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ノーベル賞:物理学賞に日本人3氏 気骨の平和主義 「非主流」の逆転(その2止)

 ■南部さん

 ◇顔紅潮、声震わせ「サンキュー」

 【シカゴ(米イリノイ州)草野和彦】米シカゴ大名誉教授の南部陽一郎さん(87)は7日(日本時間8日)、同大で記者会見に臨んだ。理論の提唱から40年以上たっての受賞。何度も候補に挙がりながら受賞に至らず、「早過ぎた研究」とも評された。会見ではようやく訪れた吉報を喜んだ。

 会見には、多くの米メディアも参加。南部さんは英語で「期待していなかっただけに、(受賞は)驚いた」と切り出した。一方、1954年から半世紀以上にも及ぶシカゴでの研究生活に言及するにつれ、次第に顔が紅潮。同僚らに向かって「サンキューベリーマッチ」と震える声で二度繰り返し、あいさつを締めくくった。

 受賞対象となった「自発的対称性の破れ」を確立したのは60年代。「当時は(自分の研究は)主流ではなかったどころか、そういう問題があることさえ認識されていなかった」と振り返った。

 子どものころ、父親が買ってくれた科学雑誌「子供の科学」がきっかけで理科に興味を持った。物理学を志してからは、湯川秀樹氏(故人)のノーベル物理学賞に刺激を受け研究に没頭した。子どもたちの理科離れについて聞かれると「大学にいる学生たちは勉強してますよ」とやんわり否定。日米の研究環境の違いについても「世界中どこでも差はないと思う」と返した。

 自宅は、シカゴ郊外の大学から徒歩10分ほどの閑静な住宅地にあり、今も週に1、2度は歩いて大学に通う。同い年で二人暮らしの妻智恵子さん(87)は、会見に向かう南部さんに「昨日、足が痛いって言ってたでしょう」といたわりながら送り出した。

 ◇「時代、先取りしすぎた」--同僚研究者ら

 ノーベル物理学賞に決まった南部陽一郎、小林誠、益川敏英の3氏はいずれも、授賞理由となった理論を発表してから35年以上待った。発見から授賞まで平均十数年とされるノーベル賞の歴史の中でもかなり長い。

 「彼の研究は時代を先取りしすぎていた」。南部さんの元同僚で80年にノーベル物理学賞を受けたジェームズ・クローニン・シカゴ大名誉教授(77)は7日、南部さんの受賞会見でこう述べた。

 南部さんが60年代初めに確立した「対称性の自発的破れ」の概念は、素粒子の世界では当たり前と信じられてきた「対称性」が失われる場合があることを提唱する革新的なものだった。

 三田(さんだ)一郎・神奈川大教授(素粒子論)は「物理学の世界でも『南部さんはもらって当然』という考えがあったが、なぜかこれまで漏れていた」と話す。

 佐藤勝彦・東京大教授(宇宙論)は「南部さんの概念は、実験で実証されるというより、新しい思想と言うべきものだった。実証を重んじるノーベル賞は贈りにくかったのかもしれないが、深いところで素粒子理論に影響を与えており、授賞には財団の見識を感じる」と語る。

 一方、小林さんと益川さんが73年に発表した理論は、物質の基本粒子であるクォークが少なくとも6種類必要であることを「予言」するもの。98年から始まった素粒子の衝突実験などで、01~02年にほぼ確かだと確認されてから数年での受賞となった。

 ノーベル賞の選考は、原則として評価が定まった研究を対象にするため、時間がかかるのが通例だ。過去には発がん性ウイルスを発見したとの論文から55年後の1966年に医学生理学賞が贈られた。一方、高温超電導体の発見(86年)は、翌年の物理学賞に選ばれた。【西川拓、河内敏康】

 ◇益川さん・小林さん、名大「坂田学派」の流れくむ

 小林誠さん、益川敏英さんは、名古屋大理学部で坂田昌一教授(1911~70年)と門下生が築いた「坂田学派」の系譜にある。坂田研究室は、素粒子物理学でモデルの構築を重視する研究で、成果を上げた。

 坂田教授はノーベル物理学賞を受賞した湯川秀樹、朝永振一郎両氏と並ぶ日本の素粒子物理学の第一人者。多くの素粒子が基礎的な粒子の組み合わせで作られるという「坂田模型(モデル)」を55年に発表、注目された。

 坂田教授は33年京大理学部物理学科を卒業後、京都大「湯川研究室」などを経て、42年名大教授に就任。家族的な雰囲気を好み、自発的な議論や研究を喚起した。実験から得られた規則をもとに構成モデルを構築する重要性を説き、研究室からは「坂田模型」を発展させた「名古屋模型」「新名古屋模型」など素粒子物理学のモデルが発表された。

 2人の大学時代の恩師である大貫義郎・名大名誉教授(79)は「私の師匠の坂田昌一が素粒子論研究室を作り、流れを組む2人が結実させた。益川君は積極的な論客タイプ。小林君は穏やかでなんでもできる秀才タイプ。性格の違いがうまくかみ合ったのでは」と、満面に笑みを浮かべた。【中井正裕、丸山進】

 ◇3氏の企画・展示、都内博物館が検討

 東京都内の博物館は、ノーベル物理学賞を受賞した日本人科学者3人の研究にちなんだ企画・展示の検討を始めた。素粒子や加速器に関し展示している日本科学未来館(江東区青海)は8日、スタッフが、3人の研究などについて解説する「ミニトーク」を始めた。1日3回、研究の意義などを説明する。国立科学博物館(台東区上野公園)や科学技術館(千代田区北の丸公園)も、3人の受賞や業績に関するパネル展示などを近く始める予定。

毎日新聞 2008年10月8日 東京夕刊

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