目 次
プラーク・コントロールとは・・・
中学生!ブラッシングして!
ミニマル・インターベーション
歯周病とブラッシング
親知らず
知覚過敏症
顎関節症とかみ合わせ
マウスガード

プラーク・コントロールとは・・・
 歯に致命的なる2大疾病が虫歯(dental caries)と歯周病(periodontitis)ということは世の皆さんもよーくご存知と思います。そしてその2つは原因菌は異なるも、ともに細菌感染症であり、つまり菌量を少なくコントロールできていれば罹患を免れうるわけです。虫歯は歯の表面、歯周病は歯肉溝におけるクリーニングが徹底的になされていれば理論的には発生できえないわけです。
 しかし細菌は細菌単体として歯に付着しているわけではありません。菌体表面にバイオフィルムという粘っこい膜をつくって自らを防護しいるわけで、それが集まってプラークになるのです。これは相当頑固な代物で、リステリンのCMで細菌99.9%除菌とありますが、もしこれがほんとうなら歯ブラシなんていっさい無用ですがな。実際はあんなのでうがいしたって堅固なバイオフィルムはびくともしませんから、広告に偽りありです。試験管内(in vitro)で細菌が死んだって、生体内(in vivo)でそうは簡単に除菌なんかできるわけないんです。だから除菌は、唯一表面のバイオフィルムを物理的に剥離除去するための機械的清掃だけが頼みなんです。
 機械的清掃とはブラッシング、デンタルフロッシング(糸楊枝)、インターデンタルブラッシング(歯間ブラシ)の3者を言います。歯磨剤は除菌にはほとんど寄与しません。歯磨き粉なんか使わなくても全然OKです。むしろ泡だらけになってブラッシングの時間が短くなり、かえって清掃が不十分になるのがオチですし、その割にはサッパリしちゃってキレイになった気分になっちゃいますからね。泡なんか何の意味もないんです。あれはただ発泡剤が入ってるだけですから。
 つーか歯磨き粉ってじつは合成洗剤でヤバいらしいのです。成分が界面活性剤の入った合成洗剤とあまり変わらないですから。だから水槽に入れたら金魚死にますし、土に入れたらミミズは死にます。ゆすいで下水に流したら川が汚れ環境を汚染します。基本的に飲み込まないことを前提で作っていますからね。歯ブラシの後舌がピリピリするのはそのせいです。気をつけましょう。
 つまり効果的なバイオフィルム除去のみが予防歯科といえます。ただその方法は多少マニアックで、その具体的方法に関しては企業秘密ですのでここでは言えません(笑)。実際に来院していただいての話になります。せこーっ!!というか、実際の口を診ながらのFACE TO FACEじゃないと上手く伝えられないだけです。
 早ければ早いほどセーフティな予防歯科。歯周病は知らぬ間に深々と進行しているものなんで、少しでも出血があったら危険信号です!つーかすでに歯周疾患なっちゃってるでしょうね(健康な歯肉というのは絶対に出血しません。出るのは病的歯肉だけ。健康な歯肉に傷がついても出血というのはありません)。 歯があるのに、モノを噛めなくなる歯周病ほど情けない状態もそうない。これを読んだ皆さんが、自分もやばいかも!と少しは危機感を抱いてくれれば本望なのですが・・・。


中学生!ブラッシングして!
 歯医者の仕事で一番難しいことって、小学校高学年〜中学生くらいの子どもに歯ブラシをちゃんとさせることじゃないかなー。彼らはほんとうに手強いから。噛んで含めて図解して手取り足取り練習して、さらに念を押してもまーずやらない。健診にいくと5、6年生は乳歯が全部抜けてマッサラな永久歯列になっている子が多いのだが、とくに男子、汚ないんだよ!12歳臼歯なんか悲惨なもので、まさにブラッシングZERO状態!はえたてなんかエナメル質柔らかいんだから、全体が脱灰(溶ける)してるような可愛そうな歯をよく見る。まーそれでも再石灰化もあるからすぐには痛くはならないので、放置してしまう。反抗期で親の言うことなんか逆らうばかり。「大丈夫だよ!」(何がだよ!?)、「ほっといてよ!」(そういう問題じゃないだろ)、「そのうち行くって」(行かないだろ)、「痛くないから」(だから今行くんだよ)「治ったよ」(?)、とか言って、馬耳東風。馬念。興味がないんだろうな、この分野に・・(bakayaro!)
 そのまんま小学校を卒業して、中学の歯科検診でも未処置ありでもスルー、親に表すら見せない。忘れる、無くす。洗面所で髪のセットは2時間もかけるくせに、ブラシングはしない。菓子やジュースは飯より摂取!その間に当然虫歯はガンガン進行し、ようやく症状が出てきた中3か高1に激痛発現!が、時すでに遅し、哀れ歯は内部から崩壊し、良くて神経除去、普通は根が腐って果てしない根管内の除菌治療(これはちゃんと治ってくれないことが多いので、将来的に抜歯になる率も低くない)、20歳になる前に人生で最も重要な4本の支持力の大きい歯が一部ないしすべてイカレテしまう。人生はあと60年も残ってるというのに!!
 小中学生諸君!キミらは取り返しつかない大きなミステークを今まさにしているのだぞ!!うちは老若男女満遍なくすべての年齢層の患者さんがみえるが、中学生だけはポッカリ抜けてるんだな!といってもこの辺は中学生も多いし、虫歯がないわけじゃないのも知ってる。あるけど歯医者に行かないんだよ!それで、高校生は結構来るんだ。さすがに高校生は自主的だからね。親の言うことは聞かないが、さりとてまだ自主的にすべて問題解決できるステージじゃない中途半端な中学生・・
 これからのオレの課題は彼らにいかに自覚を持たせるか、かも知れない!というよりも、単に歯ブラシしてくれればいいんだよ!中学生諸君、ブラシングしないと歯が腐る→口が臭う→モテナイ、苛められる→引きこもりになる→無間地獄への入り口だぞ!(それはチト強引かも、ともかく、動機は何だっていいからブラッシングしてくれー!)


ミニマル・インターベーション
 歯の詰め物や被せた物がとれることはよくあります。
 うちでは装着物を接着するセメントは一応一番強力とされてる製品を使用しています。天然のエナメル質を可能な限り保存すべく切削量を最小限にしているので、メタル充填物(インレー)や被覆冠(クラウン)は最小サイズでセメントの強い接着力が必須なのです。白い詰め物(CR)も、一応世界の逸品とされている米国の3M社製を使用しています。それは基本的に奥歯用なのですが、頑丈さに惚れて前歯にも使っています。CRとはとても思えぬ固さですよ。
 日本人用と違い大理石のように固い白人や黒人の歯の修復に開発されたモノだし、肉食の連中は固いゴム肉、好んで食いますしね。何より訴訟大国ですからやたらに取れたり壊れたりしたら大金を毟り取られてしまいますから、そういう基準において物的耐久性は比類なきものと考え3M社製の最新最強のマテリアルを使用しています。
 MI(ミニマル・インターベンション)という、歯の削りを最小にしようというコンセプトが最近言われていますが、そんなの当たり前ですよねえ。誰が余計に削られたいというのか。僕は大事な歯を容赦なく削り取ってまで頑丈な銀歯を入れるのなら、とれ易くてもいいから天然歯を保存してきました。取れたらまた着ければいいんだし、いずれより強力なセメントが開発されれば無理に大きく削らなかったことが正解となりますからね。
 小さく直すということは技工物の形態が複雑になりますから、歯科技工士さんの腕が相当よくないとそういう治療はできません。その点うちの技工士さんは奇跡的なほどの高い技術をもっていますので(その分頑固だし技工代も高いですけどね)、そういう意味でも患者さんにとって最善の修復をしているという自負はあります。だからウチで入れた歯が取れた時には、仕方ねーやと納得してくれませんかね。
 また、歯を守るために過重な力が掛かりすぎた時、ブレーカーみたいにあえて外れるように設計することもありますからね。頑丈に作りすぎて外れないで歯に応力が集中し、壊れてしまえば抜歯に至ることも考えられます。だったらポコっと取れたほうがよっぽど平和じゃないですか。
 上モノは交換できても、歯はあるものを大事に使うしかないONE&ONLYなものですからね。だから最初から、虫歯にならず詰めず被せず生まれたマンマというのが一番いいのですよ。だから子どもの頃からの予防が大事なんですね。


歯周病とブラッシング
 この稼業で何より困ってしまうケースは、歯周病の患者さんに、ブラッシングへのモチベーションが高くなってくれない方がいることです。歯周病の原因というのはシンプルで、歯の周りの歯肉の淵の清掃が悪く、そこでばい菌が増殖し周りの歯肉や骨を破壊します。ですからその部位を自分できれいにしてもらう以外に、基本的に治す手立てはありません。きれいにすることをブラッシングやプラーク・コントロールといいます。ブラッシングなんて普通他人はやってくれませんよね。つまり歯周病は患者さん本人以外には治せないのです。
 現実問題、小学校低学年以上の来院患者さんで、歯肉炎や歯周炎にまったく罹患していない人というのはほとんど稀です。一見すばらしくても、清掃不十分で腫れている歯肉が皆さんどこかにはある。まずあります。そこをズバッと見つけきちんと除菌できるような掃除の方法をお伝えしています。それで、歯石を取り、きちんと清掃用具が入るように歯や充填物、補綴物を整形して、ここを特に念入りに、これこれこういうふうにやってちょ、と言うのです。もちろんほとんどの方は次回の来院日までにはそれなりに頑張ってやってくれ、多かれ少なかれでも改善は見られます。僕もきっと本人よりも治るのを楽しみにしてますから。
 最初はこんなやり方でいいのかよ!?と半信半疑の方も、すぐに成果が出ますから納得してくださいます。歯周病の進行を止めるのはそうむずかしくはない。だから、とにかくやりさえすれば、必ずいい結果は出るのだから、やってくれればいいのに、何故だかやってくれない人がいる。非常に困ってしまいます。やらないと、末路は悲惨なのに、暗い将来が待っているのに、なぜだかやってくれない。プラーク・コントロールだけは歯医者はしてあげられない。無力です。
 結局本人の自己責任に尽きるし、義歯になる権利もあるのでしょうが、その人も絶対に後悔するに決まってるから、何とかモチベーションを高めてもらおうと僕も使命感をもってネチネチ言うわけです。やってくれなければ通院している限りは言い続けます。嫌がられても、ウザがられても、いい加減にしろ!と殴られても絶対に諦めません。我慢比べです。今、きちんと掃除し続けないと、あなたは大変なことになる、あなたは大変なことになる、あなたは大変なことになる・・・Jホラーばりに耳について離れないぐらいしつこく言いますから、通院をしようと思っている方、その点は十分覚悟してください。僕は人間性はじめ、だいたい何事にも淡白ですが(異議ありの声多数、無視!)、対歯周病に関しては例外的に超粘着質ですから。


いのした歯科親知らずの処置における基本方針六箇条
 其の壱:現状、噛みあって十分機能し役に立ってる場合は当然保存します。しかし、物理的にどうしても清掃が不可能で完全口腔内不潔域となっている場合は抜歯を薦めるときもあります。
 其の弐: 顎の中に埋まっているが、炎症を起こしたこともなく平和に埋伏している場合も基本的には保存します。無理に抜歯する必要ないですから。ただ格闘技やラグビー等顎に外力を受ける競技者は、そこから骨折するリスクがあるので抜歯を薦めるときもあり。(結構酷い折れ方します)
 其の参:オヤシラズに少々問題ありでも、他の歯が抜けた場合移植で有効活用できますので、将来抜歯が少しでも予想されるリスクのある歯を有している場合も保存します。自分のオヤシラズは天然で最良のインプラントです。症例は厳選しますので、今まで失敗例はおかげさまでありません。生着率100%です。さすが手前の歯!!
 其の四:これがあるがために腫れ、痛み、違和感、噛んで痛い等患者さんに明らかな不幸しかもたらさない、デメリット・オンリーの場合には十分説明の上に抜歯して快適になっていただきます。
 其の伍:上記の智歯周囲炎以外では、歯周病リスクがあり、清潔な口腔を保つために大きな障害となっている場合にのみ抜歯をお薦めしております。歯周病は骨が溶けてなくなる病気ですから、オヤシラズのために前の歯を失うリスクがある場合が多いのです。
 其の六:いずれの場合でも、当然患者さんに抜歯非抜歯の最終決定権はあります。抜歯のメリット、デメリットをよーく知った上で納得したうえで処置したほうがすべてにおいて楽です。なおどのような抜歯においても、術中術後の不快事項(痛み!腫れ、出血、機能障害など)を最小限に抑えるために、最大限の努力、工夫は惜しみません。そこは専門ですから最大のウリです。
 なお、口腔外科医として数えきれないほどのオヤシラズを抜歯してきましたが、失敗したな、とか後悔を伴ったケースは今までに幸い1度もありません。これは腕自慢では決してなく、備えあれば憂いなしで、自分の手に余る難症例は、迷わず師匠宗村先生にお願いしております。患者さんにとって何が最善かというのがオヤシラズの場合も同様、いのした歯科医院処置方針のぶれない原点です。
 以上、一口にオヤシラズといっても処置方針はケースbyケースで、疫病神一転救いの神になることもありますから、慎重に吟味した上で患者さんと一緒に処置方針を決めていきます。

親知らずも役立つことあり! 
 酷いムシ歯で抜くほかなくなった奥歯の後釜に、それまで無用だった親知らずを起用する移植をたまにやります。なにしろ、親知らずといっても完全な自分の分身、異物ではないからまず間違いなく生着します。まあ、根のかたちは違うから、抜いたアナの骨整形することはありますが、けっこううまく収まるものです。かつてやった症例で幸い失敗は一例もありませんでした。5年もてば十分と習いましたが、10年軽く超えたケースもざらです。皆さん、当たり前のように普通に噛んで使ってらっしゃいます。迅速に手際よくやると、神経も生かしたままでいけます。
 ですから、レントゲン見て、将来歯を喪失するリスクのある患者さんの親知らずは、移植用のドナーとして抜かずに保存を励行しています。といっても、化膿したり腫れたりするような悪い親知らずはとるしかないのですが。
 業界雑誌を読んでいたら、将来的な移植を見据えた親知らずの保存は、先進国でもメジャーな考えになりつつあるらしいとありました。べつに人がそういっていたからではなく、僕は開業当初からそうしてます。何気に世界の先端を行ってました。
 インプラントの有用性、確実性がかなり認知されてきていますが、その前に奥に埋まってる親知らずは最高の自家製インプラントになりえます。隣の歯を削ってブリッジにしたり、違和感ある有床義歯にしなくてもすみますし、なにより普通の歯が復活するわけなんですから嬉しすぎる話です。
 親知らずと聞いて、ああいやだと抜歯するのではなく、今はベンチでも将来レギュラーに昇格する可能性のある期待の星として、とりあえずそのままにしておくという手もありです。そういうことにならないのがベストなんですがね。
 ※とはいえ、抜歯穴の状態、大きさ、位置、上の歯の状態、そして同じく入れる親知らずの健全度、大きさ、根の状態が申し分なく、歯周病もなく、安全に移植できる要件を満たさないとまずやりませんので、意外とハードルは高いかも・・・。
 ですから、さすがにそう滅多にはないのですが、ここ一発移植行けるぞ!という選ばれた患者さんにはお勧めしています。親知らずも、そうそう捨てたものじゃないのですぜ。

知覚過敏症−研磨剤非配合の歯磨き粉をお薦めします。
 キーン!と歯頚部(付け根)が電撃的に滲みる象牙質知覚過敏症(Hys)。あまりの痛さに深い虫歯だと勘違いされてる方が多く、虫歯じゃないですと言うと意外そうである。
 知覚過敏はかなり痛い。冷たいAIRや水、歯ブラシの接触で引き起こされ、疼痛の余韻がしばらく脳天に残ってつらい。ただ知覚過敏は、歯の硬組織疾患では唯一といっていいが、歯自体を削らないでもいじらないでも治せることが多い。それは患者さんも僕も嬉しいこと。僕はやたらに有限資源の天然歯を削りたくない。いきなり神経抜くなんて言語道断。神経殺せば一発で楽になるが、死んだ歯は脆くなり割れやすくなり変色する。将来の喪失リスクが増大する。実際そんなことしないでも治ることがほとんど。
 結局アレは歯の歯肉との境目付近に象牙質が露出してしまい、C2症状を出しているわけで、その原因は歯磨剤を着けすぎた上での横磨きによる歯質の物理的磨耗というのが多い。歯磨粉に研磨剤が入っているタイプは、その効果で歯面がツルツルピカピカするが、あれは表面を削り取ってるんだから心したほうがよい。絶対に研磨剤非配合がお勧め。クリーム状でジャリジャリせず、違いは分かりやすい。ま、正しい方法でやれば、何もつけなくてもブラシング効果は同じですが、つけるんだったら研磨剤非配合をほんの少々で。
 当院では長年知覚過敏の治しかたをあれこれ研究し、とりあえずたいがいのケースにおいて症状を何とか軽快させるメソッドはあります。まあケースバイケースではありますが。あの鋭い痛みから何とか脱出したいと願っていらっしゃる方に少しでも力になれれば、THE PAIN-BASTERS.INOSHITAにとって何より幸甚なことです。

顎関節症とかみ合わせ
 両方や片方の顎が痛くなったり、カクカク鳴ったり、口が開かなくなったりするいわゆる顎関節症という困った病気があります。これに関しては過去に歯医者が”悪いかみ合わせ”が原因だとして、さんざんいろんな治療法をまるで百鬼夜行のように試した時期がありました。いや、今でも懲りずにやっているところがあるかもしれない。
 しかし、米国などでの研究により、TDM(顎関節の障害)の原因に”かみ合わせ”は関係ないよ、という学説が主流になるに至りました。あると思ったのは歯科医の一方的なる幻想だと。原因だと信じて疑らなかったものが、海の向こうでまったく関係ないということにされちゃったというコペルニクス的転回。かつて自信満々にかみ合わせが原因と言い切って、顎の不調で悩む患者さんの健康な歯を削りまくったり、超高額な治療を行って、かえって治るどころか悪化させ、口の中を取り返しのつかない状態にして、訴えられた同業者の風上にもおけないヤカラは枚挙に暇がありません。かみ合わせと関係ないのならば、やたらに歯をいじるべきではないでしょう。
 もちろん、明らかに調和の取れていない銀歯とかがあれば、とりあえずはずしてみたりはするでしょうし、入れ歯が高すぎたり低すぎたりすれば調整するでしょう。しかしその程度の可逆的侵襲に限ります。健康で虫歯でもない歯の神経を抜いたり、そこまでいかなくても滲みるまで削ったり、どういった学問的裏づけや自信があるのか知りませんが、これはほとんど医療にかこつけた傷害に等しいのではないでしょうか。ましてや手術なんてことを言い出す怖い人たちも未だにいるようですが、顎関節のオペだけは絶対にしてはいけません。あそこは手をつけてはいけない聖域なのです。
 オリジナルの天然の白い歯は、患者さんの宝です。可能な限り手をつけず保存すべきでしょう。
 さらに、悪い咬合が、種々の病気や、慢性疾患、体の歪みや痛みの原因であるという、論理的にまったく弁証できない、非科学的なことを堂々と主張しているセンセイも未だ多くいらっしゃいますね。たしかに少しは関係あるかもしれません、が、まったくないかもしれない。医学的に論理的に証明できないのなら、それはもう民間療法、信仰と一緒です。よく合った入れ歯を作ったら、肩こりが治った、耳鳴りがしなくなった、以前より元気になった・・・これはよくあることです。でもそれは、結果そうなっただけ。逆に肩こり、耳鳴りの原因はすべて噛み合わせだった・・とは絶対に証明できないのです。
 ですから体の不調は噛み合わせを治せば改善する!なんて本がよくありますが、じゃあもしそれでよくならなかったら著者はどう責任とるのでしょうか?現場のリハビリや整形の先生を相手に、学会で論破できるだけの実証性を示して欲しいものですよ。つまり、そういうのは週刊誌の広告によくある、癌が消えるアガリクス、ほとんど香具師レベルのまったく医学的には実証されていない蝦蟇の油のようなものですからご注意を。

 なら当院を訪れる、顎関節症の方にはどう対処してるか・・・そういう方にはご足労様ですが母校の顎関節専門外来に行って診ていただいています。ここは顎の関節のみを扱うプロの集団で、不具合の原因を歯ではなくさまざまな方向から綿密にアプローチして調べ上げ、改善策を立ててくれます。週1〜2人は紹介していますが、ほとんどは日常行っている生活習慣やクセ、姿勢、仕事や趣味の中に何か顎にストレスのある行為があるようで、それを改善していくことで大方症状が軽快していくようです。通院もそう頻繁ではないようです。うちとしても大切な患者さんを紹介するのですから、確実に治せる能力がないところには送れません。最近は長期のデンマーク留学から戻った、同期のクソ真面目で優秀なH先生がこの科に配属されたので、ますます大きな力を得た思いです。
 顎が調子悪い方、歯をいじられる前にご相談ください。意外と身近なことに原因があって、それは結構簡単に改善するかもしれませんぜ。


マウスガード
 歯科医師会主催の学術講演・演題=スポーツ歯学の講演会を聞いた。演者はこのジャンルでの第一人者、東京歯科大学の教授(なぜか日大卒)。運動時・・とくにコンタクト・スポ−ツにおけるマウスガードについての必要性を述べておられた。驚愕したのは、その教室で試行錯誤を重ね、理論的に最善とされたマウスガードは、何と自分がいのした歯科で東芝府中のラグビー選手のために鋭意改良し完成、彼等に提供していたものとほとんど同じだったからで、自分の視点にたいへんな自信がついた。
 なんといっても、僕はリング上でプロボクサーのパンチをさんざん被弾し、サッカーで頭部にヘディングや激しいチャージを受けてきた、いわばコンタクト・スポーツにおける半端じゃない衝撃を身をもって味わってきた男である。その体験を生かし、考え抜いて作られたマウスガードは、絶対に疑似体験では得られない、実戦で威力を発揮するものであると自負している。器械も作り方もプレートも調整もまったく理にかなっていたし、何より装着感が秀逸でプレーにマイナスの影響を極力与えないようにしてある。
 スポーツマウスガードは、下顎から上顎への衝撃の伝達を緩衝し、脳震盪を予防することが、最大の存在理由である。格闘技における、パンチなどの衝撃や、ラグビーのモール、ラックにおける頭部への衝撃、サッカーのヘディングなどは、勝利のために闘う選手にとっては当然避けられぬもので、当然反復して脳はダメージを受けるため後遺症は深刻で、現役時や引退後に神経心理学的に病的状態に至る可能性がきわめて高いという。いちばんいいのは、そんな危険なスポーツはやめることだが、危険なスポーツ、カラダに悪いスポーツほどやってるほうも見てるほうも面白くてやめられないものなのだ(そういう意味では今、旬の本気系格闘技=K1、プライドなんかはマジでヤバすぎる!)。
 そしてさらにマウスガードの効用として、精密器械のような顎の関節を衝撃から守り、また顎の骨折を予防する。さらに歯の外傷(折れたり、抜けたり)を防止し、そして口腔軟組織(唇、頬粘膜、舌、歯肉等)を保護できる。こうなると、マウスガードをしないで、頭部に衝撃を受ける可能性のあるスポーツをすることは、絶対に避けなければいけないという結論が導かれる。そして最近の研究では、そういうプロテクト関連の利点に加え、適切なマウスガードを入れることにより、最大筋力がアップし、精神的にもリラックスできて集中力も高まり、さらにバランスも向上するという一応まだ理論付けは解明されてはいないが、ほぼ確実に有意の差があるらしい。
 実際、その医局では、スピードスケートの清水選手、岡崎選手。スプリント自転車競技。千葉ロッテマリーンズ、リコー・ラグビー部、市立船橋高校サッカー部、協栄ボクシングジム等とタイアップして彼等にマウスガードを提供しているということだ。(清水が世界記録を出したときに、そこのスペシャル・マウスガードを装着していたそうだ。)
 使ってもらうマウスガードはキチッと噛み合って、違和感は最小限に抑えておかねば選手のパフォーマンスの障害になるし、もし入れることで少しでも精神的に乱れれば選手やコーチの信頼も失ってしまう。しかし、歯科医師がきちんどしたものをこしらえて、その有用性が一流選手によって証明されれば、マウスガードというものは一気に世間で当たり前のように使われていく、非常に将来性のある分野だ。しかも歯の治療に比べ、製作はそんなにむずかしいものではない。
 脳や顎、歯を守り、さらにプレーのクオリティが上がるとなれば、どんなスポーツでも生かせるはずだ。なぜなら、ここ一番、食いしばらないスポーツはないはずだからだ。卓球、テニス、ゴルフ、投擲競技、射撃、アーチェリー、ソリ・・思いつくまま挙げたがすべてに使えるじゃないか!これから、マウスガード、絶対に来る!!間違いない!(講義で先生は、小学生のサッカーこそ絶対にマウスガードしたほうがいいとおっしゃっていました。お子さんがサッカーされている親御さん、力になりますよ!)
 日本はまだまだスポーツマウスガードに対する意識が低いらしい。しかし、そのへんが向上していけば日本のアスリートたちのパフォーマンスアップに多大な貢献間違いなしで、アテネに続く北京五輪でも、日本選手の躍進の起爆剤となれるファクターとして将来性十分である。献金汚職問題で地に堕ちた歯科界のイメージを何とか失地回復できる可能性のある明るい分野なので、歯科医師はいつもの如くこれを軽薄にカネモウケの手段と考えず、有用性を慎重かつ上手に世に広汎流布していって欲しい。