小泉純一郎元首相の引退表明は、小泉改革路線の見直しを鮮明にする麻生太郎新首相の始動の日と重なった。01年に首相に就任して以来7年余り、小泉氏の動向は常に政界の関心事だったが、自民党総裁選で「小泉路線」の小池百合子元防衛相が敗北したことは、自らの存在感が希薄になったと悟る引き金になったようだ。
「小泉氏は(サプライズを生む)魔法のつえをなくしてしまった。次期衆院選で小泉氏が応援しても小泉チルドレンは負けるだろう」
長く秘書として仕えた飯島勲元首相秘書官は、引退の報を聞くと周辺にこう語った。
今回の総裁選で小泉氏は完全に「蚊帳の外」に置かれた。自らの後継者に指名した安倍晋三元首相は「小泉路線」の見直しを目指す麻生氏を率先して支持。麻生氏も小泉政権時代、政調会長、総務相、外相と重用した経緯があるだけに、かつての部下たちの裏切りは「屈辱」だったとみられる。小泉政権の防衛庁長官だった石破茂農相は25日、記者団に「麻生政権の使命は小泉改革の負の部分を検証することだ」と強調した。
小泉氏は総裁選さなかの12日、小池氏支持の武部勤元幹事長らに「自民党は大変な危機なのに、危機感がまだ足りない」と指摘したが、得票率は麻生氏66・9%に対し、小池氏8・8%。しかも、小池氏は地方票がゼロ。01年の総裁選で地方票が小泉氏で雪崩を打ったのと好対照だった。
これでは、衆院選前後に新党を結成し、キャスチングボートを握るのは難しい。05年の郵政選挙大勝で膨れ上がった自民党の議席も、次期衆院選で大幅減は必至。小池氏や中川秀直元幹事長らの「浸透力」の弱さを目の当たりにし、「小泉時代の栄光」が雲散霧消する前に、身を引いたという感が強い。
中川氏は25日、「小泉改革がなければ90年代の失われた10年は終わらなかった」と語ったが、「反麻生」で反転攻勢に出る後ろ盾が失われるショックは隠せなかった。【中川佳昭】
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<小泉純一郎元首相の足跡>
72年12月 衆院議員初当選
88年12月 竹下改造内閣で厚相として初入閣
92年12月 宮沢内閣で郵政相
95年 9月 自民党総裁選に初挑戦
96年11月 橋本内閣で厚相
01年 4月 総裁選3度目の挑戦。橋本元首相らを破る。第1次小泉内閣発足
7月 参院選で自民党圧勝
8月 初の靖国神社参拝
10月 テロ対策特別措置法成立
02年 1月 田中真紀子外相を更迭
7月 郵政公社化法成立
9月 北朝鮮を電撃訪問
10月 拉致被害者5人が帰国
03年 7月 イラク復興特措法成立
9月 自民党幹事長に安倍晋三氏を起用
11月 衆院選で自民敗北。第2次小泉内閣
04年 5月 福田康夫官房長官辞任
5月 北朝鮮を再訪問
6月 道路公団民営化法成立
05年 4月 郵政民営化法案を閣議決定
8月 同法案が否決され、衆院解散
9月 衆院選で自民圧勝。第3次小泉内閣
10月 郵政民営化法成立
06年 8月 終戦記念日に靖国参拝
9月 小泉内閣総辞職
07年 7月 靖国参拝で中国を批判
08年 9月 今期限りの引退を表明
毎日新聞 2008年9月26日 東京朝刊