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【主張】空自トップ更迭 歴史観封じてはならない
航空自衛隊の田母神俊雄幕僚長が、先の大戦を日本の侵略とする見方に疑問を示す論文を公表したとして更迭された。異例のことである。
田母神氏の論文には、日本を「蒋介石により日中戦争に引きずり込まれた被害者だ」とするなど、かなり独断的な表現も多い。
さらにそうした論文を公表すれば、インド洋での給油支援を継続するための新テロ対策特措法の国会審議などに影響が出るのは明らかである。政府の一員としてそうしたことに配慮が足りなかったことは反省すべきだろう。
だが第一線で国の防衛の指揮に当たる空自トップを一編の論文やその歴史観を理由に、何の弁明の機会も与えぬまま更迭した政府の姿勢も極めて異常である。疑問だと言わざるを得ない。
浜田靖一防衛相は、田母神氏の論文が平成7年、村山富市内閣の「村山談話」以来引き継がれている政府見解と異なることを更迭の理由に挙げた。確かに「村山談話」は先の大戦の要因を「植民地支配と侵略」と断じており、閣議決定されている。
だが、談話はあくまで政府の歴史への「見解」であって「政策」ではない。しかも、侵略か否かなどをめぐってさまざまな対立意見がある中で、綿密な史実の検証や論議を経たものではなく、近隣諸国へ配慮を優先した極めて政治的なものだった。
その後、談話を引き継いだ内閣でも新たな議論はしていない。このため、与党内には今も「村山談話」の中身の再検討や見直しを求める声が強い。田母神氏の論文がそうした政府見解による呪縛(じゅばく)について、内部から疑問を呈したものであるなら、そのこと自体は非難されることではないはずだ。
政府としては、参院での採決の時期が微妙な段階を迎えているテロ特措法や、来月に予定されている日中韓首脳会談への影響を最小限に抑えるため、処分を急いだとしか思えない。
テロ特措法の早期成立も中国や韓国との関係も重要である。しかし、そのために個人の自由な歴史観まで抹殺するのであれば、「言論封じ」として、将来に禍根を残すことになる。
むしろ今、政府がやるべきことは「村山談話」の中身を含め、歴史についての自由闊達(かったつ)な議論を行い、必要があれば見解を見直すということである。