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【社会】

所得制限 自治体が決めるのか 負担もバラまき 定額給付金

2008年11月13日 朝刊

国の定額給付金をめぐり意見が相次いだ8都県市首脳会議=12日午後、横浜市中区で

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 政府の追加経済対策の目玉とされる、一律一万二千円の定額給付金。多くの人の家計の足しになりそうだが、支給の窓口となる区市町村には今、混乱が広がっている。給付制限を設けるかどうかや、設ける場合の所得について、自治体の裁量とされたためだ。「役所は大混雑になる」「とにかく時間がない」。年度内ともいわれる支給に向け、首長や担当者らからは戸惑いや不安の声も漏れる。 

 南関東の四都県と四政令市の首長が一堂に会した八都県市首脳会議が十二日、横浜市内で開かれ、定額給付金について、市町村に過重な事務負担をかけないよう求めることなどを盛り込んだ緊急提言をまとめた。

 提言では、事務負担が少ない手続き案として、所得にかかわらずいったん全国民に定額給付した上で給付金を課税対象とし、税率が高い高所得者ほど受取金額が低くなる仕組みを挙げている。

 会議では、この給付金をめぐって議論が百出。自治体側の戸惑いがあらわになった。

 「二兆円のばらまきは天下の愚策」。こう口火を切ったのは、神奈川県の松沢成文知事。「制限を市町村に決めさせるというが、こんなの政策じゃない。間違ったことには地方からやめるべきだとはっきり言うべきだ」と批判、八首長連名で政府方針の白紙撤回を求めるべきだと主張した。

 横浜市の中田宏市長は「経済対策として二兆円全部をこっちに考えさせてくれた方が、よほどヒットする」と指摘。千葉県の堂本暁子知事も「中小企業対策や福祉施策などで、(財源を)移転してくれた方が、経済効果はある」と述べた。

 東京都の石原慎太郎知事は「国会で政局化している問題を、自治体の会議が踏み込んでいいのかどうか。給付金は基本的には国民に好評」と“白紙撤回要望”には慎重姿勢。しかし、会議の後、市町村が所得制限について判断することに「いきなり言われても迷惑」とあきれた。

 埼玉県の上田清司知事も撤回要望に反対しつつ「地域振興券で三割しか効果がなかったような政策は、いかがか」と批判した。

◆『哲学がない』 『目安示して』

 「自治体が事務を担うことについて、協議を求めない国の手法が繰り返されており、憤りを感じる」。東京二十三区の区長でつくる特別区長会会長の多田正見江戸川区長は、コメントにあからさまな怒りを込めた。

 「日常の業務にも支障をきたす。相当の事務経費が発生することも想定され、唐突なやり方は問題だ」

 杉並区の山田宏区長は「福祉政策か景気対策か性格がはっきりせず、担当部署も決められない。フィロソフィー(哲学)がないとしかいいようがない」とバッサリ。「前代未聞のまったくおかしな政策だ」と批判した。

 同区の広報課職員は「年度末はどこの自治体も忙しくなる。年度内給付となると、九年前の地域振興券の対応と同じように新たな部署を臨時的につくる必要がある。早く制度の詳細を知らせてくれないと、間に合わない。区役所は大混雑になるのでは」と話す。

 江東区では、総務課が区民からの問い合わせに応じているが、やはり「事務量の多さを考えると、日程的には厳しいものになるだろう」と予測。足立区の近藤弥生区長は「窓口の混乱は必至。年度内実施なら所得制限を設けることは非常に困難だ」と指摘する。

 武蔵野市の邑上守正市長は「事務量が過大になるおそれがある。十分に調整してほしい」と注文をつけた。

 自治体間の不公平が生じる恐れを指摘する自治体も。墨田区の山崎昇区長は「自治体間で対応がまちまちになる恐れがある。できれば国で一定の目安を示してほしい」と要望。品川区企画財政課の担当者は「どういう基準をつくったにせよ、隣り合っている二十三区では、隣の区と比べて苦情が出かねない。混乱を招くのが心配だ」と打ち明ける。

◆『軽率』 首長あきれ顔

 兵庫県の井戸敏三知事が「関東大震災が起きればチャンスだ」と発言したことについて、横浜市で開かれた八都県市首脳会議に出席した首都圏の知事や市長は十二日、会議後の報道陣の取材に対し「幼稚で稚拙」「軽率だ」と批判した。

 神奈川県の松沢成文知事は「幼稚で稚拙な発言」とばっさり。横浜市の中田宏市長は「軽率な発言。注意して発言してもらわないと」とあきれ顔だった。川崎市の阿部孝夫市長は「人の不幸を待っているかのような発言はよろしくない」と表情を曇らせた。

 埼玉県の上田清司知事は「わかりやすく説明しようとしてオーバーランしたのではないか。関西振興のためにという強い思いで言ったのだろう。追っ掛けてまで文句を言う話ではない」と冷静な表情だった。

 東京都の石原慎太郎知事は「首都圏の地震の確率は向こう三十年間に70%。東京の地震に期待するなら三十年先の話になるかもしれない。自分で努力して関西の活力を取り戻す努力をしたらいいのでは」と指摘した。

 兵庫県の井戸敏三知事は十二日、「関東大震災が起きればチャンス」との自らの発言をめぐり、東京都内で取材に応じ「皆さまを混乱させてしまったことについて、おわび申し上げねばならない」と謝罪した。

 井戸知事は「関西の振興のため、いざというときの備えのため、選択肢の一つという意味で話した」と発言の真意を釈明。その上で「『チャンス』という言葉を使ったのは短絡的だったと反省している」と述べた。

 この日、兵庫県庁には「発言は不適切」などと批判する声が殺到し、職員が対応に追われた。電話とメールを合わせて計三百五十件以上で、大半が批判的な内容という。

 

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