家族が「アルコール依存症」になったとき
「朝から晩まで酒ばっか飲みやがって、出てけー」
通算100万部に迫る人気漫画『毎日かあさん』に登場する1シーン。
仕事と子育てに奔走する母さんと子供たち、大酒飲みの父さん。4人が織りなす日常を描いた漫画です。
『毎日かあさん』のモデルは作者であり、2人の子供の母親でもある漫画家の西原理恵子さん自身です。
2007年、パートナーをガンでなくしました。
夫の鴨志田穣(かもしだゆたか)さんは、戦場カメラマン。
通算で結婚生活は6年、でも普通に暮らしていたのは最初の半年くらいでした。
「その後は、お酒を飲んでなじったり暴れたり。
彼のことが怖かったり、憎かったりしてね、普通に接するのに精一杯でした」
アルコール依存症は薬物依存の一種で、自分の意志では飲酒をコントロールできなくなる病気です。
早期に専門的な治療を受ければ、回復の可能性も高いと言われています。
しかし、当時の西原さんには知識がありませんでした。
酒浸りの日々を送る鴨志田さんを西原さんは責め続けました。
「耐えられないけど、耐えるしかない。どこにも出口がないんです。
なんで離婚しないの? とよく言われました。けれども離婚するって、ものすごく体力がいる。
相手の方が力が大きくて、こちらは小さな子供を抱えている。酔っている夫から逃げ回りながらも仕事をしていました。朝方になったら酔いつぶれて寝ているから、その間に仕事をする。
そうすれば明日きっと何かがあるんじゃないかと思っていました。
それに、酒を飲んでいない時はいい人だったし、おかしい時に捨てるんだったら家族じゃない。そう思っていましたから」
酒浸りの夫と向き合い続けた西原さん。しかし、結婚6年目、ついに離婚を決意します。
「もう難破しているような状況で、こっちの手に子供、もうひとつの手に夫がいて、もうだめだと。それで夫の手を離しました。
でも、離婚で明らかに変わりました。
彼がお酒を本当にやめたいと言い始めたんです。
彼が自分で病院に通い始めた。
私は怠け者の嘘つきだと思い込んでいるのでまだ信じてなかった。
でも、やめるんだ、やめるんだって言って」
離婚後、鴨志田さんは専門の病院で本格的な治療を受け始め、西原さんはそんな鴨志田さんを見舞ううち、アルコール依存症に対する見方を変えていきました。
アルコール依存症はガンと同じ大変な病気で、治療のためには家族の強い協力と専門の医師の力がいること。
夫が酒をやめられなかったのは、性格ではなく病のせいだった、と西原さんは気付いたのです。
鴨志田さんは6ヶ月に渡る入院治療の末、酒をやめ、家族のもとへ帰ってきました。
しかし、その時には末期の腎臓がんだと診断されていました。
それから彼と過ごした6ヶ月はとても幸せでした。
お父さんとお母さんと子供たちとおいしいご飯。
2007年3月20日、鴨志田さんは西原さんに看取られながら亡くなりました。
「たった半年ですけどアルコールが全部抜けて退院してからは、結婚する前の付き合っていた彼を思い出して。
そうだ、この人、優しいいい人だったよなって。
この半年がないまま、憎しみ合って別れてしまったら、どんなにか辛かっただろうと。
家族を憎んで一生生きていく、そんな辛いことはないですから。
アルコールの時は、本当に人じゃないんですよ。こんなに悪質なことができるのかっていうようなことをするんです。
本人の心、性格、誰のせいでもないんですけどね。でも、子供を傷つけないで済んだ、一生憎まれる存在じゃなくて済んだって、
死ぬ間際、彼はそう言っていました。
この経験を話すことで、もしかして心のつかえが取れる方がいらっしゃったらと思って、今日ここに出させていただいたんですけど。他にもいろんな依存の病気があります。家族でいいですから、病院やカウンセリング、専門の先生に診てもらうこと。聞きにいくことがすごく大事だと思います」
(2008年3月31日 福祉ネットワーク「この人と福祉を語ろう 漫画家・西原理恵子 家族が“アルコール依存症”になったとき」より再構成)
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ハートネットピープル
西原理恵子さんもメッセージを寄稿しています!
うちの親父もある時まで、そうでした。
本当に怖かった。逃げ出したかったです。
でも、かあちゃんもにいちゃんもいた。
なにより酒を飲んでいないときのとうちゃんは、とってもやさしかった。
でも、ある日から酒の量を減らしついには飲まなくなりました。
「とうちゃんって強いなー」って心の底から尊敬できた日を思い出しました。
やっぱり良い思いでがその人のすべてなんだって思います。