2003年9月26日(金) 東奥日報 特集

断面2003

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■ 巨人の原監督辞任/監督交代は人事異動?

 巨人の原辰徳監督が辞任した。三年契約の初年度の昨年、いきなり「日本一」になった四十五歳の若手監督の早すぎる退任だ。辞任の背景には読売新聞グループ本社社長でもある渡辺恒雄オーナーが球団に送り込んだ新代表との確執があった。原監督は、オーナーの独裁体制に反旗を翻す形でユニホームを脱ぐ。日本で最もファンの多い球団の監督交代を、渡辺オーナーは「読売グループ内の人事異動」と言い放った。

 ▽現場介入

 中日に2−19と大敗するなど二十八年ぶりとなる9連敗を喫した九月十五日からの名古屋遠征。「何故、あそこで」「どうして彼を」−。関係者によると、三山秀昭代表は選手の実名を挙げ、原監督のさい配に注文を付けた。

 読売新聞時代に政治部長などを務めた三山代表は、渡辺オーナーの懐刀として九月九日に巨人に送り込まれたばかり。阪神優勝に沸き立つ球界で、来季の巻き返しを期していた巨人の指揮官は、わずか一週間前に球団代表になったばかりの「野球の素人」である新参者から、かつて経験のない屈辱を受けたという。

 会見で原監督は辞任を固めた時期を問われ「名古屋で9連敗した、その夜」と告白した。

 ▽辞表の引き金

 来季のコーチングスタッフ編成でも、三山代表を中心としたフロントが人選を進めようとしていた。チーム再建に、なんら主導権を与えられない原監督の胸中に、疑問、むなしさ、悔しさが募り、不信感が増幅していったと関係者は言う。

 そして東京ドームでの今季最後の公式戦となる阪神との3連戦を前にした十八日に、原監督を衝撃的な行動に走らせる「引き金」となるコメントが出た。

 渡辺オーナーは、来季続投を基本方針としながらも、阪神3連戦に「3連敗したら話は別だ」と発言した。一方で、三山代表も持論を展開した。「契約が残っていたら全部やるんですか。(契約途中で中日を解任された)山田監督はどうでしたか」

 監督就任時から「ジャイアンツ愛」と言ってはばからず、巨人への忠誠を純粋に誓ってきた男も、オーナーや代表にここまで軽んじられて“切れた”ようだ。フロントに介入、干渉され、プロ野球人としてのプライドも踏みにじられたと感じたはずだ。

 名古屋の夜以来、積み重なった不信感が一気に噴出した。新聞各紙が三山代表発言を掲載した十九日、東京・大手町の読売新聞東京本社を訪ねて原監督は渡辺オーナーに辞表を提出したという。

 ▽カネも口も出す

 来季の続投方針を決めていた渡辺オーナーは突然の辞表提出に驚き、球団首脳を中心に慰留を開始した。だが原監督は、さわやかイメージとは裏腹に、頑固だった。それだけ、球団に対する不信感が強かった。

 お家騒動が茶飯事だった阪神は、今季、フロントを改革して星野仙一監督を助け、久しぶりに優勝した。しかし、日本球界をリードする立場にある巨人が、いまだに本社−球団−現場の分業体制を確立できないでいる。

 元巨人の名選手で、監督としてヤクルト、西武を日本一にした広岡達朗氏は「カネを出すのがオーナー、球団を取りし切るのがフロント、チームを勝たせるのが監督。日本では、まだこの分業体制ができていない」と批判する。

 渡辺オーナーはカネも出せば口も出す。その権威を借りたフロントが監督の仕事にまで干渉する。原監督の辞任は、依然として近代化されない日本のプロ野球の実態をあらためて明るみにした。次期監督に決まった堀内恒夫氏も、二つ返事での受諾ではなかった。ここでも「現場とフロントの関係」が監督就任の争点になったという。



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