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社説:前空幕長問題 政府の責任を明らかにせよ

 「我が国が侵略国家だったというのはぬれぎぬ」などと主張する論文を書き航空幕僚長を更迭された田母神(たもがみ)俊雄氏が応募した民間企業の懸賞論文に、自衛官78人が応募していることが明らかになった。応募総数は235件だから、3分の1が現職自衛官の作品だったことになる。

 空幕の教育課が全国の部隊にファクスで応募要領などを紹介していたことも判明した。78人全員が航空自衛官で、1佐など佐官が10人。62人は田母神氏が司令を務めた第6航空団(司令部・小松基地)所属だった。

 田母神氏は、記者会見で「紹介はしたが、書きなさいとは言っていない」と語っている。しかし、空自トップでかつての上司の「紹介」が事実上、応募の圧力になったのではないか。

 防衛省は応募作品の内容に問題がないか確認するという。が、それだけでは不十分だ。大量の自衛官が応募した経緯に田母神氏がどうかかわったのか、組織的関与と言える教育課の「紹介」の実情はどうだったのか--これらを解明するのは、麻生太郎首相、浜田靖一防衛相の責任である。

 政府の判断で不可解なのは、田母神氏の論文が明らかになって以降の同氏の処遇をめぐる対応である。

 田母神氏は、論文応募の際、書面を提出するという内規に反して官房長に口頭で伝えただけだった。さらに、その論文は戦前の植民地支配と侵略を正当化して政府見解に真っ向から反する内容であり、集団的自衛権行使を違憲とする政府の憲法解釈も批判していた。

 田母神氏が防衛相の辞職勧告を拒否し、防衛省は懲戒処分を検討した。ところが、手続きの一つである「審理」を田母神氏が求めたため、「時間がかかり、その間給与を払い続けねばならない」との理由で定年退職にしたというのだ。

 しかし、その結果、おかしな事態が生まれた。防衛相や事務次官らが処分を受ける一方で、当の本人は何の処分も受けず、退職金を受け取ることができる。定年退職は、新テロ対策特措法改正案の審議の障害にならないよう早めの幕引きを図った結果ではないか。そんな疑念がわいてくる。

 田母神氏は、幹部自衛官の教育機関である統合幕僚学校の学校長だったことがある。同氏はかねて戦争責任や安全保障に関する持論を表明していた。統幕学校で、政府見解、政府方針に反する「教育」が行われていなかっただろうか。この点も解明されなければならない。

 最大の問題は、ゆがんだ歴史認識を持ち、政府見解を否定する人物がなぜ、空自のトップに上り詰めることができたのか、ということである。田母神氏は空幕長就任後、空自の隊内誌に今回と同趣旨の文章を寄せていた。同氏を空自トップに据えた自公政権の責任は重大である。麻生首相の考えをぜひ聞きたい。

毎日新聞 2008年11月7日 0時01分

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