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社説2 田母神空幕長の解任は当然(11/3)

 田母神(たもがみ)俊雄航空幕僚長の解任は当然である。

 自衛官が心のなかでどのような思想・信条を持とうと自由だが「日本が侵略国家だったとはぬれぎぬ」とする田母神氏の論文はウェブ上で公開されている。内容は政府見解に反する。放置すれば、政治家による軍の統制(シビリアンコントロール)に抵触する結果にもなったろう。

 田母神氏を最優秀賞にした懸賞論文を企画した企業のウェブサイトには田母神氏を空幕長であると明記している。浜田靖一防衛相が「政府の見解と大きく異なり、不適切だ」と語り、麻生太郎首相が「もし個人的に出したとしても今は立場が立場だから適切じゃない」と述べ、解任したのは、適切な判断である。

 昨年の守屋武昌前次官の汚職、海上自衛隊の一連の事件、事故など防衛省の各組織内で不祥事が続くなかで航空自衛隊だけは、最近は大きな問題が起きていなかった。内部では「空自の最大の問題は空幕長」と冗談まじりで語られていた。

 田母神氏は過去にも周囲を心配させる言動を重ねてきた。名古屋高裁がイラク派遣部隊の多国籍軍兵士輸送を違憲と判断をしたのに対し「そんなの関係ねえ」とタレントのギャグを使って反応した。東大五月祭での討論に招かれて参加し、やはり防衛省の首脳部を心配させた。

 田母神氏にすれば、今回の論文を含めてすべてが自身の信念に基づくものなのだろう。

 三自衛隊には四文字熟語を重ねてそれぞれの体質を冷やかす表現がある。陸は「用意周到・優柔不断」、海は「伝統墨守・唯我独尊」、空は「勇猛果敢・支離滅裂」がそれである。これが当たっているとすれば、田母神氏は典型的な航空自衛官だったのかもしれない。

 田母神氏は空自のエリートコースである戦闘機パイロット出身ではない。同期には「将来の空幕長・統合幕僚長」ともいわれたパイロット出身者がいたが、なぜか失速した。このために本来は適格とは思われていなかった田母神氏が選ばれた。

 守屋前次官が権勢を振るっていた時代である。防衛省史には今回の騒動も守屋時代の負の遺産と書かれるのだろうか。

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