« 韓国が米・日・中との通貨スワップ枠を拡大したいらしい…中央日報とKBSニュースから | トップページ

2008年11月 7日 (金)

10月の円高は劇的ではなかった!!+世界の実体経済+米国債買え論+アジア連携論~各紙から

 日本はまだしっかりしている(?)という数字が出ている。

 日銀が5日発表した10月の円の実質実効為替レートである。

 10月24日には円は一時、1㌦=90円87銭と、95年8月以来13年ぶりの円高水準になり、各紙は1面トップで大きく扱っていたが、実は表面上はびっくりする数字なのだが、数字にはカラクリがあって、輸出企業はその数字が示すほどは傷んでいませんよ、という日銀のまとめである。

◆10月の円高は劇的なものではなかった!!

 10月の円の実質実効為替レート(1973年3月=100)は111.1と2005年8月以来3年2カ月ぶりの円高水準だった、というのだ。外国為替相場での13年ぶりの円高水準という驚きに比べると、物価変動も加味したこの数字では見かけほどの円高ではなかったことを示している(毎日新聞11月6日朝刊経済面から)。

 実質実効為替レートという面倒くさい名前は舌をかみそうだが、なかなか優れものの指標である。

 毎日新聞経済面によると、

 <実質実効レートとはドルやユーロ、中国の人民元など日本の主な貿易相手国の15通貨に対する円の総合的な価値を示す為替レート。主要通貨が変動相場制に移行した1973年3月の水準を100とし、数値が大きければ円高、小さければ円安を示す。15通貨の割合は貿易額に応じて加重平均し、物価上昇率も加味して算出する。円・ドルなど単純な2国間通貨の相場よりも、円の実力を正確に反映しているとされる。>

 毎日新聞の記事を引用しよう。

 実は、5日夕刊時間帯に間に合う日銀の発表だったらしいのだが、オバマ当選紙面を作成したために、日経を除く各社は5日夕刊にこの記事を入れていない。

 なおかつ、日経は物価格差を考慮しない「実効為替レート」を中心に書いているので、見出しも<10月の実行為替レート/8年ぶり円高水準/金融危機で独歩高裏付け>とイケイケドンドンの見出しになったのが残念だった。せっかく3面4段扱いで2000年からの推移を実質実効レートと名目実効レート双方を折れ線で記したグラフまでつけていたのに、これでは読者に誤解を与えないか。

 その点、毎日新聞の記事は半日遅れたものの、<3年ぶり円高水準/10月実効レート/市場より進まず>と、外為市場との対比を見出しにとって、見かけよりも落ち着いていることを表わしていた。

 他紙はボツかメモ。あれだけ「円高だ! どうする!」と騒いでおいて、それはないだろう。今回は毎日新聞の良心的な姿勢が目立った。筆者は斉藤望記者だった。

 毎日記事の引用である。

 <10月は、金融危機が深刻化し、米欧よりも危機の影響が相対的に軽微な日本の円が買い進まれた。円相場は10月24日に一時、1㌦=90円87銭と95年8月以来、13年ぶりの円高水準に急騰したほか、ユーロなどに対しても上昇して、円が独歩高の展開となった。>

 <ただ、実質実効レートでは、1㌦=110円前後だった05年8月と同じ水準で、95年8月の実質実効レート(145.9)と比べれば約3割も円安水準だ。日本はデフレが続いていたのに対し、米欧は物価が上昇した分だけ日本のモノやサービスが相対的に安くなり、実質的な円安効果が働いたからだ。このため、「実際の円相場ほど輸出産業への打撃は大きくない」(第一生命経済研究所・熊野英生氏)との指摘も出ている。>

 たしかにトヨタなど自動車産業の利益率見通しの修正は大きい。だが、利幅は薄いものの、原油高で商社は四半期で軒並み増益だし、いいこともあるのだ。問題は、今のうちに、間に合ううちに日本経済の構造を転換するという大転換、パラダイムシフト政策を実行できるかどうか、である。

◆実体経済への波及の問題

 どうも世界金融危機は金融という世界だけでなく、グローバルな実体経済にジワジワと、まるでボディーブローのように影響し始めているようだ。

 11月6日毎日新聞朝刊コラム[世界の目]でフアン・ソマビア国際労働機関(ILO)事務局長が<信頼回復し実体経済を救おう>のタイトルで危機感を表明している。ソマビア氏によると、ILOの予測では2009年末までに失業者は2000万人増え、世界全体の失業者は初めて2億人を超える。その上、1日1㌦未満で暮らす労働者は4000万人、1日2㌦で暮らす人々は1億人以上も増加する、という。

 これらの問題への対策は①年金の保護や失業保険、中小企業向けの貸し付けなどによる弱者支援②まじめに働く人々や企業に報いる公共政策の制定③実体経済に資金を供給するという金融本来の機能の回復④グローバル化の過程で生まれた、貧困や社会的な不平等の解決――などで、「労働者と生産性を救うことが実体経済の救済にほかならない」と言うのだ。

 ILOだから、視点が「労働と人間」に偏っているのは仕方ないが、

 <今必要なのは労働者と実体経済の救済策だ。つまり、『働きがいのある人間らしい仕事(ディーセント・ワーク)』と生産性の高い企業を生み出せるような政策だ。生産性と給与、成長と雇用を結びつけ、経済が人々のために機能しているのだ、という信頼を取り戻さなければならない。>

 <人々は現在の生活や将来を、今の仕事を通じて判断するものだ。「働きがいのある人間らしい仕事」を持ちたいという人々の要求に応じることが今、かつてないほど求められている。>

 という見方は正しいと思う。

 ただ、なかなかそうはいかないのが問題なだけだ。この人も「多国間の枠組みを作れ」と言うのだが、仏作って魂入れず、では仕方ないので…。

 産経新聞11月6日朝刊経済面に共同通信電で「米企業の人員削減11万人超」の見出しの記事があった。米主要企業が10月に発表した人員削減計画が前年同月比79%増の11万2884人に達し、2004年1月以来の高い水準となった、と。米人材サービス会社チャレンジャー・グレイ・アンド・クリスマスのまとめで5日分かった。前月からは19%増加した。削減数トップは金融業会の約1万8000人、次いで自動車業界の1万5700人だ、という内容である。これも早速現れた実体経済への影響だろう。

 日経新聞11月6日夕刊3面には<ビッグ3、事業半減なら/米失業250万人>の共同通信の記事が掲載されていた。ビッグ3の米事業規模が破綻などで半減されると、関連産業などを含め、全米で1年間に計250万人近い労働者が職を失うという推計を米非営利組織の自動車研究センターが出した、という内容だ。担当者は「3社のうち1,2社が操業停止になることはありうる」とコメントした、という。記事ではないが、この時には「米経済に激震走る」だろうなぁ。

◆新パラダイムで、ゲゼ社員に駆逐されるゲマ社員の復権はなるか?

 このILOのおじさんの話に少し関連するかどうか、日経新聞11月6日[ひと]面の[サラリーマン生態学(いきざまがく)]で昨夏の江波戸哲夫さんがテンニエスの「ゲマインシャフトとゲゼルシャフト」という懐かしい本の話題を取り上げていた。

 <粗っぽくいえばゲマは(損得を勘定に入れず協力しあう社会)、ゲゼは(損得ずくで向き合っている社会)となろう。ゲマはお人よしの、ゲゼは計算高い社会といえる。>

 と、分かりやすい再定義をしてくれて、

 <普通の人間の感覚ではゲマが好ましいに決まっているが、近代化に伴いゲゼがどんどんゲマを侵食するという。昨今それが恐ろしいほど速度を上げている。お人よしが計算高い奴に駆逐されてしまうから、住みにくい世の中となり、あちこちに精神の不安定な人が出現することになる。>

 として、ゲゼの極致のような「アメリカ型金融」の大崩壊に話が及ぶ。

 <ゲゼはゲマにやられたわけではなく、自分でこけたのだ。アメリカ型金融の終焉などという人もいるが、証券化とレバレッジ(借金&投資)がなくなるとは思えない。>

 なるほど。

 <私はオフィスでゲマ社員がゲゼ社員を打ち負かす公式?を見つけ出したいのだが、それは例外的に優秀なリーダーの下に時々しか実現しないかもしれない。>

 という言葉は切実だが、江波戸さんのようにいろいろな企業の内実を知っている人の言葉だけに、きっとこの言葉の裏には多くの実例(ゲマがゲゼに打ち負かされる実例)があるのだろう。言葉が重い。でも、希望を捨てないのがいい。次のように言うのだ。

 <しかしゲゼの最終仕上げたらんとしていた成果主義が、あちこちで見直されているのは、「人の世はゲゼ一色に染まることはない」ことを証明している。大崩壊以降、変貌するだろうパラダイムの中にゲマをどれだけ復権できるだろうか?>

 人間の顔をした資本主義、とか、先ほどのILOおじさんの提言とか、みんな方向性はそっちを向いているとは思うのだが、障害が大きすぎるのかもしれない。その障害は見える障害だけでなく、各人の心の中にもあるのだが。

◆日本の国債発行→増発米国債購入は世界を救うか?

 今日のテーマ(と私が勝手に決めた)実体経済問題とはちょっと外れるかもしれないが、米国債購入問題を11月6日日経新聞夕刊コラム[十字路]で三菱UFJリサーチ&コンサルティング調査部長の五十嵐敬喜氏が書いていたので、メモしておこう。

 論としては単純である。つづめて書く。

 <世界的に金融と実体経済との悪性スパイラルが止まらなくなれば、恐慌に行き着きかねない。悪循環の原動力は信用収縮と家計による債務圧縮だ。>

 <自己資本が減った金融機関が経営の健全性を維持するために与信を押さえ込めば、実体経済の首が絞まる。実体経済が悪化すると不良債権がさらに増加し、信用収縮が一層加速する。>

 <一方、家計は住宅価格の上昇をテコに支出(消費と住宅投資)を拡大させてきた。その結果、債務残高対総貯蓄(キャッシュフロー)比率は40年分に達している。10年前には15年分だった。家計が消費を抑えて(キャッシュフローを増やし)債務の返済を進めるインセンティブは高い。>

 日本のことかと思って読んでいたのだが、どうもこれはアメリカ経済の話らしい。

 <そこで、金融機関の収益悪化を止めるために銀行が保有する不良債権を買い取ってオフバランスする必要がある。家計の債務調整が避けられなければ、減税などでサポートすべきだ。>

 <これらの施策には金が必要だ。国債を増発しても金融と実体経済の悪循環を回避することは、米国だけでなく世界経済全体の利益だ。>

 <そう考えれば、増発される米国債の一部を日本が引き受けることは国益にかなう。>

 ねぇ、やっぱり米国経済の話だった。

 <具体的には外貨準備の運用額を増やす、つまり、ドル買い介入をする。買ったドルで米国債を保有する。「魅力ある商品性と引き換えに何年間かで数千億㌦購入する」というコミットをすれば、ドルの急落防止にもなる。>

 という思い切った提案である。何か「逆張り」という言葉をふと思い出した。結論で言えばアメリカは国債を増発し、日本は増発国債を買う、という提案だ。その理由などを詳しく書いているから、これだけ長い文章になる。

 どうでしょう、こういう話は?

 きっと反対論が出て、侃侃諤諤の議論が起きる話なんだろう、と思うのだが…。経済学的な是非は分からないが、何か「世界金融危機が大変だから、衆院総選挙は今できない」と言った麻生さんの論理のような臭さを感じないでもない。だって、日本は米国債をこれだけ持っているのだから。もっと買えと言うのかよ、というのが普通の反応だと思うのだが。

 最近は「反米ナショナリズム」っぽい言説が幅をきかせている。こういう「帝国の犬」と見間違えられそうな”勇気ある提言”を目にした、そそっかしい奴は「けしからん。米国の犬め!」と叫びかねない。反米を叫んでいるほうが格好いいし、ストレス解消になるしね、私もたまに、頭にきたときなど、「反米、反スタ」なんて言ってみたい時もあった。

◆アジアとの連携論~円・元経済圏という壮大な夢を見ているのかいないのか?

 この五十嵐説への反論ではないが、逆の向きの提言として面白かったのが、これも日経新聞11月7日朝刊[経済教室]の福田慎一東大教授の<金融危機下の日本経済/アジアとの連携に活路を/着実に成長力を強化/独自の経済圏経世に貢献>だった。

 福田氏は1960年生まれ、東大卒、エール大学経済学博士。専門はマクロ経済、金融、とあった。

 前文というか[ポイント]は①金融危機、世界の実体経済にも深刻な影響②日本の米国依存の輸出構造は大きく変容③危機の影響軽微なアジアの成長取り込め。

 このポイントに言い尽くされている、と思うので、また、気に入った文章だけ、サマライズしてメモしておこう。

▽今回の危機は徐々に世界各国の実体経済にも深刻な影響を及ぼし始めている。実体経済は金融・資本市場のように一瞬で大きな変化があるわけではないが、危機の進行はボディーブローのように実体経済をむしばみ、やがて雇用悪化や消費低迷といった深刻な事態をもたらす。

▽世界貿易量は飛躍的増加。世界の輸出額は最近の5年間だけでも約2.6倍に増加した。

2000年代初頭に6%程度だった中国向けの輸出シェアは昨年15%を突破。2000年代に入ってからのアジア向け輸出のシェアの増加は、中国向け輸出によるところが大きい。02年以降の外需主導の日本の景気回復は、中国向け輸出が大きく貢献した。

▽昨年来、円の対ドル相場は円高となっている。10月は円は対ユーロでも大幅に上昇、各国の為替レートを相手国・地域間への輸出ウエートで加重平均した実効為替レートでみても円高が進んだ。だが円高が始まった07年1月以降で見ると、物価の影響を考慮した実質実効為替レートは、円ドルレートほどには円高になっていない。こうした実質実効為替レートの動向は、アジア向け輸出が中心となる中、アジア諸国とのインフレ格差に加えて、人民元などの為替レートが他通貨ほど円高に振れなかったことを反映している。

日本のアジア向け輸出品の中には、日本企業が中間財をアジアに輸出し、そこで加工されて米国市場で販売されるケースも多い。このため、米国経済がさらに悪化すればアジア向け輸出といえども、これまでのような順調な伸びが期待できるかどうかは予断を許さない。だが、他の地域に比べ、アジア地域の修正は比較的小さい。今回の金融・資本市場の動揺がアジア市場に与えた影響はデカップリング(非連動)とまではいかないが、欧米に比べると小さかった。

アジアの域内貿易のウエートは経済統合が進んだ欧州の域内貿易よりも大きくなったとの指摘もある。今日、アジア地域は欧米と異なる独自の経済圏を徐々に形成しつつある、といえる。

▽米国にすぐに巨額資金が流入し米国経済が力強い成長を回復するとは思えない。人口減少が見込まれる日本の国内市場の拡大も大きくは望めない。幸い、近隣アジア諸国は危機の影響を限定的にしか受けていない。日本は従来以上にアジア諸国との経済連携を進め、世界経済の難局をアジア経済圏の発展を通して乗り切る視点が重要だ。グローバルな実体経済が悪化する中、アジアとの連携強化は日本が今後成長を持続させる上で見逃すことのできない活路だといえる。

 私は「米国債を買え」という提言よりは、こっちの提案に乗りたくなるのだが…。

|

経済・政治・国際」カテゴリの記事

トラックバック

この記事のトラックバックURL:
http://app.f.cocolog-nifty.com/t/trackback/1078516/25104854

この記事へのトラックバック一覧です: 10月の円高は劇的ではなかった!!+世界の実体経済+米国債買え論+アジア連携論~各紙から:

» かしこく貰う失業保険完全攻略マニュアル [クエスチヨン]
社会保険労務士が教える雇用保険マニュアル ホームお申込みについて特定商取引について問い合わせ/資料請求 最終更新日, ほとんどの企業は終身雇用する気はありまん 失業するともらえる雇用保険受給資格者証 倍も違う会社都合退社と自己都合退社 なぜ失業保険完全攻略なのか 失業保険完全攻略マニュアル2008「ピックアップ」 雇用保険失業給付受給資格者のしおり「目次」 時間貧乏から時間富豪へ大変身 やめたら保険と...... [続きを読む]

受信: 2008年11月 7日 (金) 23時48分

コメント

コメントを書く



(ウェブ上には掲載しません)