第3回 お母さんが名医であるべき


数十年前まではお母さんが名医だった

 家庭においては、お母さんに名医であってほしいと思います。お母さんが名医であるためには、子どものときからの、20年間あるいは30年間の知恵がついているということが必須の条件になります。いまは残念ながら知恵を持ったお母さんが、昭和20年(1945)以前に比べると限りなく減少していますので、どうしてもわれわれのほうから、ある程度サゼスチョンを出さなければならないわけです。
 食に関していうならば、昭和20年以前の食とそれ以降の食とを分けて考える必要があります。昭和20年以前の食事というのは、縄文時代から延々と伝わってきた日本人に合った食べ物が継続してありました。ですから、お母さんは名医であったわけですね。ところが昭和20年を境に、たった60年間で様変わりしてしまいました。どのように様変わりしたかといいますと、食に限らず生活のすべての分野についていえることですが、日本人に合った日本本来の生活文化というものが、不自然に欧米化されてしまっているということです。
 日本人に延々と伝わってきた体質の中に欧米化したものが急に入ってくれば、体に合わないのは当然の話で、その中でゆがみが出て、戦後60年間で病気がどんどん増えてきています。前にお話ししましたように、昭和30年(1955)から現在までの間に、人口は1.5倍しか増えていないのに、医療費は146倍にもなっています。このような異常事態を生み出しているもとは、やはり、かつて名医だったお母さんたちが、マスコミなどにマインドコントロールされて、名医でなくなってしまっているということだと思うんです。

サルが住んでいる場所に住む人々は牛乳が飲めない

  食において一番大きな悪影響を与えたのは牛乳で、二番目はパンです。
 非常に大きな問題である牛乳について、まず牛乳を飲む民族と、飲む必要のない民族があるということを知っておいてください。それぞれの動物には、それぞれの動物が発生した場所で、発生した当時からの食べ物を延々ととり続けていて、それは変わることはありません。パンダは中国の山の中で、主に笹の葉を食べている。コアラはオーストラリアの草原でユーカリの葉を食べている。ところが、ヒトの場合は二つに大別されるということですね。それが昭和20年までははっきりとしていたのですが、それ以降大きく崩れてしまいました。
 どのように大別されているかといいますと、パンダにしてもコアラにしても、サルにしても、ヒトにしても、哺乳動物ですね。哺乳動物は約4000種類いるといわれます。そのうちで、それぞれの住む場所の先祖代々とってきた食べ物を食べています。いま申し上げましたように、人類だけは二つに分かれるということ。基本的には、ヒトというのはサルの仲間ですので、本来はサルが住んでいる場所にしか住めないはずなのです。サルが住めない場所にはヒトも住めない。サルが住めないところになぜヒトが住んでいるかといいますと、ヒトは50万年にわたって火を使っています。また、住居に入っています。ほかの動物はそういうことをしていませんから、ほかの動物にはできないことをすることによって、サルが住めない場所にもヒトが住めるようになりました。
 現在サルが住んでいる場所に住んでいるわれわれ日本人、北海道は除きますが、本州・四国・九州・沖縄に住んでいる人々というのは、本来の食べ物をとることが可能です。ところが、たとえば北海道もそうですが、ドイツ、フランス、イギリス、ノルウェー、スウェーデン、デンマークなどにはサルがいません。つまり、ヒトが住めない場所であるということです。したがって、ヒト本来の食べ物がとれないわけです。
 そうすると、おのずからヒトの食事は二つに分かれます。日本の場合は北海道を除いて、サルが住める場所でとれる食べ物をとり続けてきたわけです。食生活が終戦後欧米化したというのは、サルが住めない寒帯の土地の食べ物も食事の中に入れていったということです。そのために、いろいろなゆがみが生じてしまいました。サルが住めない土地の食べ物の代表的なものが、牛乳とパンなのです。

「地場の食べ物」「季節の食べ物」「腐る食べ物」の
三つを押さえていればよい

 食べ物は本来自分で集めるものだということは前にお話しした通りです。自分が住んでいる地場の食べ物を、それぞれの季節に応じてとる。しかも、本来は生き物しか食べていませんでした。生き物というのは必ず死にます。死ねば腐ります。本州・四国・九州・沖縄などでとれる地場の食べ物、季節の食べ物、腐る食べ物(生き物)という三つを押さえていれば、大きな誤りは起こりません。
 ところが、サルが住めない場所に住むようになった人々は、本来の食べ物をとることができないので、いろいろな工夫をしていかなければなりませんでした。たとえば、ノルウェー、スウェーデン、デンマークなどの寒帯に住むようになった人々は、お店や流通機構がなかった時代、日本人がとっていたような食べ物はまず集められなかったのです。野菜やお米などはとれませんから、何とか工夫をして、たとえばほかの動物を倒してその肉を食べたり、乳を飲んだりしていかないと生きていけなかったのです。
 ですから、そのような土地に移り住んだ当初には、ヒトの体に合わない食べ物をやむを得ずとるわけですから、いま日本に現れているようなアレルギー、糖尿病、がん、心の偏りなどが起こっていたはずです。彼らはそのような食べ物しかとることができないのですから、最初のうちはそのような病気がたくさんあったに違いありません。
 しかし、それらの食べ物を代々とり続けているうちに、遺伝子がだんだん変わってきます。マクラーケンという人が、ヒトの体に合わない食べ物でも、食べ続けていれば、2000年から3000年を経て遺伝子が変わってきて、やがて食べても平気になるといっています。
 フランス人がパンを食べたり、イタリア人がパスタを食べたり、ノルウェー、デンマーク、ロシアの人々が牛乳をたくさん飲んでいるのは、長い長い年月を経て、それらの食べ物がその人たちの体に合う食べ物になっていったからだということなのです。しかし日本人の場合は、本来の生活圏にある食べ物を食べていたのを、たった60年で崩されてしまいました。体に合わない食べ物をとり続けることによっていろいろな病気になるのは、当然のことといえます。

「おっぱいは血液である」ということ

 中でもなぜ牛乳が一番問題になるかというと、牛乳はウシの「血液」だからです。すべての哺乳動物が体を支えているのが、血液です。その血液を汚染させたりしてはいけません。ヨーロッパの人たちがパンを食べ、パスタを食べ、牛乳を飲み、チーズやヨーグルトなどの乳製品を食べても、血液を汚すことはありません。日本人の場合は、延々と伝わってきたご飯・野菜・海藻・小魚などをとっていれば血液は汚れません。
 ちょうど欧米の人たちが、どういう理由かはわかりませんが、何万年も前にサルが住めない場所に住むようになったときにやむを得ずとらねばならなかった食べ物を、日本人は終戦後からとらされてしまっているというところに非常に大きな問題があると思います。
 先ほどもいいましたが、乳は血液です。みなさんは「おっぱいは白い」と思っていますが、おっぱいは乳房に入る前は真っ赤です。血液が乳房に入って、ごく短い乳管を通る間に白く変わります。ですから、おっぱいは白い血液であるといえるわけです。牛乳はウシの血液、ヒトのおっぱいはヒトの血液だということです。
 このことをしっかり頭に入れておいていただきたいと思います。
 哺乳動物が4000種類いるということは、おっぱいの種類も4000種類あるということですね。それぞれの動物には、その動物のお母さんから最も適したおっぱいが出てくることになっています。ですから牛乳は、ウシの赤ちゃんに最も適したおっぱいなのです。これは決してヒトの赤ちゃんに適したおっぱいではありません。
 かつて、東京医科大学でアレルギーを研究していた先生が、ウシの赤ちゃんに牛乳を血管注射しても死なないが、ヒトの母乳を血管注射すると死んでしまうと発表しました。逆に、ヒトの赤ちゃんにお母さんの母乳を血管注射しても死ぬことはないと。種が異なる動物の乳を血管注射したら死んでしまうのですから、牛乳はできるだけ経口摂取も避けたほうがよいというのがわれわれの主張です。
 おっぱいというものは、哺乳動物の血液なのだから、その動物のお母さんのおっぱい以外は体に入れてはいけないということです。

動物性食品の過剰摂取が問題視されている中で
牛乳だけが特別扱いなのはおかしい

 ところが、ウシのおっぱい、つまり牛乳が昭和20年以降、牛乳をとる必要のない日本人の子供たちの体に、たった60年間で雪崩のように入ってきました。しかも量が半端ではありません。すべての食べ物は、年齢に応じてだんだん量を増やしていくべきで、これは当たり前のことですね。それが牛乳に限ってはそうなっていません。このごろは動物性食品をあまりたくさんとらないほうがいいという意見をかなり聞くようになり、大学教授もそういっています。そういいながらも、同じ動物性食品である牛乳だけは、異常なくらい大量に飲まされています。
 これは、学校給食を例にあげればはっきりしていることです。たとえば、学校給食では小学校1年生から中学校3年生まで牛乳が供給されます。しかし、牛乳の量が決められていないということを、お母さんがたも、学校の先生がたも、ご存じないかたが非常に多いのです。九年間の給食で出される牛乳の量は決められていません。上限が、中学校3年生で200ミリリットルと決められているだけです。そうしますと、ほかの食べ物と比較して考えてみればすぐわかるわけですが、中学校3年生で200ミリリットルということは、当然小学校1年生ではもっと少なくならなければなりません。体格がまったく違う中学校3年生と小学校1年生では、小学校1年生の飲む量はうんと少なくていいはずです。
 給食とは関係ありませんが、1歳半、3歳で保健所などに健診に行きますと、体格のいい中学3年生が飲む倍量、300ミリリットルから400ミリリットルの牛乳を飲みなさいという指導がされています。こういうところからも、食べ物のバランスが崩れてきます。しかもそのバランスは、動物性食品に限りなく偏ってしまうのです。植物性食品と動物性食品をとる量は、年齢に応じてだんだん増えていくというのが自然ですが、牛乳だけが同じ量、いや1歳半、3歳では、むしろ中学校3年生の飲む量よりも多い量を飲ませていますから、当然バランスは動物性食品のほうに片寄ります。生活習慣病やメタボリックシンドロームなどの原因として動物性食品の過剰摂取が問題とされているなら、どうして牛乳の過剰摂取が問題とならないのでしょうか。非常に疑問を感じます。

粉ミルクに頼るお母さんは
哺乳類の定義に反するお母さん

 牛乳を飲むことでいろいろな病気が引き起こされます。その理由の一つは、ウシの体温はヒトの体温よりもかなり高いので、牛乳に含まれる脂肪はヒトの体内では溶けずに血管に沈着するという説明をすでにしましたね。そのことで一番問題になるのは心筋梗塞、脳梗塞などの梗塞性の疾患です。これらの疾患は牛乳を飲んでいる人に圧倒的に多いわけですから、それを防ぐためには、まず牛乳を飲むのをやめなくてはならないということがいえると思います。
 これも前に話しましたが、牛乳を飲んでいると、同じ理由で乳管も詰まりやすくなってしまいます。戦前にはほとんどいなかった母乳の出ない人が、戦後からどんどん増え続けている事情もすぐおわかりいただけると思います。4000種類を超えるほかの哺乳動物で、もしお母さんのおっぱいが出なかったら、その赤ちゃんは生きていかれないわけですよね。粉ミルクなんてありませんから。
 そもそも哺乳動物というのは、「温血胎生」、つまり血が温かく、卵でなく子どもを産み、「メスは乳を分泌して子を哺育する」というのが定義です。
 ですから、粉ミルクに頼るお母さんは哺乳動物の定義に反するお母さんだということがいえます。「母乳が出ないから粉ミルクを与えざるを得ない」という人がいますが、乳管を詰まらせてしまうような牛乳を妊娠期間中に飲むようになってから、母乳の出ないお母さんが出始めたのです。これは非常に問題で、これが牛乳を飲むのをやめていただきたい大きな理由の一つです。牛乳を飲むようになってから生活習慣病が生まれました。母乳の出ないお母さんが生まれてきました。
 生活習慣病について2、3の例を挙げてみましょう。なぜ糖尿病が増えているのでしょうか。糖尿病は本来遺伝性の疾患ですから、そんなに急激に数が増えるということはまず考えられません。糖尿病の家系の人が、生まれてから40年とか50年経ってから発病するというのが糖尿病の本来の姿だったわけです。それがいま、1400万人とも1500万人ともいわれ、このように激増することはあり得ないことです。さらに発病の年齢が下がり、子どもの糖尿病などというおかしな病気が出てきています。

牛乳よりもカルシウムを多く含む食べ物はいくらでもある

 千石紘二さんという『自然食ニュース』の編集長が『この食生活で糖尿病、成人病が治る』という本の中で、牛乳の弊害について次のように書いています。
「牛乳は体にいいという常識を捨てよう」「『牛乳のカルシウムは吸収率が高い』は大きな誤り」「牛乳は骨粗鬆症を予防しない」「高蛋白高脂肪は体に悪い」「少ないカルシウムに適応してきた日本人」「日本人に高カロリー食は向かない」「遺伝学的にみても日本人に牛乳は合わない」「骨粗鬆症急増の犯人は牛乳」「ヨーグルトも白内障の危険がある」などです。
 このように、糖尿病の増加、とくに低年齢化の原因として、学校給食に牛乳が入ってからいろいろな問題が起きているのだということを述べています。
「牛乳といえばカルシウム」ということになっていますが、カルシウムはミネラルの一つにすぎません。カルシウムの重要性だけを取り上げるのは明らかに間違いであって、カルシウムだけでなく、鉄、マグネシウム、カリウム、ナトリウムなどをまんべんなくとることが大切なのです。なぜカルシウムの重要性だけを強調するのか。これは牛乳を推進するためとしか思えません。しかも、カルシウムの少ない牛乳を、カルシウムがいかにも多いような宣伝をしてきたという決定的な過ちがあります。
『体質のよい子に育てましょう』という本を書いた亀山静雄さんは、私が医者になったときに生まれたすばらしい小児科の先生ですが、このかたは一言でいっています。「ウシの毒だからモー毒」と。「体質のよい子に育てましょう」と、いままさに、体ばかり大きくなって体質が悪くなっているわけですけれども、体質を悪くするものの代表として牛乳を挙げています。たとえば牛乳のカルシウム。少し前の食品成分表からですが、牛乳は100ミリリットルあたり100ミリグラムのカルシウムを含んでいます。これが、大根の葉だとその2倍、大根でも切り干し大根にすれば5倍、小松菜は3倍、昆布は7倍、わかめは9倍、ひじきが14倍、煮干しは22倍もあります。

「牛乳は百害あって一利なし」

 牛乳が飲まれるようになる前の昭和20年までの日本の食事には、牛乳の7倍のカルシウムを含んでいる昆布、22倍含んでいる煮干しでだしをとって、野菜、海藻などを入れた味噌汁が毎食必ずありました。このような味噌汁が、骨を丈夫にするのにどれほど役に立っていたかがおわかりいただけると思います。
 学校給食に牛乳が入る前までは、骨粗鬆症なんていう病名は医者以外は誰も知らなかったのです。給食に牛乳が導入されてから骨がどんどん弱くなっているという現実に、みなさんはあまりにも無関心すぎるのではないでしょうか。スポーツ選手の指導もしている山田豊文さんは、『病気になりたくない人が読む本』の中で、「牛乳を飲めば飲むほど骨がもろくなる」と正論を書いています。「牛乳は百害あって一利なし」とも書いています。
 骨を丈夫にするためには、カルシウムだけをとっていたのではだめで、カルシウムとマグネシウムのバランスをしっかり整えることが重要です。カルシウム二に対してマグネシウム一くらいのバランスでとっていれば、それが骨を強くすることに結びついていきます。近藤賢(さとし)さんという内科のお医者さんは、「牛乳を飲む量が世界で最も多いといわれるノルウェーにおける骨折率は、なんと日本の5倍である」「日本人がいままでよりも何倍もの牛乳を飲むようになったとすると、ノルウェーのように骨折の発生率が高くなると考えなければならない」といっています。
 このまま、カルシウムとマグネシウムのバランスを考えずに、カルシウムだけを重要視していると、これは牛乳に限りませんが、問題が大きくなっていくと思われます。近藤さんは言葉を継いで「高カルシウム血症の危険にさらされている50歳、60歳以上の人が、骨を丈夫にしようとして毎日牛乳をがぶ飲みするなどは、むだな努力というよりは、まさに年寄りの冷や水、とんでもない健康法というべきだろう」といっています。カルシウムの面でも、牛乳をとりすぎてはいけないということです。

妊婦に急増している「鉄欠乏性貧血」も
「牛乳生活」が引き起こす

 鉄分に関してはもっと深刻な問題があります。いま、妊婦さんの中に、鉄欠乏性貧血と診断されて鉄剤などを飲まされている人がかなりいます。昭和20年以前までは、妊婦さんが鉄剤を飲まなければならないなどということは考えられなかったことです。牛乳を飲んでいませんでしたからね。
 食品に含まれる鉄分ということでは、牛乳は100ミリリットルあたり1ミリグラム含まれています。昔の妊婦さんのように水を500ミリリットル飲んだ場合、その中には鉄分はゼロですよね。カロリーもゼロです。一方、牛乳を500ミリリットル飲むと、0.5ミリグラムの鉄分が体の中に入ってきます。同時に500ミリリットル分のカロリー、つまりほぼ250カロリーの熱量も体に入ってしまいます。その分だけ、水を飲んでいる人に比べて鉄分を多く含んでいる食べ物をとれなくなってしまいますよね。
 では、牛乳以外の食べ物に鉄分がどのくらい含まれているか見てみましょう。白米で牛乳の5倍、玄米だと11倍、ほうれん草は47倍、ごまは96倍、煮干しは180倍、ひじきにいたっては550倍も含まれているのです。昔の妊婦さんたちは、こうした鉄分を十分に含んだ食べ物をとっていましたから、鉄欠乏性貧血になどには決してならないし、妊娠期間中に鉄剤を飲む必要もありませんでした。鉄欠乏性貧血も、骨粗鬆症も、給食で牛乳を飲まされるようになってから出てきた病気だということをきちんと知っておく必要があると思います。
 なぜこのようになってしまったのか。昭和20年にアメリカが日本を占領したことが根本にあります。太平洋戦争を通じて、アメリカは日本という国、日本民族が非常に優れた民族であるということを知るわけです。このまま日本を放置しておけば、日本民族の優秀性が引き継がれていってしまう。それはアメリカにとってマイナスになる。では、日本民族を劣化させるためにはどうしたらいいかということで、いろいろな方策を講じたのです。そのために占領期間は7年もあったのです。