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野中広務 差別と権力 [著]魚住昭

[掲載]週刊朝日2008年10月3日号

  • [評者]永江朗

■「とんでもない日本」になるのか?

 本稿執筆時点ではまだ確定ではないが、どうやら自民党総裁=首相は麻生太郎ということになりそうだ。それでいいのか?

 かつて魚住昭『野中広務 差別と権力』の親本が出版されたとき、私はある書評で、これで麻生首相の可能性はなくなった、と書いた。自分の予知能力のなさには呆れる(もともとあると思っていなかったけれども)。

 なぜ麻生首相の可能性はないと思ったのか。それは本書の次の記述を読んだからだ。

〈自民党代議士の証言によると、総裁選に立候補した元経企庁長官の麻生太郎は党大会の前日に開かれた大勇会(河野グループ)の会合で野中の名前を挙げながら、

 「あんな部落出身者を日本の総理にはできないわなあ」

 と言い放った。

 麻生事務所は「地元・福岡の炭鉱にからむ被差別部落問題についての発言が誤解されて伝わったものだ」と弁明しているが、後に詳しく紹介する野中発言によると、大勇会の議員三人が麻生の差別発言を聞いたと証言しているという〉(文庫版三八五ページ)

 ここでいう総裁選は、二〇〇一年のもの。えひめ丸事件への対応をめぐってただでさえ評判の悪かった森喜朗首相が世間の非難を浴び、党の内外から退陣論をつきつけられて前倒しされたものだ(その森がいまやちょっとしたキングメーカー気取りなのだから、笑いすぎて腹の皮がよじれそうだ)。

 本書は単行本から文庫になり、何度も増刷されている。その間、訂正はない。麻生発言は事実と見ていいだろう。

 その軽薄な物言いをチャームポイントのごとくいう向きがあるが、麻生の部落差別発言は軽薄というよりも彼の人間性の深いところに根ざしたものだ。本書およびこの発言は、単行本発売当時もずいぶん話題になった。自民党の議員たちだって知らないはずはない。それでも彼らは麻生太郎を総裁に選ぶのか。

『とてつもない日本』は『とんでもない日本』のマチガイである。

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