建築基準法改正についての申入書
1998年3月18日 日本弁護士連合会

【申入の趣旨】

 本年3月17日,政府は「建築基準法の一部を改正する法律案](以下「法律案」という。)を国会に上程した。右によれば,「建築確認・検査の民間開放」及び「戸建住宅・プレハブ住宅等についての中間検査制度の特例」が予定されている。
 それらは,今回の建築基準法改正の柱の一つである中間検査制度の意義を大きく減殺するものであり,導入すべきではない。当連合会としては,昨年10月建設省に提出した意見言のとおり,戸建住宅,プレハブ住宅等を合む居住の用に供する建物に対し,住宅検査による検査制度の導入(第三者による中間検査制度の新設)を求める。

【申入の理由】

1 当連合会では,昨年10月建設省に対し,第三者の中間検査制度の新設を求める建築基準法改正に関する意見書(別添)を提出した。
  意見書でも述べたとおり,当連合会消費者問題対第委員会では,1995年の阪神大震災により建物倒壊等の大規模かつ悲惨な被害が生じたことを契機として,土地住宅問題に消費者の立場から取り組むため,同年土地住宅部会を発足させ,被害根絶に向けての様々な調査・研究活動を行ってきた。
  1996年と1997年に実施した2回の全国一斉「欠陥住宅110番」に寄せられた合計1668件の相談事例を分析検討した紡果,請負・売買の別を問わず,また,施工業者の規模を問わず,雨漏り,傾斜,亀裂,沈下等の深刻な欠陥住宅被害が全国各地で多発しており,欠陥住宅被害発生の最大の原因が,建築基準法の予定する工事監理が形骸化していることにあることが明らかとなった。
  そこで,上記意見書においては,現行建築基準法部予定する検査制度をより一層充実強化することを求めるとともに,現行の建築士事の検査権限と検査方法を実効あるものにするために,建築士事から委託を受けた「住宅検査官」(仮称)に,住宅建築の節目ごとに設計図書や日本の標準的な技術基準への適合性を検査・確認させた上で次の建築工程に進めさせるものとする第三者の中間検査制度を新設すべきであるとの提言を行った。

2 ところで,法律案によれば,「特定行政庁が一定の構造,用途等の建築物について,中間検査を受けるべき工程を指定する。建築士は,当該工程について,建築士,指定確認機関の中間検査を受けなければ工事を続行してはならない。」ことをポイントとする中間検査制度の導入部予定されている。
  当連合会としても,中間検査制度が導入されることになったこと自体は,積極的に評価している。
  しかしながら,他方で法律案が「建築確認・検査の民間開放]と中間検査制度をきわめて限定的に導入しようとしている点は,以下に述べるとおり,せっかく導入されようとしている中間検査制度の効果を大きく減殺するものてあり,きわめて問題である。

3 建築確認・検査の民間開放の問題点
  法律案によれば,これまで地方公共団体の建築主事のみが行ってきた建築確認,検査事務(主に完成検査)を,建築工事に加え新たに必要な審査能力を備える公正中立な民間機関(指定確認検査機関)が行うことができるものとする(建築確認・検査の民開開放)。
  しかしながら,当遵合会が上記意見書で指鏑したとおり,建築確認・検査の民間開放は,きわめて問題である。
  すなわち,住宅は国民一般にとって高価な一生の財産であり,その欠陥は生命身体に重大な影響を及ぼし,社会問題となることもあるのて,その安全性を確保するためには,例えば薬品行政と同じく,行政こそが,その安全性,とりわけ建物の最低限度の安全性に関する建築基準法令の規定が遵守されているか否かについて厳格な検査をすべき義務がある。したがって,建築確認,中間検査,完了検査のいずれについても,基本的には,行政が責任を負うべきてある。
  法律案によれば,公正中立な民間機関の創設を企図し,株式会社も排除されていない。
  その場合,既存の建築業界等が中心となって株式会社が設立されることになると考えられるところであるが,その上うな営利を目的とする株式会社が「公正中立]な立場を保特できるとは到底考えられない。また,手抜き工事等の欠陥住宅を生み出す建築業界の実態・体質,業者に依存せざるを得ない建築士の現状等を踏まえれば,民間の検査機関によりどれほどの効果が期特できるかは,甚だ疑問である。
  せっかく中間検査を導入しても,建築主事による検査のほかに民間の検査機関による検査も認めることに良れば,中間検査制度がその実効性を十分発揮できなくなるおそれがある。

4 中間検査制度が限定的に考えられていることの問題点
  法律案によれば,特定行政庁が「区域,期間及び建築物の構造,用途又は規模を限り,建築主事が建築基準関係規定に適合しているかどうかを施工中に検査することが必要な工事の工程を特定工程として指定するものとすること]とされている。
  しかし,右によれば,「特定工程」として特定行政庁が指定しない限り中間検査の対象とならないということになり,中間検査の実施自体,指定行政庁の裁量に任されており,全く実効性を有していない。
  さらに,戸建住宅,プレハブ住宅等について設計監理を行う建築士による書面の提出により実地検査を省略する特例を認めている。
  この点,上記意見書でも既に指摘したとおり,建築確認申請書には,施工業者と雇用関係や経済的従属関係,ないし事実上一体関係にある建築士が建築確認申請書上監理者として記載されたり,まったく監理をしないことを前提に建築士が「名義賃」をするケースが多く,このような「監理者」は,現実には全く監理を行わなかったり,建築士の立場から法が予定する適正な監理を行っておらず,建築基準法の予定する監理が形骸化しており,そのことが大陥住宅被害発生の最大の原因となっている。
  このような現状のもとで,今回の中間検査制度が認められたなら,現在最も被害が深刻で社会間題となっている居住の用に供する建物(住宅)の大部分について,実質的に中間検査が実施されない結果となり,中間検査制度を導入することが無意味となってしまう。特に,ハウスメーカー等による建売住宅の場合,住宅の購入者は工事監理を依頼することすら不可能であり,ハウスメーカーから独立した公正中立な立場からする実地の中間検査の必要性は極めて高いにもかかわらず,上記特例が認められれば,実地の中間検査は行われないことになる。

5 以上のとおり「建築確認・検査の民間開放」及び中間検査制度に特例を設けることは,今回の建築基準法改正の柱の一つである中間検査制度の意義を大きく減殺するものであるから,その導入を見直すべきである。
 当連合会は,昨年10月の「建築基準法改正に関する意見書]のとおり,居住の用に供する建物に対する施工業者から独立した第三者である住宅検査官による中間検査の真人を求めるものである。

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