【バンコク=菅沢崇】ミャンマー軍事政権が昨年9月に反政府デモを武力弾圧してから26日で1年が経過した。軍政は民主化運動指導者、アウン・サン・スー・チーさんの扱いに柔軟な姿勢を示しつつも、自らの権力維持を図る新憲法案の国民投票を実施するなど、体制固めを着々と進めている。一方、国民に対する警戒はいっそう厳重になり、表立った反政府活動は姿を消した。深刻化する貧困などの社会対策も置き去りにされ、国民の困窮が進んでいる。
最大都市ヤンゴンでは26日、スー・チーさんの自宅前に鉄条網のバリケードが増設され、多数の警察官が配置された。今月に入り、インターネットでは再びデモが発生するとの情報が飛び交い、軍政側は10日、1988年の民主化運動を闘った女性民主活動家のひとり、ニー・ラー・テイン氏を拘束するなど、抑え込みを強化した。昨年のデモが僧侶主導のもとに実施されたため、各僧院などには私服警察官も配置された。
26日付国営紙「ミャンマーの新しい灯」は、25日に市内のバス停で7人が負傷した爆弾事件を大々的に取り上げ、「社会を脅かすテロ」と非難した。同時にスー・チーさん率いる国民民主連盟(NLD)が国民投票を批判した声明に触れ、「国民扇動罪」にあたるとして非難の取り消しを要求した。タイに拠点を置く反政府の英字誌「イラワジ」によれば、25日の爆弾事件後、ヤンゴンには約7000人の警官が動員されたという。
軍政は昨年のデモ弾圧後、国際社会の批判に配慮して、国家平和発展評議会(SPDC)のタン・シュエ議長が国連のガンバリ事務総長特別顧問と会談し、スー・チーさんの連絡担当相の新設を発表したほか、スー・チーさんが欧米による対ミャンマー経済制裁への支持を取り下げ、敵対的な姿勢を放棄すれば、議長がスー・チーさんと直接対話に応じる用意があると表明した。その一方で、5月にミャンマーを襲ったサイクロンで未曾有の被害が出るなか、憲法案の国民投票を強行し、将来の軍政の固定化に向けた布石を敷いた。民主化を求める国民の声は無視され、絶望感は深まるばかりだ。
国民生活も深刻になっている。2006年以来、コメや食用油などの食料価格は高騰が続き、下がる気配がない。国連は昨年10月、ミャンマーの国民1人当たりの国内総生産(GDP)はカンボジアやバングラデシュの半分にすぎず、半数以上の子供が小学校を卒業できないなど危機的状態にあると報告している。
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■ミャンマーをめぐる最近1年間の動き
【2007年】
8月 燃料費値上げをきっかけに、市民や僧侶が全国で反政府デモを開始
9月 デモが10万人規模に。軍政が武力弾圧し日本人映像ジャーナリストも死亡
国連のガンバリ事務総長特別顧問がアウン・サン・スー・チーさんと面会
10月 国連安保理が武力弾圧に「強い遺憾」を表明する議長声明
11月 国連総会第3委員会がミャンマー人権非難決議案を採択
【2008年】
2月 軍政が新憲法案の国民投票を5月に、総選挙を10年に行うと発表
5月 大型サイクロンが直撃
新憲法案の国民投票を実施
潘基文国連事務総長がミャンマー訪問
軍政がスー・チーさんの自宅軟禁延長
8月 ガンバリ特別顧問との面会をスー・チーさんが拒否
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