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福田外交―道半ばの無念とむなしさ 

 歴史にどういう実績を残したと思いますか。間もなく退任する福田首相にこうたずねたら、どんな答えが返ってくるだろうか。

 北海道・洞爺湖サミットの議長として、地球温暖化への国際的な取り組みに大きな流れを作ったこと。中国との関係改善を軌道に乗せたこと。それらが真っ先に挙がるのかもしれない。

 確かに、外交に意欲的だった。日米同盟とアジア外交が響き合ってこそ国益にかなうという「共鳴外交」を提唱し、「平和協力国家」として世界の平和のために汗をかくと誓った。

 福田外交は、前任の小泉、安倍両首相の路線への反省をも踏まえたものだった。靖国参拝で近隣外交をずたずたにし、「日米関係さえよければ」と米国にもたれかかった小泉時代。自由や民主主義といった理念をやたら押し出した「価値観外交」の安倍時代。

 それぞれにそれなりの理がなかったわけではないが、外交の幅を狭め、日本への不信や疑心を生んだ。そうした認識があってのことだろう、福田氏は日米基軸と同時に、アジアとの良好な関係を重視し、国連など多国間の外交展開を大事にしようとした。

 戦後の日本外交が培ってきた現実主義やバランス感覚を見つめ直し、21世紀の新しい国際環境の中で発展させようということだった。その認識と方向性は納得できる。

 ただ、正しい政策でも、それを実行する政権の求心力がなければ実を結ばない。せっかくの外交刷新が道半ばに終わったのが残念である。

 内政面での難しさは、首相の座を継いだときからはっきりしていた。衆参の「ねじれ」による行き詰まりを打開できないまま、年金や後期高齢者医療問題、さらに中国ギョーザ事件など食の安全にかかわる不祥事が続く中で、政権の体力が尽きた。

 しょせん1年という短期間では、思うような成果を出せなかった。

 アジア重視といっても、対中改善以外に目に見える業績は乏しい。在任中に拉致問題を解決したいと意欲を見せたが、具体的に動くいとまもなかった。果敢に平壌へ乗り込んだ小泉流とは違う福田流の腹案があったとすれば、それを見せてもらいたかった。

 「平和協力国家」も構想段階で頓挫した。アフガニスタンやスーダンなど国際社会が関心を寄せる平和構築に日本がどうかかわるのか、青写真すら描けていない。

 中国やインドの台頭が象徴するように、米一極と言われてきた国際社会の構造は大きく変わろうとしている。その米国には来年1月、新政権が誕生する。その中でどう日本の活路を開いていくか。福田外交が担おうとした課題は、総選挙後に誕生する政権にそのままのしかかる。

米の金融安定策―安定へ大きな一歩だが

 米政府が腹をくくった。金融機関が抱える不良資産を買い取るため、公的資金を数千億ドル、数十兆円相当を投入する方針を打ち出したのだ。

 大手証券リーマン・ブラザーズや保険最大手AIGが行き詰まったのは、住宅ローンの証券化商品などの金融資産の価値が幅広く暴落したことが原因だ。「次なる破綻(はたん)」のうわさも流れるなか、金融市場が凍りつき、健全な金融機関まで資金繰りがつきにくくなる異常事態に陥っている。

 このような窮状を打開するには、金融機関から不良資産を切り離すしかない。米政府の決断を、一連の金融危機を沈静化させるための重要な一歩として歓迎したい。ただし、これで危機が一挙に去るというほど、事態は甘くない。まずは、着実に対策を実行へ移していくことが肝心だ。

 米国で80年代に貯蓄貸付組合(S&L)が多数破綻したとき、その不良債権を処理するため整理信託公社(RTC)がつくられた。今回はその21世紀版といえる。RTCは破綻したS&Lの債権を引き取って売却を進めたが、最終的に約1300億ドル(14兆円)の国民負担が残ったという。

 今後は、大幅に値下がりしている証券化商品などを引き取ることになろう。だが、問題も少なくない。

 将来の値下がりを織り込んだ安い価格で買い取ると、売り手の金融機関の側で損失がふくらみ、破綻に追い込むことも考えられる。逆に甘い値段で買えば、その後の値下がりは国民の負担になるし、金融機関に政府頼みの甘えを許すことにもなるからだ。

 両者の加減が難しいところだが、買い取り策が動き出せば市場に安心感が広がるだろう。同時に、次の策も必要になってくるに違いない。

 多額の損失で傷ついた金融機関を立て直すには資本の増強が欠かせないが、危機に揺れる民間からこれを調達するのは難事業だ。公的な資本注入が必要になるのではないか。

 また、立て直せる見込みのない金融機関は、市場への悪影響を避けつつ退場させねばならない。こうした対策を一歩一歩踏み進めていく以外には、危機から脱出する道はない。

 米国では危機に立つ金融機関が貸し渋りを強めており、景気を悪化させることが懸念されている。安定化策が本格化することで、健全度の高い金融機関から順に身軽になり、融資の機能が回復することを期待したい。

 これから米国や欧州の金融業界では合併や業務の切り売りなど、再編の動きが活発になるだろう。

 日本の金融機関は、欧米にくらべ相対的に力がある。体力の許す範囲でこの再編に参加し、発展のきっかけにしたらどうだろうか。それは、危機から世界が脱出する一助にもなるはずだ。

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