ウイルスを使わないiPS細胞の作り方
山中伸弥・京都大教授
ウイルスを使わずに万能細胞(iPS細胞)を作り出すことに、京都大の山中伸弥教授らがマウス実験で成功した。がんになる恐れのあるウイルスを使わない作製法は世界で初めて。医療への応用をめざし、安全性を高める一歩と期待される。9日付の米科学誌サイエンス電子版に掲載される。
iPS細胞は、体細胞に3〜4種の遺伝子を導入して作る。その際、レトロウイルスなどの感染力を利用して細胞への運び役に用いていた。しかし、レトロウイルスは細胞の核の中にある染色体に入り込むため、重要な遺伝子を傷つけ、がんになる恐れがあった。
山中教授らは、従来の4種類の遺伝子を導入する際、ウイルスに運ばせるのではなく、遺伝情報を伝える性質を持つ環状の運び役(プラスミド)に、遺伝子をつないで組み込み、マウスの胎児の皮膚の細胞に入れた。この方法は、細胞に遺伝子を導入するのに以前から使われていたが、複数の遺伝子を並べて同時に働かせるのが、難しかった。今回、複数の遺伝子のつなぎ方を工夫して、細胞の染色体の外で同時に働かせることに成功した。
作製したiPS細胞を調べると、導入した遺伝子が染色体の中に入り込みにくく、安全性が高いことが分かった。従来のiPS細胞と同じく、神経組織などの細胞に変化する能力も確認できた。
ただ、作製効率は従来のウイルスを使った手法の100分の1以下と低い。また、マウスの胎児の細胞をもとに作っており、今後、大人のマウスや人でできるか調べる。
山中教授は「細胞移植治療に用いる、より安全な細胞作りに向けた大きな一歩。今後は作製効率の向上や人の細胞で取り組みたい」と話す。
(佐藤久恵)