牧太郎の大きな声では言えないが…

文字サイズ変更
ブックマーク
Yahoo!ブックマークに登録
はてなブックマークに登録
Buzzurlブックマークに登録
livedoor Clipに登録
この記事を印刷
印刷

牧太郎の大きな声では言えないが…:ウソの礼儀?

 諸事情があって、“深く”はないが、それなりに付き合った女性と別れようと決意した--としよう。手短に、よんどころない理由を告げ「キミのことは忘れない」とつぶやく。「手短」でないとボロが出る。

 「忘れない」というのは100%ウソではない。楽しい思い出もあった。しかし、今はギクシャクしている。何よりも「次なるお相手」がいる。本音を言えばすべて忘れたい。

 女は女で「よく言うワ。新しい女ができたのに。こちらからお払い箱よ!」と達観しながら、うっすら涙ぐむ。

 男の「忘れない」も、女の涙もウソの礼儀。解決金が必要な時もある。

 しかし、同盟国アメリカの「忘れない」は礼儀知らずも甚だしい。北朝鮮に対するテロ支援国家指定を解除する。そんな時、いつもと同じように「拉致は忘れない」と言い放つ。ブッシュ大統領も、ヒル国務次官補も「ウソの礼儀」を知らないうつけ者だ。

 日本と別れる決意があるならまだしも、米国は決して別れないヒモのような存在だ。

 テロ支援国家指定解除とほぼ同時進行の金融パニック。幾つかのチャンネルで、米国は日本が保有する全外貨準備高に匹敵する莫大(ばくだい)なドルを融通してくれ!と頼み込んだハズだ。米国が韓国にリーマン再建の資金を求め、断られたのが9月9日。韓国金融監督委員会の全光宇委員長は韓国産業銀行に対し「リーマン株取得は現時点では極めて慎重に取り組まれるべきだ」と主張していた。それが、今回の世界同時株安の引き金。水面下で日本にも巨額な無心をしたことは想像に難くない。

 そんな間柄で「忘れない」? 「北とも仲良くするけど、お前さんとも変わらないからね。だから、ドルを融通して」とはヤクザなヒモでも言わないセリフだ。

 もっとも、日本もご同様。「ウソの礼儀」をわきまえない指導者が多くなった。名誉棄損の裁判を起こした元名横綱が「故意による無気力相撲」の定義を聞かれ「無気力相撲はない。病気やけがで(相撲が)取れない人は厳しく見られる」と訳の分からないことを言い続ける。ファンを納得させる言葉がない。名横綱はウソのけいこ不足?

 国政に目を転じれば「今すぐ解散」がウソだったり「出馬しない」が二転三転……ウソをつくのが弱い人間の常。ウソも方便。でも「ウソの礼儀」を大事にしないと……人間界は破綻(はたん)するぞ!(専門編集委員)

毎日新聞 2008年10月21日 東京夕刊

牧太郎の大きな声では言えないが… アーカイブ

 

特集企画

おすすめ情報