海上自衛隊によるインド洋での外国艦船への給油活動を延長する新テロ対策特措法改正案が、衆院特別委員会で可決された。21日に衆院通過後、参院で否決されるが、今月末にも衆院の「3分の2」による再可決で成立する運びだという。
特別委での実質審議はわずか2日間だった。新テロ特措法は昨秋、衆院特別委の質疑だけで10日間を要し、給油問題が安倍、福田両政権を退陣に追い込む大きな要素だったことを考えれば、うそのようなスピード審議である。
改正案に反対する民主党が、衆院解散の条件整備のため早めの処理を求めたからだ。私たちは、早期の総選挙を主張しつつも、自衛隊を海外派遣する法案を解散の駆け引きの材料にする民主党の態度は本末転倒であると批判してきた。
与野党の「政局」本位の動きを反映したのだろう。案の定、特別委の審議に深まりはなかった。
アフガニスタンと「テロとの戦い」をめぐっては最近、少なからぬ情勢の変化が起きている。
アフガン国内の治安は、旧支配勢力タリバンの攻勢や反米機運の広がりで悪化の一途をたどり、北大西洋条約機構(NATO)主体の国際治安支援部隊(ISAF)の死者は累計で1000人を超えようとしている。一方で、アフガンのカルザイ政権とタリバンが、サウジアラビアの仲介で対話を模索する動きもある。
隣国のパキスタンでは先月、米国と歩調を合わせてきたムシャラフ政権に代わってザルダリ政権が発足した。新政権は、勢いづく反米勢力や、イスラム教徒が大半の国民世論に押されて微妙な立場に立たされている。同国は最大の洋上給油対象国となっている。
そして、来月に大統領選を控える米国は、イラクからアフガンにシフトし、アフガンに戦闘部隊を派遣していない日本などにアフガン軍の増強目的で約170億ドルの拠出を求め、アフガン本土での人的貢献を期待する声も出ている。
インド洋での給油活動もテロ包囲網の選択肢の一つには違いない。しかし、新たな情勢下でも、引き続き給油の継続は必須なのか。また、給油活動だけで十分なのか--。特別委での論議は上滑りに終わった。
さらに、給油を受けた外国艦船の活動について、浜田靖一防衛相は作戦上の理由を根拠に具体的内容を明らかにしなかった。昨年、提供燃料の転用疑惑が問題になったにもかかわらず、答弁を回避するのは説明責任を放棄した態度と言わざるを得ない。改正案にない「国会承認」の議論も不十分だった。
参院での審議でこうした論点が明確にされるよう求める。同時に、与野党が鋭く対立する重要法案は、国民の信を問うたうえで新しい与野党が合意を目指すのが本来の姿であることを改めて強調しておきたい。
毎日新聞 2008年10月21日 東京朝刊