R氏の3R・イン・東京

一言メッセージ :ニューヨークのコロンビア大学留学の思い出、アメリカの環境問題、日常生活で感じたことなど。

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献血・血液製剤・血液行政

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フィブリノゲン製剤と血液製剤由来の肝炎に関する誤解

最近、あまりにも変な報道が目に付くのと、著名な有識者がとんでもない誤解を抱いたまま発言されているのが目に付きますので、やっぱり書いておきます。

明らかに事実と異なる誤解を3つほどピックアップしました。

誤解1:売血の輸入を止めれば薬害肝炎は起きなかった。

血液製剤によって感染するB型・C型などの血清肝炎は、輸入感染症のHIVと違って、日本国内に昔からある病気でした。ですから、 国内の血液を使った血液製剤でも、血清肝炎になる可能性がありました。

日本赤十字社の発行する赤十字新聞に載っていた「日本における輸血後肝炎発症率の推移」によると、 輸血用の血液が全て献血になっても、輸血を受けた6人に1人の方が肝炎になっていました。
イメージ 1

この図が示すように、 ウイルスが発見され、検査方法が見つかり、それが改良されることによって、肝炎感染のリスクが減少したのが分かります。

誤解2:フィブリノゲン製剤はアメリカと日本にしかなかった。

フィブリノゲン製剤によるC型肝炎ウイルス感染に関する調査報告書」によれば、「 ドイツ では、アベンティス・ベーリング社(当時のBehringwerke AG社)が昭和41(1966)年1月にフィブリノゲン製剤の承認を取得し、 以後、継続して販売されている 」ほか、 オーストリア では「バクスター社(当時のOsterrreichisches Institut fur Haemoderivate社)が昭和41(1966)年にそれぞれフィブリノゲン製剤の承認を取得し、 以後、現在まで継続して販売 」しています。

アベンティス社のフィブリノゲン製剤は 「ドイツのほか、オーストリア、スイスなど計14か国で承認」 されており、バクスター社のフィブリノゲン製剤は 「オーストリアのほか、イタリアなど計9か国で承認」 されています。 これらの国でも、フィブリノゲン製剤は「後天性フィブリノゲン血症」、つまり止血目的に使われています。

ヨーロッパ各国では、日本(昭和39年)と大体同時期にフィブリノゲン製剤を承認し、 アメリカの動向にかかわらず使い続けているのです。

誤解3:ウイルス性肝炎=薬害肝炎である。

三菱ウェルファーマ社からの報告によれば、フィブリノゲン製剤が承認されてから平成13年現在までに投与されたのは283,515例。推定感染率が3.7%ですから 推定肝炎患者数が10,594例。 一方、「C型肝炎(一般的なQ&A)」によれば、 C型肝炎の持続感染者数は150万人以上

これらの数字が正しければ、 C型肝炎ウイルスに感染された方の150人中149人は薬害肝炎と関係がない と考えられます。投与医療機関に該当がないからと言って安心できないのです。 たとえ該当していても、推定感染率3.7%という数字が正しければ、投与された25人中24人は感染していないことになります。 上記グラフを見てもお分かりの通り、 同じ時期の輸血の方が確率が高いです。

ただし、フィブリノゲン製剤は、時期によって製法が変わっており、感染率も大分違ったようなので、「3.7%」という数字が常に正しいとも限りません。感染が非常に少ない時期もあったし、異常に増えた時期もあったのです。

「感染症報告と告知」 に関する誤解については、先日書いたから繰り返しませんが、簡単に言うと、 投与されたのは今ではなく10年以上前の話です。 10年以上前に医療機関で製剤を投与され、その後、採血され、検査され、その結果が 当時のメーカーに報告されました。 今、出てきているのは、 10年以上前の対応を検証するために厚生労働省が別件で入手した資料の中に混じっていたもの と考えられます。

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米国では1976年頃に生産中止となった薬剤を、どうして日本ではその後延々と使用し続けたのですか? 代替製剤がなかったからというのは、すごく変な言い訳のように感じます。すぐ中止すれば、枡添大臣の2000億円救済政策(どこまで真剣かわかりませんが)も不必要になったのかなと思いました。枡添大臣と役人のコミュニケーションってどうなっているんでしょうか。上記に記されているような内容が大臣の口から出たためしがありません。 削除

2007/12/4(火) 午後 1:04 [ ywmidori ]

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まず「日本では」ではなく、「日本と欧州各国では」としましょう。
それを前提にして調べてみると、メディアが報じていない事実に行き着きます。

それは、「日本の製剤」と「米国の製剤」と「欧州の製剤」が全然別物である、という事実です。

もちろん、三つとも、元の成分は同じ。血液から取り出したフィブリノゲンです。

ところが、その後のウイルス不活化(ウイルスは細菌でも生物でもないので「殺菌」とは言いません)の方法が違っていました。

米国では紫外線照射のみ。
日本は紫外線照射とBPLという薬品処理。
欧州は液状加熱のものとSDという薬品処理。

これが、肝炎の発生状況を大きく左右しました。

1970年代を通じて、肝炎が多発したのはアメリカだけ。
日本では1985年まで20万本が売れたのに、肝炎の報告は5件。
欧州は今に至るまで肝炎多発事件が起きていません。

日本は、1985年にBPLの発ガン性が分かって、当時発見されていたB型肝炎ウイルスだけを殺せる薬品に変えてしまいました。そして肝炎が多発したのです。(続く)

2007/12/4(火) 午後 11:43 [ r_shi2006 ]

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(続き)日本のメーカーは、その後、肝炎が多発した製剤に代えて乾燥加熱製剤を出しましたが、乾燥加熱ではHIVは不活化されてもC型肝炎ウイルスが不活化されず、肝炎の発生が止まりませんでした。

厚生省は結局、1989年に緊急安全情報を出して使用制限をかけました。平成6年に日本でも欧州のSD処理が導入された後は、肝炎は起こらなくなりました。

国の責任を認めた地裁判決は4つありますが、いずれも1977年の判断を問題にしたものではありません。

東京地裁と大阪地裁は1985年以降の国とメーカーの対応を問題にしており、福岡地裁では1980年に行われるはずが3年後に実施された医薬品再評価を問題にしています。名古屋地裁では添付文書の記載不備が問題とされました。

ちなみに、代替製剤はありました。輸血です。その肝炎発生率は、この記事の最初に書いたとおりです。

もっと言いますと、3年前、坂口厚生労働大臣は、かつて三重県の血液センターで血清肝炎と闘っていた医師でしたので、その経験から、輸血の件と肝炎問題の件については再三再四発言していました。

2007/12/5(水) 午前 0:30 [ r_shi2006 ]

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こういう説明は正直初めて聞きます。なぜ、メディアは偏った情報を伝え続けているかです。もちろん、官を叩けば、視聴率が上がり、官を弁護すれば苦情が来るという事でしょうか。。
まず、疑問に思ったのは、1985年時点でなぜ欧州の液状加熱およびSD薬品処理に切り替えずに、独自の方法を行ったのかです。現在まで、欧州の肝炎多発事件がおきていないのならば、1985年でもおきていなかったはず。ならば、欧州の例に従って不活化をすればよかったのではないですか? 削除

2007/12/5(水) 午前 2:16 [ ywmidori ]

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"日本は、1985年にBPLの発ガン性が分かって、当時発見されていたB型肝炎ウイルスだけを殺せる薬品に変えてしまいました。"
上記の判断を行った人または組織に責任があると感じます。
結局、この判断のために欧州式が平成6年まで導入されなかったように思いますが。。。
もうちょっと枡添さんもそのあたりの説明に流暢になられた方がいいと思いますけど。。w 削除

2007/12/5(水) 午前 2:24 [ ywmidori ]

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医薬品の製法は、ノウハウや特許の塊であって、簡単に他社が真似できない構造になっていることが多いのです。特許は十数年か経つと切れて、他者が利用できるようになりますが、ジェネリック医薬品の例を見ても分かる通り、同じ製法を使っているはずなのに性質が微妙に違う、なんてことが起こり得ます。

ですから、欧州がやっていたからと言って、すぐに導入できたかは分かりません。むしろ、欧州から輸入する方が早かったかもしれません。

ただ、肝炎の事例が20万本中5例というのは、C型肝炎ウイルスが見つかっていない時代からすれば画期的ですから、他国に目が行き届いていなかった可能性も考えられます。

ちなみに、私は、この記事もコメントも、報告書とか、判決概要とか、研究論文とか、すべてネット上の公表資料から確認できる情報で書いています。「原典」を探して「事実」を追っていけば、誰でも同じことが書ける筈です。

2007/12/6(木) 午前 0:45 [ r_shi2006 ]

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『1985年にBPLの発ガン性が分かってBPLから別の薬品に変えてしまいました。』という説明に対して『上記の判断を行った人または組織に責任があると感じます。』との感想がありますが『薬』=『ボロモウケ』という構造が頭にあるのでしょうか。個々の薬の開発や処理の方法は日進月歩という世界です。それによりかつての問題が減少してより良い薬が世に出て多くの人が救われるという現実にも目を向けて欲しいと思います。確かに売れればボロモウケですが、多くの患者さん達は薬を開発して欲しいとも願ってるのですよね。
BPLに発がん性があるとわかった時点で、それを使い続けたら国民は許しませんよね。代替法がまだ十分ではなくても別の方法に変えなければならないのが現実なのです。もう一つここで説明されていない事実として、BPL法そのものが国によって正式に認可された方法ではなかったという事実なのではないでしょうか。従って、良くも悪くもそこが注目されたら取り下げざるを得なかったのも不幸でした。国に責任があるんでしょうかね。誰かに責任を押し付けなければ患者さんたちは救われないのも事実なのでしょうが・・・。 削除

2008/1/5(土) 午後 10:10 [ とおりすがり ]

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ヨーロッパで導入された血液製剤の処理法はSD処理と言われていますが、SD処理法とは界面活性剤処理であったことと導入の遅れは関係ないでしょうか?

日本血液製剤協会のHPではSD法で使うのはtween80という界面活性剤だと出ています。比較的穏やかな界面活性剤ではありますが、合成洗剤の成分の一つではないでしょうか。

1960年代、日本は合成洗剤の使用で大いに議論が沸騰し、合成洗剤をごきぶりに振りかけるとすぐに死ぬことからこんな危険なものを使うのはけしからんと大いに盛り上がったものでした。身体の中に入る製剤をそんなもので処理していることがわかったらどんな反対運動が起こるか考えると慎重にならざるを得ないように思います。 削除

2008/1/5(土) 午後 10:45 [ とおりすがり ]

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とおりすがり様、当時の事情を踏まえたコメントに感謝いたします。マスコミの妄動に惑わされない姿勢を保ち続けたいですね。

ただ、御指摘のywmidori様のコメントは、「薬が儲かる儲からない」ではなくて、「その時点での最高に安全な方法をなぜ導入できなかったか」という問いであると理解しています。その指摘自体は至極もっともなことで、反論の余地はありません。

ここで問題なのは、「その時点」を考える際に、「今の視点」で語っていないかということ。肝炎に関して、マスコミが犯した過ちは、端的にいえばそういうことです。

BPLに発がん性が見つかった「当時」、発見されていた肝炎ウイルスはA型とB型であって、【C型が見つかるのはそれより3年後の1988年】です。すると、B型まで不活化できれば、ウイルスに対しては対処されているとしても、当時の技術水準ではやむなしだったでしょう。

今日のマスコミは、「当時発見されていなかったウイルス」が当時も存在していたというのを「現在の技術で検出」して糾弾しているわけですが。(続く)

2008/1/6(日) 午後 0:07 [ r_shi2006 ]

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(続き)とおりすがり様、それから、SDが界面活性剤であることは、SDの導入の遅れには、あまり関係ないと思います。SDが水質汚濁物質であるために不活化工程に入れられなかったという話を聞いたことがないものですから。

洗濯に使うものがそのまま血液製剤に使われることはまず考えられないし、もし「SDは湖を汚染する物質だから血液中で赤潮を起こす!」などと言う人がいたら、さすがに扇動好きなマスコミでも「ちょっとこれは・・・」と思うのではないでしょうか。・・・思うと信じたいですが(苦笑)

最大の問題は、「加熱フィブリノゲン製剤が導入された当時」、C型肝炎ウイルスは発見されていなかったということです。厚生労働省の報告書によれば、【その当時発見されていたウイルスは不活化されていた】のですから、少なくとも技術的には、【その当時対処可能なウイルスに対しては処置をしていた】と考えてもよい筈です。

C型肝炎ウイルスは乾燥加熱では不活化されず、BPLやSDや液状加熱でなければ効果がないなどということは、ウイルスが見つからなければ、誰だって分からなかったのですから。

2008/1/6(日) 午後 0:16 [ r_shi2006 ]

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実は問題なのはインタフェロン治療が後手に回ったことでしょう。
インタフェロン治療が認可された当初「肝生検」をしなければ
インタフェロン治療は出来ませんでした。これは医療費抑制のため
厚生省が歯止めを掛けたからです。かなりの高いハードルでした。
これにより、現在は高齢者で治療法のなくなってしまった人は相当数
いると思われます。
non-A non-Bが感染すると解っていても、命に代えられず治療上の
選択として「目の前の命を取るか、後の副作用を取るか」でやむなく
血液製剤・輸血を使用したのに、後に色々言われても・・
真面目に働いていた医療関係者の率直な意見ではないでしょうか。

2008/9/7(日) 午後 7:46 [ x1t*rbo**i ]

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x1t*rbo**i様、

> non-A non-Bが感染すると解っていても、命に代えられず治療上の
> 選択として「目の前の命を取るか、後の副作用を取るか」でやむなく
> 血液製剤・輸血を使用したのに、後に色々言われても・・
> 真面目に働いていた医療関係者の率直な意見ではないでしょうか。

この点には同意します。

しかし、インターフェロン治療の「歯止め」については、違う考えを持っています。

インターフェロンは、それこそ様々な副作用が指摘されており、簡単にできるものではありません。それでいて、治癒の確率が非常に低く、昔は2割そこそこで、複合投与など研究が進んで漸く4〜5割と聞いています。治癒に至らなくても進行を抑える効果がある等の知見が広まったのも最近のことです。

副作用がきつく、治る確率も低かった治療法を、保険料と国庫補助をつぎ込んで積極的に進めるべきだったでしょうか。当時の知見から言って、簡単に結論が得られるような問題ではないと思います。

2008/9/7(日) 午後 10:35 [ r_shi2006 ]

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