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〈ネットはいま〉第1部―3 予告を集める

2008年11月10日14時18分

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写真無差別殺傷事件が起きた秋葉原の交差点。以後、ネット上の犯行予告が相次いだ=6月8日、筋野健太撮影

 「見ているのは常連だけという感覚。あくまで内輪の冗談だと思っていた」

 偽計業務妨害容疑で7月に逮捕、起訴された男性は、勾留(こうりゅう)中の拘置所で面会に応じた。ネットの掲示板サイトに、関東地方の駅で殺傷事件を起こすとにおわせる内容を書き込んだ。

 数回の書き込みをして4日後、ネット接続履歴を調べた警察が自宅に来た。「こってり絞られる」。そう思って赴いた警察署で逮捕状を見せられ、驚いたという。

 男性の書き込みを見つけたネットの利用者が、犯行予告を収集するサイト「予告・in」に投稿。「実行の可能性が高い」と警察への通報を依頼していた。

 「犯行予告の情報を公表することで、秋葉原のような事件の未然防止に役立つかも知れない」。予告・inを個人で運営する矢野哲さん(27)は、そう考えた。ヤフーやライブドアで働いた経験もあるプログラマーだ。

 その東京・秋葉原の無差別殺傷事件は、6月に起きた。加藤智大被告(26)は、携帯電話のサイトに、犯行予告を書き込んでいたという。

 総務省は09年度予算の概算要求に、「安心ネットづくり」関連の11億円余を盛り込んだ。加藤被告のような、犯行予告を検知する技術開発費も含まれる。事件直後、その方針が報道され、矢野さんは開発を思い立つ。既存の検索サービスなどを組み合わせ、「タダで、2時間で」予告・inはできた。

 「犯行予告」「殺す」などの書き込みを、ネットから自動的に検索して集める。さらに、人海戦術にも頼ることにした。大量の無関係な情報を除外し、「殺す」を「投す」と言い換えるような隠語を見逃さないためだ。パソコンや携帯で予告を見つけた人に、投稿を募った。

 テレビなどに取り上げられるようになり、投稿は1日数十件に。サイトの情報で、実際に容疑者が逮捕された事件も10件を超す。

 批判もあった。「予告をあおった」「表現の自由が侵される」。イタズラ投稿、サイトへの攻撃も。矢野さん自身が犯行予告の「標的」にされたときは、警官が自宅を訪ねてきた。

 予告・inをやめようとは思わない。加藤被告が掲示板に書き込んだという一言が、頭に残る。「現実でも一人 ネットでも一人」。「誰かが見つけて、反応していたら、あんなことにはならなかったかも知れない」

 犯行予告は後を絶たない。でも、「最終的には減っていって欲しい」と願っている。個人の運営には限界もある。公的な団体に協力してもらうことも考えている。(小堀龍之)

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