グルジアの南オセチア侵攻に端を発するグルジア紛争は、国際社会を緊張させている。
グルジア軍排除を目的としたロシアの介入は、ロシアと米国、ユーロ諸国との関係を緊迫させ、“新冷戦”構造が生まれたとする見方も出てきている。
しかしながら、世界最大のエネルギー供給国であり、世界有数の投資国でもあるロシアを国際社会から締め出すことなど果たしてできるのだろうか。
ましてはっきりとした綻びが見え始めたグローバル経済にあって、ロシア排除など非現実的な話である。
だが、ロシアに対し原子力協定の調印を一時凍結した米国の動きは胎動を続けるエネルギービジネス、取り分けルネッサンス期にも喩えられる原子力ビジネスに深い影を落としている。
原子力ルネッサンス。
世界的に原子力ビジネスが活況だ。現在、世界では30カ国で439基の原子力発電所が稼働している(2008年1月現在)。発電過程での二酸化炭素(CO2)の排出量が他の電源より圧倒的に少ないこと、またその経済合理性の高さゆえ、原子力発電所の新規導入を予定している国、地域は20カ国以上に上る。
1978(昭和53)年以来、原子力発電所の新規着工がなかった米国でも30基以上の新規着工計画が進んでいる。脱原発を宣言していたドイツの政策の見直しに代表されるように欧州でも新規建設の動きが活発となっている。
まさにルネッサンスなのだ。そして、日本はどうか。
世界原子力機関(IAEA)関係者の証言が興味深い。
「実際に原子力発電所を建設し続けていたのは日本だけだ。少なくとも5〜6年は日本が世界の原子力ビジネスを引っ張っていくことになる」
この関係者が指摘する日本企業はズバリ東芝のことである。
イランにあった東芝現地法人に採用され、東京大学大学院で西洋政治思想史を学んでいたという異能の経営者、西田厚聰に率いられた東芝は、半導体とともに原子力を経営の柱に据え、次々と大胆な布石を打ってきた。
その初手が2006(平成18)年に6400億円の巨費を投じた米国原子力大手「ウエスチングハウス」(以下、WH)の買収であった。当時、西田がパソコン出身ということもあり、入札で最も高い値を入れ続ける西田に対し、社内からも、「値を吊り上げればいいというものではない。西田は原子力は素人だから・・・。本当に分かっているのだろうか」と危惧する声があちこちから聞こえてきたほどだった。
しかし、世界14カ国で34カ所の拠点を持ち、その国、地域で養ってきたWHのノウハウと信頼は絶大であった。それを見込んでの投資であった。
東芝にとって国内産業に過ぎなかった原子力ビジネスはWH買収によってグローバルマーケットに打って出、勝負する事業となった。原子力の世界でWHのナショナルフラッグの重みはある意味、西田の想像を超えてさえいた。
次の布石も素早かった。
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