◆妊娠高血圧症候群 晩産化で増加傾向。脳出血、胎盤早期はく離併発も
初めての子を身ごもった38歳女性は、妊娠24週目の健診で最高血圧130、最低血圧80で「やや高い」と言われた。その3週間後、最高血圧が170~200と急上昇し、かかりつけ医の勧めで埼玉医大総合医療センター(埼玉県川越市)で診察した。妊娠高血圧症候群だった。血圧は薬で下がらず、脳出血などの恐れがあり、帝王切開に踏み切った。赤ちゃんは694グラムの超未熟児ながら母子ともに健康で、女性の血圧も下がった。
「母親が早めに対応したので良かった。しかし、出産の高齢化で高血圧や肝臓、腎臓病など素地のあるケースが増えている」と関博之教授(周産期学)は指摘する。高血圧患者が妊娠高血圧症候群になる可能性が高いことを知らされないまま、不妊治療を受ける事例も目立つ。
●根本的治療は出産
かつては妊娠中毒症と呼ばれていたが、05年に改められた。妊娠20週から出産後12週までの間に最高血圧140以上、最低血圧90以上になる場合や、同時に尿にたんぱくが出る場合をさす。また、頭痛や目のチカチカ、吐き気や胃の不快感などの症状が表れる場合がある。
けいれんや大量出血で死に至る恐れがあるほか、肺塞栓(そくせん)や脳出血、胎盤早期はく離を併発することがある。死産になったり、脳障害などの後遺症が子どもに残ることもある。妊娠32週より前に発病すると重症化しやすいとされる。以前は、むくみ(浮腫)が重視されたが、今は28週未満の妊娠早期と、出産直前に顔つきが変わるほど全身、特に上半身がむくむ場合のみ要注意としている。
この病気は紀元前の古い医学書にも登場し、発生頻度は全妊娠の3~5%。胎盤の血管が細くなって血が流れにくくなるため、胎児に多く血液を届けようと血圧が高くなる仕組みだ。
治療は、薬を使った高血圧の対症療法が中心だ。関教授らは血管を緩める働きのあるぜんそく治療薬を試験的に患者の同意を得て使い、8割で重症化の予防効果があった。しかし、胎児への影響が不明で使用できない薬も多く、母体を守るため血圧を下げ過ぎると、胎児への血液が不足するという板挟みにあう。
根本的な治療とは出産することだ。一日でも長く母親の体内にとどめて胎児の成長を促しながら、母子の状況で帝王切開に切り替える緊急対応が必要だ。超未熟児を扱える施設は少なく、埼玉医大も新生児集中治療室(NICU)の利用状況をにらみながら緊迫した日々になっているという。
●血圧こまめに測って
対策は、定期的に健診を受け、早期発見することから始まる。「公的支援制度もある。お金がないと言う前に健診先で相談してほしい」と関教授は語る。家庭用血圧計で日々の血圧を測るのもお勧めだ。通常、妊娠12~28週は血圧がやや下がりぎみになるが、逆に徐々に上がるようなら正常範囲内でも注意が必要だ。
診断されたら、塩分摂取量を1日7~10グラムと、普段より約3割減らす。家事程度の安静で規則正しい生活が望ましい。たばこや酒はやめ、水分をこまめに取る。
初産で発病することが多く、1子目で発病していれば2子目もなる可能性が高い。また、以前の出産では大丈夫でも、パートナーが変わると発病したりと「免疫上の相性」が発病になんらかの関係があるらしい。
●ガイドライン作成
東京で起きた病院の相次ぐ妊婦受け入れ拒否は、現在の医療体制の課題を浮き彫りにした。一方で、出産の高齢化に伴い今後、増える可能性がある。
日本妊娠高血圧学会は初の診療ガイドラインを作成し、来年初めに出版し知識の普及を図る。佐藤和雄理事長は「欧米で使える薬が日本では未許可だったりと治療の制約も大きい。お産は危険が伴い、人手がかかることを忘れてはならない」と訴える。【山田大輔】
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■妊娠高血圧症候群の分類 血圧の単位はミリHg
最高血圧 最低血圧 尿たんぱく
前症(予備群) 120~139 80~89
軽症 140~159 90~109 0.3~2グラム
重症 160以上 110以上 2グラム以上
=日本妊娠高血圧学会など
毎日新聞 2008年11月11日 東京朝刊