはもちろん彼にとって名誉なことには違いないけれど、付録みたいなものとも考えておられるのではないかな」って境地に似たようなもんなんでしょうね。

科学の功績を成果となる"有形物"・広義に捉えるなら"具体的な応用例"で見てしまう悪い癖、ってのを問い直した方が良いのかも。にしては、昨今の教育界は逆方向に向かっている危うさがある気がするのですけど。

10. 新聞記者(阪大理卒) — November 20, 2008 @00:07:05

国際数学連合(IMU)も不見識ですね。呆れました。
3ページの中で金融工学に1ページ近く割いています。

Carl Friedrich Gauss Prize awarded to Kiyoshi Itô
http://www.mathunion.org/o/General/Prizes/2006/gauss_eng_long.pdfLink

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