政治団体が政治資金収支報告書の届出を行っている総務省(東京・霞ヶ関)。足を運べば誰でも閲覧は可能だ。インターネットでも公開しているが、9月公開のものはまだ掲載されていない
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昨年7月の参議院選挙で初当選した元陸自1佐・佐藤正久参議院議員(自民)の政治資金管理団体に、田母神俊雄・航空幕僚長や折木良一・陸上幕僚長ら制服組トップを含む7人の現職幹部自衛官が、計46万円の政治献金をしていたことがわかった。政治的中立を求めた国家公務員法違反の疑いがあるだけでなく、隊員の「政治的行為」を厳しく制限した自衛隊法に違反する可能性が極めて濃厚だ。政界が混乱する中、約4兆8000億円もの税金をつぎ込む国内最大級の役所・防衛省の「政治的中立」は崩壊寸前だ。
【Digest】
◇「さとう正久を支える会」資金報告書
◇献金者リストにあった2人の幕僚長
◇7人の自衛隊高級幹部が続々寄付
◇うち4人は自衛隊官舎住まい
◇「現職隊員が献金だなんて絶対にあり得ない」
◇自衛隊法61条「政治的行為の制限」
◇あいまいさを残す自衛隊法の解釈
◇ゆらぐ自衛隊の「政治的中立」
◇結びつく、旧軍-自衛隊-佐藤議員
◇「さとう正久を支える会」資金報告書 9月12日、2007年政治資金収支報告書(総務省届け出分)が一挙に公開された。昨年の参議院選挙で初当選した元陸自1佐・佐藤正久氏の資金管理団体「さとう正久を支える会」(代表・佐藤正久氏、新宿区市谷本村町)の報告書も公開された。
公開された政治資金収支報告書を閲覧するため、筆者は9月下旬、総務省3階にある政治資金課を訪れた。佐藤議員の報告書だけを見たかったわけではない。毎年の恒例行事、ルーティーンワークの一環のつもりだった。
佐藤正久議員が代表を務める政治資金管理団体「さとう正久を支える会」が今年3月17日付で提出した報告書によれば、2007年の総収入は1億3122万9439円。うち、政治資金パーティーや書籍販売事業による収入が5086万755円。政党支部や政治団体からの寄付が3900万1418円。個人の寄付が4136万7266円となっている。
この4000万円あまりの個人献金のうち、計約1000万円、およそ90人分については、氏名・住所・職業・金額・日時が記載されている。残りの約3097万円分の内訳は記載されていない。
これは、通年で5万円以下の個人献金については記載義務がない、という政治資金規正法の規定による。3000万円の匿名の個人献金ということになると、仮にひとり5万円ずつを献金したとして600人以上だ。この人たちの氏名・職業はわからない。
もっとも「支える会」の報告書に記載された約90人の献金者の中にも5万円以下の例は多数ある。総務省によれば、これは税金の控除を求めた場合か、あるいは自主的に記載したものだという。
◇献金者リストにあった2人の幕僚長 個人献金者のリストは何ページにもわたっていた。1億3000万円もの資金は公務員の給料ではとてもまかなえないだろう。選挙というのはカネがかかるものだな、などと感心しながら見ていく。
そのうちに見覚えのある名前が登場してきた。寺島泰三(元統合幕長会議議長)、志摩篤(元陸上幕僚長)、森勉(前陸上幕僚長)、西元徹也(元統合幕僚会議議長)――自衛隊高級幹部のOBたちだ。
リストも後半に差し掛かったころ、ある名前のところで目が留まった。
田母神俊雄・東京都目黒区…公務員――とある。イラク派遣の違憲判決の際に「そんなの関係ねえ」などと発言して物議をかもした現役の航空幕長の名前だ。MNJでも、先刻、自衛隊機を独占した豪華出張ぶりについて疑問を投げかける記事を掲載したばかりだった。
献金の日付は2007年6月7日。参議院選挙投票日の1ヶ月ほど前だ。この日、田母神氏は「さとう正久を支える会」に10万円を寄付した、と記載されている。
現職の空幕長が特定の候補に政治献金していたとは、予想だにしなかった。自衛隊員の政治活動は厳しく制限されていると聞いている。
何かの間違いだろうか。いぶかしく思いながらリストを点検してみると、別の名前が見つかった。
折木良一・東京都世田谷区・公務員――現役の陸上幕僚長だ。折木陸幕長の献金は昨年6月8日、8万円。
「公務員」と記された献金者は、まだいた。
◇7人の自衛隊高級幹部が続々寄付 佐藤議員の収支報告書に記載された「公務員」は、全部で8人を数えた。
①田母神俊雄(東京都目黒区) 2007年6月7日=10万円
②折木良一(東京都世田谷区) 2007年6月8日=8万円
③佐藤次郎(帯広市南町) 2007年5月31日=6万円
④菅野茂(多賀城市高崎) 2007年6月1日=10万円
⑤丹羽浩之(広島市安芸区) 2007年6月13日=10万円
⑥妻鳥元太郎(佐世保市祇園町)2007年6月19日=1万円
⑦飯尾俊政(横須賀市池田町) 2007年6月19日=1万円
⑧Y (武蔵野市御殿山) 2007年6月5日=1万円
(敬称略)
このうち⑧のY氏については、後に本人に確認したところ、収支報告書には「公務員」となっていたものの、筆者には「公務員ではない」と語った。ひとまず検証対象からはずす。
Y氏を除くと、問題の「公務員」は7人となる。田母神空幕長と折木陸幕長以外の、5人の所属が気になる。
手がかりを得るため、新聞のデータベースで調べてみることにした
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自らが代表を務める資金管理団体が現職幹部自衛官の献金を受けていた、元陸自1佐の佐藤正久・自民党参議院議員(右)。自衛隊の行事には頻繁に顔を出し、隊員を前に話をしている(2006年11月、海上自衛隊佐世保基地) |
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制服の幹部自衛官と酒を酌み交わす佐藤正久参議院議員(右)。自衛隊の政治的中立を疑わせる光景だが、佐藤議員のHPには、同様の写真が多数掲載されている(佐藤議員のHPより) |
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旧陸軍の将校クラブにルーツを持つ(財)偕行社との関係強化を陸自全部隊に指示した折木良一陸上幕僚長の通達。これによって、旧軍と自衛隊は、事実上、手をつないだに等しい関係となった |
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