iPS細胞をウイルスを使わずに作れたことで、再生医療の実現に向け課題が一つ解決した。安全面にはまだ課題が多いが、重要な「一歩前進」だ。
iPS細胞はがん化の危険が指摘され、危険を減らす研究が世界で進められてきた。山中伸弥・京大教授自身も、作成に使う4遺伝子のうち、がん化を招きやすい遺伝子(c-Myc)を使わず3遺伝子で作る方法を発表していた。ただ、これも3遺伝子をレトロウイルスで細胞に入れるため、ウイルスが染色体に入って遺伝子異常をもたらす危険が残っていた。今回はウイルスなどが染色体に入らず、より安全性が高いと期待される。
また、遺伝子を入れるのに使うウイルスは一般に長期保存が難しい。実験者に感染する恐れもある。米ハーバード大は、がんを起こす可能性の小さいアデノウイルスでiPS細胞を作ったが、ウイルスの扱いにくさは同様だ。今回の「プラスミド」はこうした扱いにくさがなく、一般の病院で使う際も管理しやすいという。
とはいえ「患者に移植して安全」というには、まだ課題が多い。
例えばiPS細胞から心筋細胞を作る場合、現状では心筋以外の細胞が混在し取り除けない。移植すると、この混ざった細胞が害をもたらす心配がある。心筋細胞だけを作る技術の開発が必要だ。
山中教授は「本当にがんにならないか臨床応用の前に確かめるのが必須。まだ課題は山積み」と話す。未解明の異常が生じる可能性が残っているという。【野田武】
毎日新聞 2008年10月10日 3時00分(最終更新 10月10日 8時38分)