世界で主導権、チャンス逸す
「リーマン破綻は、ともすれば金融システム全体が爆発する誘爆装置になりかねない。政治として不安をあおるのはもちろんよくないが、しかし備えは必要だ」
そう感じた民主党の政調副会長である大塚耕平は、政調会長の直嶋正行と連絡を取り、党として対応すべきとの認識で一致した。リーマンが破綻した翌16日に「金融対策チーム」を発足させ、大塚が座長に就いた。このほかメンバーには外資系証券出身の参院議員の大久保勉や、金融庁出身の衆院議員の大串博志ら、金融に明るい若手が加わった。
メンバーは、ほぼ毎日顔を合わせた。時には国会図書館に金融庁など関係省庁から責任者を呼んで対応策作りを急いだ。10月10日、対策チームがまとめた対応策を党に伝える際も、「『説明』という悠長なものではなく、『必ずやる』ことを前提とした」と大塚。
その内容は、地方銀行や信用金庫などの経営基盤強化のため、公的資金の投入ができるようにする「金融機能強化法」を2年間の時限措置として復活する。また、中小企業対策のため10兆円の特別保証枠を準備するといったものとなった。
今、代表代行の菅直人ら民主党の“古株”には、複雑な思いが去来していることだろう。98年の金融国会における金融再生関連法案を巡っては、政策で勝って政局で負けたとも言われるからだ。
法案成立に向け、自民党は民主党に協力を求めた。当時民主党代表だった菅は、民主党案を自民党サイドに丸のみさせることを条件にして、自民党の要請に応じた。
これを見た小沢一郎が、「せっかく菅直人政権が誕生するところだったのに」と、当時漏らしたのを聞いた人物もいる。民主党は98年の轍を踏まぬよう、まず具体的な政策を作って政権担当能力を示しておく。そして自民党を解散・総選挙へと追い込んでいく考えのようだ。
もっとも、自民も民主も次の政権に固執するあまり、視野が狭くなっているとの見方もある。事は、世界経済を巻き込んだ金融危機。その舞台で、自民あるいは民主が主導的立場を取ることで、日本の有権者に政党としての信頼感を示す戦略もあっていいだろう。
90年代以降、日本は失敗を繰り返しつつ金融危機を乗り切った経験がある。おかげで今、金融の傷は浅い。日本はサミット(主要国首脳会議)の議長国でもある。来るべき金融危機に対応する緊急首脳会議では、米仏ではなく日本が主体的に関与する道もあったはずだ。
=文中敬称略
日経ビジネス 2008年10月27日号8ページより