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社説

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衆院解散―首相は逃げずに決断を

 衆院の解散・総選挙をめぐって、麻生首相が後ずさりするかのような発言を繰り返している。

 「補正予算案のほか、消費者庁設置法案、インド洋での補給支援法案と課題は山積している。衆院解散という政局より、政策の実現を優先したい」

 一昨日には、米国の金融危機を引き合いに、追加の財政出動の必要性をこう強調した。「補正予算は織り込み済み。さらに、って声が出てくる」

 総選挙の時期については、与野党の駆け引きが続いている。首相の本音は見通せない。けれど言葉のうえでは、解散は補正予算だけでなく、消費者庁設置法や補給支援特措法、場合によっては第2次補正予算も成立させたあと、と聞こえなくもない。

 消費者庁や補給支援の延長に民主党は反対だ。与党が衆院の3分の2の多数を使って再可決をめざせば、解散はどんなに早くても年末、もしくは年明けまで先送りになる公算が大きい。

 だとすれば、とても賛成できない。金融危機への対応のためにも、総選挙はもっと早く行う必要があるからだ。

 首相は言うかもしれない。総選挙をしても「ねじれ」が解消されるとは限らない。目の前に金融危機が迫る今、総選挙で「政治空白」をつくるわけにはいかない、と。

 だが「政治空白」が今は存在しないかのような認識は誤りだ。昨夏の参院選以来、安倍、福田と2人の首相のもとで政治は何度もエンストを起こし、行政が混乱したり、停滞したりした。この状況こそが「政治空白」なのだ。それが1年以上も続いているのを忘れてもらっては困る。

 与党だけの責任とはいうまい。民主党の責任も大きい。この行き詰まりを打開し、空白に終止符をうつには、総選挙で有権者の信を問うしかない。

 結果によっては、小沢民主党に政権を奪われることもあり得る。逆に与党が勝てば、民主党もこれまでのように参院選での民意を盾に抵抗するのは難しくなる。前向きな政治的妥協の土俵がようやくできるのではないか。

 首相の苦境も分からなくはない。

 政権発足時の内閣支持率は安倍、福田両内閣に及ばず、中山前国土交通相の放言による辞任で痛手も負った。いま総選挙になれば惨敗しかねない、と自民党内には解散先送り論も広がる。

 だが、だからといって総選挙を先送りするばかりでは、じわじわと迫る景気後退の波に対応しきれなくなってしまう。補正予算案をめぐる審議を終えれば、早く、民意に裏打ちされた正統性のある政権をつくり、強力で機動的な経済対策を実行せねばならない。

 所信表明演説で「私は決して逃げない」と誓った首相である。政治の責任を重く受け止めるなら、もう総選挙からは逃げられない。

橋下TV発言―弁護士資格を返上しては

 歯切れのよさで人気のある橋下徹・大阪府知事のタレント弁護士時代の発言に、「弁護士失格」といわんばかりの厳しい判決が言い渡された。

 山口県光市の母子殺害事件をめぐり、橋下氏は昨春、民放のテレビ番組で、少年だった被告の弁護団を批判し、「弁護団を許せないと思うんだったら懲戒請求をかけてもらいたい」と視聴者に呼びかけた。

 その発言をきっかけに大量の懲戒請求を受けた弁護団が損害賠償を求めた裁判で、広島地裁は橋下氏に総額800万円の支払いを命じた。判決で「少数派の基本的人権を保護する弁護士の使命や職責を正しく理解していない」とまで言われたのだから、橋下氏は深く恥じなければならない。

 この事件では、少年は一、二審で起訴事実を認め、無期懲役の判決を受けた。だが、差し戻しの控訴審で殺意や強姦(ごうかん)目的を否認した。

 少年の新たな主張について、橋下氏は大阪の読売テレビ制作の番組で、弁護団が組み立てたとしか考えられないと批判した。弁護団の懲戒を弁護士会に請求するよう呼びかけ、「一斉にかけてくださったら弁護士会も処分出さないわけにはいかない」と続けた。

 こうした橋下氏の発言について、広島地裁は次のように判断した。刑事事件で被告が主張を変えることはしばしばある。その主張を弁護団が創作したかどうかは、橋下氏が弁護士であれば速断を避けるべきだった。発言は根拠がなく、名誉棄損にあたる――。きわめて常識的な判断だ。

 そもそも橋下氏は、みずから携わってきた弁護士の責任をわかっていないのではないか。弁護士は被告の利益や権利を守るのが仕事である。弁護団の方針が世間の常識にそぐわず、気に入らないからといって、懲戒請求をしようとあおるのは、弁護士のやることではない。

 光市の事件では、殺意の否認に転じた被告・弁護団を一方的に非難するテレビ報道などが相次いだ。そうした番組作りについて、放送倫理・番組向上機構(BPO)の放送倫理検証委員会は公正性の原則からはずれるとして、厳しく批判した。

 偏った番組作りをした放送局が許されないのは当然だが、法律の専門家として出演した橋下氏の責任はさらに重い。問題の発言をきっかけに、ネット上で弁護団への懲戒請求の動きが広がり、懲戒請求は全国で計8千件を超える異常な事態になった。

 橋下氏は判決後、弁護団に謝罪する一方で、控訴する意向を示した。判決を真剣に受け止めるならば、控訴をしないだけでなく、弁護士の資格を返上してはどうか。謝罪が形ばかりのものとみられれば、知事としての資質にも疑問が投げかけられるだろう。

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