諸事情があって、“深く”はないが、それなりに付き合った女性と別れようと決意した--としよう。手短に、よんどころない理由を告げ「キミのことは忘れない」とつぶやく。「手短」でないとボロが出る。
「忘れない」というのは100%ウソではない。楽しい思い出もあった。しかし、今はギクシャクしている。何よりも「次なるお相手」がいる。本音を言えばすべて忘れたい。
女は女で「よく言うワ。新しい女ができたのに。こちらからお払い箱よ!」と達観しながら、うっすら涙ぐむ。
男の「忘れない」も、女の涙もウソの礼儀。解決金が必要な時もある。
しかし、同盟国アメリカの「忘れない」は礼儀知らずも甚だしい。北朝鮮に対するテロ支援国家指定を解除する。そんな時、いつもと同じように「拉致は忘れない」と言い放つ。ブッシュ大統領も、ヒル国務次官補も「ウソの礼儀」を知らないうつけ者だ。
日本と別れる決意があるならまだしも、米国は決して別れないヒモのような存在だ。
テロ支援国家指定解除とほぼ同時進行の金融パニック。幾つかのチャンネルで、米国は日本が保有する全外貨準備高に匹敵する莫大(ばくだい)なドルを融通してくれ!と頼み込んだハズだ。米国が韓国にリーマン再建の資金を求め、断られたのが9月9日。韓国金融監督委員会の全光宇委員長は韓国産業銀行に対し「リーマン株取得は現時点では極めて慎重に取り組まれるべきだ」と主張していた。それが、今回の世界同時株安の引き金。水面下で日本にも巨額な無心をしたことは想像に難くない。
そんな間柄で「忘れない」? 「北とも仲良くするけど、お前さんとも変わらないからね。だから、ドルを融通して」とはヤクザなヒモでも言わないセリフだ。
もっとも、日本もご同様。「ウソの礼儀」をわきまえない指導者が多くなった。名誉棄損の裁判を起こした元名横綱が「故意による無気力相撲」の定義を聞かれ「無気力相撲はない。病気やけがで(相撲が)取れない人は厳しく見られる」と訳の分からないことを言い続ける。ファンを納得させる言葉がない。名横綱はウソのけいこ不足?
国政に目を転じれば「今すぐ解散」がウソだったり「出馬しない」が二転三転……ウソをつくのが弱い人間の常。ウソも方便。でも「ウソの礼儀」を大事にしないと……人間界は破綻(はたん)するぞ!(専門編集委員)
毎日新聞 2008年10月21日 東京夕刊
10月21日 | ウソの礼儀? |
10月14日 | 株は必ず暴落する |
10月7日 | 亡国の親バカ |
9月30日 | 引退しない美学 |
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9月2日 | 辛抱は金の棒 |
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