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千野圭一の辛口コラム元サッカーマガジン編集長千野圭一が現代サッカーを斬るインターネット限定のコラム

第424回
UPDATE 08/09/26

浦和対ガンバは因縁なき戦いを!
新旧監督手腕でもサッカーの秋堪能

 日本のクラブ、3チームがすべてアジア・チャンピオンズリーグ(以下、ACL)決勝トーナメントに進出したから、準々決勝を見るのも大変だ。第1戦をホームで戦い、オーストラリアのアデレードに1-1で引き分けた鹿島アントラーズは、アウェーでの第2戦ですべてのマイナス要素が出て0-1で敗れ、敗退を余儀なくされた。

 そもそも今の鹿島は明らかにチーム力が下降している。疲れもあるだろうし、主力選手の不調も重なった様子もある。そこへ持ってきて大黒柱の小笠原が大きなケガをして戦列を離れたのだからプラス要素が一つもない。

 アウェーゲームでは相手のアドバンテージもあったが、アデレードにいいようにやられた完敗だった。いくつかチャンスもあったのに、などと慰めを言ってもしょうがない。あれは完敗だ。

 立ち上がり、アデレードがどのように出てくるのか見ている節があった鹿島は、その時点で後手を踏んだ形だった。アデレードはまるでマラソンのトップランナーがペースを上げたり下げたりして周囲の動きを乱すように、最初は攻めに出て次第に落ち着き、守りのリズムに、この流れを繰り返し、鹿島の力を試すように試合を進めた。アウェーでの第1戦を1-1で引き分けているアデレードは0-0の引き分けでも勝ち上がれる。鹿島に点をやらなければいい。高さとフィジカルの強さを生かした守備に真っ向から挑んだ鹿島の攻めは実りのなかった第1戦と同じ。最初に欲しかった1点をアデレードに奪われてはプランも成り立たない。

 Jリーグだけでなく世界を目指すと言ってきたのは浦和より鹿島の方が先。目標の達成は浦和に先を越されたが、今後もあくなきチャレンジを見せてもらいたい。

 

 アウェーでの第1戦も危なげない戦いで2-1の逆転勝利を飾っているガンバ大阪は、ホームでの第2戦でもシリアのアルカマラを得意のポゼッション・フットボールで圧倒。美しいパスゲームで相手の守りを切り裂いて、2-0で完勝した。

 浦和レッズもホームでの第2戦を2-0で勝ったが、ガンバほどには楽勝ではなかった。もちろんアルカマラと浦和の戦ったクウェートのアルカディシアとでは力の差も違うし、浦和は初戦のアウェー戦を2-3で落としている違いもあるから、緊張感も違う。クウェートのチームは諦めることなく最後まで力を尽くしたのだから厳しい試合も当然だ。

 この結果、ガンバと浦和が準決勝で対戦することになり、日本のクラブの決勝進出がこの時点で決まった。もちろん目標はどちらも優勝だろうから、まだ道の途中ではあるが、リーグ戦とは違った、緊迫した戦いが見られるだろうと楽しみにしている。

 

 だが、これはまったくの余談で余計な心配だが、浦和のGK都築のパフォーマンスぶりが最近気になってしょうがない。なぜあれほどまでに怒りまくるのか、不思議でならない。非常に失礼な物言いを覚悟の上だが、どこか精神に異常をきたしているとしか思えないようなシーンがテレビカメラに捉えられることが多い。相手にシュートを打たれたといって、味方の守備選手に怒鳴り散らす。シュートコースを空けるなと注意するのは当然のことだろうが、あの血相で、ボールが出るやいなや挑みかからんとする光景には、正直、背筋に寒さを覚える。

 アルカディシア戦でもあった。相手の何に腹を立てたのか、相手に突進しようとする都築の姿が映り、テレビカメラが捕らえた次の瞬間には相手選手に首を絞められている異様な光景に変わっていた。

 今年、浦和のホームでのガンバ戦では観客同士のトラブルがあってもめたが、ピッチの上でも都築と闘莉王がなぜか知らないが、怒りに顔を紅潮させてか、激しくほえまくっていたことをよく記憶している。相手FWを威嚇する行動はしょっちゅうだし、何か大事に至らなければいいがと心配しているし、どうにも見苦しい。

 連覇を狙う浦和はチャンピオン・チームとしての誇りを持って勝負強さを見せてもらいたいし、ガンバにはアジアの戦いで見せている、美しいパスサッカーで頂点を目指していただきたいと、ただただ祈念している。

 

 アジアの戦いは佳境を迎えているが、Jの争いも終盤の激しい攻防で白熱している。ACLの戦いもある浦和、鹿島を尻目に名古屋グランパスが抜け出す気配を見せていたが、伏兵、大分トリニータが粘り、暫定ながら首位に立ったのだから凄いし、面白い。地方の決して金持ちクラブではない大分の躍進、判官びいきの日本人にはマッチした状況を大分が作り出している。

 シャムスカという、今風に言うとイケメンでインテリ風のブラジル人監督に率いられたチームが潜在能力に満ちた若い選手の力を伸ばし、大きな金を掛けずに万年、下位に沈んでいたチームをどのようにしてここまで浮上させたかは非常に興味深い。

 大分を守備一辺倒のチームと揶揄する声もあるそうだが、そうだとしたらそれは妬みで、守備だけでトップに立てるほどJリーグも甘くはないだろう。奇しくもチーム状態がどん底に陥ったジュビロ磐田は、再生請負人でもあるかのようにハンス・オフトに再び現場での指揮を委ねて苦境を乗り切ろうとしている。

 オフトは私にとって古い友人だし、彼が日本で残した数々の功績に対しては敬意を表しているが、新しい顔、シャムスカ監督との対比など、話題の尽きない`サッカーの秋'が堪能できそうだと、楽しみにしている。

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プロフィール

千野圭一(ちの・けいいち)
1954年生まれ。東京都出身。 1977年に(株)ベースボール・マガジン社に入社。サッカーマガジン編集部へ配属され、1982年には編集長に就任(〜1998年)。 1993年にはJリーグ開幕にともなってサッカーマガジンの週刊化を実現。その後も、1996年のアトランタ五輪でのブラジル戦勝利、1998年のワールドカップフランス大会への日本の初出場など、日本サッカー史の節目を見守ってきた。 辛口のサッカー批評で知られている。


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