来日しないことを理由に被爆者健康手帳の交付申請を却下された韓国在住の鄭南寿(チョン・ナムスウ)さん(88)が、国と長崎県を相手に却下処分の取り消しを求めた訴訟の判決が10日、長崎地裁であった。須田啓之裁判長は「被爆者援護法の趣旨、目的に照らせば、身体的・精神的理由で著しく困難な場合まで、来日を厳格に求めているとは考えられない。却下は違法だ」として却下処分を取り消した。
被爆者手帳をめぐり、外国に住む被爆者でも来日するのが交付の条件としてきた国の運用が違法とされ却下処分が取り消されたのは、7月の在ブラジル被爆者の訴訟(広島地裁)に続き2件目。ブラジルの原告2人はすでに死亡しており、生存する原告としては初めてとなる。
争点となったのは、手帳の交付申請に来日が必要かどうか。原告側は、被爆者援護法に在外被爆者を除外する規定はなく、却下は違法だと主張した。被告側は、都道府県知事が交付を決定するには本人に直接確認することが必要で、法も「居住地の都道府県知事に申請しなければならない」と規定していると反論していた。
判決は「直接被爆者本人から事情を確認することは重要であり、来日を求めることには合理的理由がある」としたうえで、「来日が著しく困難な場合に、被爆事実の確認や本人確認を日本で行うことに代わる方法は十分にありうる」と指摘。「来日しないことのみを理由として手帳の交付申請を却下する処分は違法」と判断した。
鄭さんは1939年に韓国から広島に移り住み、45年に爆心地から2・4キロの自宅で被爆。同年秋に韓国に戻った。一緒に被爆した長男の姜碩鍾(カン・ソクジョン)さん(69)が05年に広島市を訪れ、鄭さんの被爆を証明する被爆確認証を取得。鄭さんは高齢で歩くのも困難なため、支援者のいる長崎県に06年8月、郵送で手帳交付を申請したが、県は却下した。
在外被爆者の来日要件を巡っては、来日しなくても手帳が取得できるように今年6月に法改正され、12月17日までに施行される。