赤いポロシャツでゴルフ
そこに舞い込んできたのが、赤いポロシャツを着た新首相の映像だった。ダウ暴落から5日後、首相は横浜市のゴルフ練習場でレッスンを受け、それをマスコミに公開した。先の民間エコノミストの1人は天を仰いだ。
「数日後にはG7(主要7カ国)財務相・中央銀行総裁会議が開かれる。あれ(ゴルフをする姿)では、金融危機に直面している米欧諸国の神経を逆なでしかねない」
ゴルフが象徴する首相の危機感の薄さと言えば、2001年2月の出来事が想起される。ハワイ沖で米原子力潜水艦と水産高校実習船との衝突事故が起きた。当時の首相、森喜朗はゴルフを続行し、低迷する内閣支持率をさらに下げたことがある。翌月、森は退陣を表明することになった。
与謝野に麻生。国民に必要以上の不安感を抱かせまいとするパフォーマンスだとしても、どこかしっくりこない。
なぜなら金融システム安定化という、政府と共通の目標を持つ日本銀行は全く違う対応を取ったからだ。米国市場を2度目の激震を襲った頃、総裁の白川方明は深夜に緊急会見を開いてまで、「米ドル資金市場の流動性は、ほぼ枯渇した状況」と広く危機感を促す発言をしている。
ゴルフ翌日の10月5日以降、ようやくエコノミストやデリバティブの専門家らが官邸に対し非公式に説明を始める。金融危機に陥りつつある世界の現状を聞きつつ、G7会議を目前に控えた官邸は強い危機感を抱くようになったとされる。