【バンコク藤田悟】ミャンマーの旧首都ヤンゴンで1年前の昨年9月27日、反政府デモをビデオカメラで取材中の日本人ジャーナリスト、長井健司さん(当時50歳)が軍兵士に至近距離から撃たれて死亡した事件で、軍当局が兵士に対し、カメラやビデオカメラ所持者を銃撃するよう命じる秘密指令を出していたことが27日、毎日新聞が入手した軍の機密文書で明らかになった。長井さんは偶発的に銃撃されたのではなく、軍の組織的な指令による犠牲者だったことになる。
ヤンゴンでは昨年9月、僧侶ら10万人規模のデモを軍が武力鎮圧した。軍はデモや弾圧の映像が国内外に流出するのを防ぐため、カメラなどの所持者への強硬措置を指示していたとみられる。
軍の機密文書は、デモについて「本物の僧侶はごく一部に過ぎず、国内の武装組織や亡命地下組織が政府を転覆しようとしている」と位置づけ、「断固対処する必要があり、以下の命令を実行するように」としている。
具体的命令として「旗やプラカードを持つ者」や「デモ隊の先頭」を撃つよう指示。さらに、「カメラ、ビデオカメラ、テープレコーダーを持つ者を主要ターゲットとする」としたうえで「逮捕に努め、逮捕できない場合は撃て」と命じている。
文書は「行動統御司令部」名の2ページで、各ページの上下に「機密」と記されている。軍関係者によると、同司令部は、デモが拡大し始めた9月中旬、軍を中心に治安警察、秘密警察など治安担当部署の責任者ら15人で設置され、デモ鎮圧を担当。9月末に解散した。
毎日新聞はまた、長井さんが銃撃された直後の様子が映った新たなビデオ映像を入手した。映像には、兵士が倒れた長井さんの右手を引っ張って起こそうとし、長井さんが左手で体を支えようとしながら力尽き再び倒れ込む様子が映っており、長井さんは撃たれた後もしばらくは意識があったことを示している。
毎日新聞 2008年9月28日 2時30分(最終更新 9月28日 2時30分)