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社説

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給油法案―もっと実のある論戦を

 インド洋での海上自衛隊の給油活動をさらに1年延ばす法案が、衆院の委員会で可決された。参院では否決される見通しだが、民主党が早々と採決に応じる方針のため、衆院の3分の2以上の多数でただちに再可決され、月内にも成立する可能性が高い。

 そんなゴールが最初から見えているためだろうか。2日間の委員会審議では、アフガニスタンの安定化や国際テロを抑え込むために国際社会はどうすべきなのか、日本がすべき貢献は何なのかといった本質論はあまり掘り下げられなかった。

 衆院ではせっかく民主党の対案も審議対象になったのだから、現状認識や外交論を戦わせる格好の機会だった。アフガンをめぐる現実をどう判断するかよりも法律の解釈論や防衛省の不祥事などに時間を費やし、PR合戦の印象すら漂ったのは不満である。

 与党側は、給油支援を憲法違反と否定する民主党の論理を取り上げた。小沢代表はかねて、国連のお墨付きがあれば憲法9条の制約は受けないという持論を展開している。ならば国連決議さえあれば、海外でも自衛隊は武力行使できるのかと迫った。

 小沢氏の理屈には党内にも異論がある。整理しきれていないところを突いたものだが、結局、民主党は法的概念が違うなどと抽象論を述べただけで、正面から答えなかった。

 また、民主党案が復興支援に自衛隊を出せるとしながら「抗争停止合意」を条件としているのは、事実上、何もしないに等しい、と畳みかけた。

 一方、民主党側は、燃料を補給した外国艦船の名前を明らかにするよう情報開示を迫ったり、格闘訓練中に海上自衛隊員が死亡した事故を取り上げたり、こちらは防衛省の隠蔽(いんぺい)体質をクローズアップする戦術をとった。

 アフリカのソマリア沖の海賊対策に自衛隊の艦船を派遣するというアイデアを出したりもした。まだ党としての正式な政策になっていないものだが、国際貢献に消極的と見られるのを避けようとの戦術なのだろう。

 補給の賛否を超えて、「テロとの戦いでわが国がどういう役割を果たすべきか」と問いかける場面もなかったわけではない。だが、それには例えば最大の給油先となっているパキスタンの政情不安など、この1年の国際情勢の変化を踏まえた議論が必要なはずだ。専門家を参考人に呼ぶなどの工夫すらなかったのはどうしたことか。

 いつまでに法案を採決するか、どう主張すれば総選挙で有利か。そんな内向きの思惑ばかりが前面に出すぎている。来年から日本は国連安保理の非常任理事国になるというのに、その役割にふさわしい国際的な視野に立った議論があまりに乏しい。参院ではもっと実のある論議をしてもらいたい。

不正経理―自治体への不信が募る

 会計検査院が政府の補助事業について12道府県の経理を調べたら、すべてで何らかの不正が見つかった。不正に処理された税金の総額は06年度までの5年間で10億円を超えるという。

 今回、調査されたのは北海道、青森、岩手、福島、栃木、群馬、長野、岐阜、愛知、京都、和歌山、大分の各道府県だが、ほかでも同じようなことが行われているのではないかと疑わざるをえない。自治体のずさんな経理はいまに始まったことではないとはいえ、あきれるばかりだ。

 不正の手口は、こんな具合だ。

 文房具などの架空の発注をして、商品は受け取らずに、支払った代金を業者に「裏金」としてプールしておく。役所の内部では「預け」と呼ばれている手法だという。

 そのほか、別の部署の公共事業費を流用してアルバイトを雇ったり、職員の出張旅費を関係の薄い事業の補助金から出したりしていた。

 今回の調査で最も多い1億3千万円の補助金の不正が見つかった愛知県では、業者にプールされていた裏金は2千万円にのぼる。私的流用は確認されておらず、多くはパソコンやプリンターなど業務に必要な物品の購入に充てた、と県は弁明している。

 だが、補助金が余ったのをいいことに、納税者の目を逃れて、勝手に使おうとしていた、と言われても仕方があるまい。こうした裏金はさらなる不正の温床になりやすい。検査院の指摘を機に県が調べたところ、出先事務所で300万円の使途不明金が見つかり、職員が横領した疑いも出てきた。

 愛知県は、2年前に隣の岐阜県で大規模な裏金づくりが発覚した後も、職員や伝票だけを調べて「不正はない」としてきた。今回、検査院は納入業者にもあたって不正を突き止めた。

 愛知県は弁護士ら第三者を入れた委員会を設置して調べ、不正の全容を解明するという。

 一方で、ほかの道府県では、出張旅費への流用などは不適切とは言えない、と主張しているところもある。だが、ことは税金にかかわることだ。すべての自治体が事実をきちんと調べ、どんな処理をしていたのか公表すべきだ。その際、愛知に限らず、外部の目を入れた調査が欠かせない。

 さらにこうした裏金を防ぐには、余った補助金を国に返せば自治体の得になるような仕組み作りも考えたい。

 地方分権の論議では、政府の補助金は減らし、自治体が自由に使える金を増やす方向で検討が進められている。

 不正経理問題は、この議論に冷水を浴びせかねない。地方が税源移譲を求めても、ルール通りに税金を使えないところには渡せないと言われれば、反論はむずかしい。まずは自治体がきちんと襟を正すことだ。

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