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《東京国際映画祭:星取りレビュー》「ブタがいた教室」(★★★☆☆)

2008年10月22日

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写真(C)2008「ブタがいた教室」製作委員会

■育てたブタを食べる約束は…

 学級でブタを飼って、最後に食べて命の貴さを学ぼう。90年代初め、大阪の小学校で実際にあった試みを映画化した。

 6年2組担任の星先生(妻夫木聡)は「命を育てることを、体で感じてほしい」と、最後に食べる約束で子ブタを飼うことを提案する。児童26人は、ブタを「Pちゃん」と名付ける。給食の残りや家庭の残飯を集めてエサにし、雨の日も風の日も世話をする。

 卒業を間近にして、愛着のわいたブタを本当に食べるのかと、決心が揺らぎ出す。では、どうするか。白熱した学級会の様子が、この映画の最大の見どころだ。

 「もう仲間だから、食べられない」「ブタは食べられるために、生まれてきた」「約束だから食べるべきだ」「他のブタや動物ならいいのか。命に変わりはないはずだ」「命の長さは誰が決めるのか」と収拾はつかない。下級生に引き継ぐか、食肉センターに送るか多数決をとるが同点。最後は担任の1票で、食肉センター送りへ。議論中、子どもたちが流した涙は本物に見え、映画に迫真の力を与えた。

 15年以上前の話を今、映画化するならば、ブタを食肉センターに見送って以後、子どもたちの心に何が刻まれ、何が残されたのかを、監督の想像力と感性で描いてほしかった。「最後に食べる」といって飼い出したのに、その全員でかわした約束を全員で破った。その大事なテーマに対する子どもたち一人ひとりの心の決着はついていない。ペット気分でブタを飼い、手に負えなくなってブタの命を放り出すはめになった心の痛みは、年月と共にじわりとこたえてくるはずだ。

 子どもは大人の鏡、学校は社会の縮図であることを映画は映し出す。今年のカンヌ映画祭の最高賞パルム・ドールを受賞したのは、学級崩壊寸前のフランスの高校を舞台にした「クラス」だった。人種の違う生徒同士の摩擦や教師の暴言に傷つく女子、暴力をふるった報いを受ける男子らを映した。心の内面にカメラを向け、一見して劇的場面のない教室内の映像だが、審査員のジャンヌ・バリバールは「(コンペ作品中)最も残酷な映画だった」と述べた。

 一様に「いい子」ばかりの学級に放り込まれた「異物」のPちゃん。そのPちゃんに対して放たれた子どもたちの意見は、誠実で真摯なものだが、空恐ろしくもある。どうか、この手の言葉の矢が人間に向けられませんように。(アサヒ・コム編集部 宮崎陽介)

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