自民VS民主
―愛知県連トップに総選挙戦略を問う―

 自公政権の存続か政権交代か―。福田康夫首相の辞任表明で政局は急変。22日に誕生する自民党新総裁は臨時国会で首班指名を受けた後、国民の審判を仰ぐため早期に衆院解散、総選挙に打って出るとみられる。愛知県で衆院選各候補ともすでに走り始めているが、選挙の争点、決意などを自民、民主の愛知県連トップに聞いた。(竹)
■自民党愛知県連会長・大村秀章氏
 奇策なし王道を行く

 「驚天動地。支持者の期待に添えず、率直におわび申し上げたい」
 大村氏は地元の支援者らに安倍前首相に続く政権の投げ出しで招いた政局の混乱を陳謝して回っている。
 多くの国会議員が直前まで知らされなかった突然の辞任劇に「福田首相では選挙は戦えないという空気は(党内に)あったが、予想より早かった。補正予算成立後の退陣が大方の想定だった。臨時国会の日程を決めた上での辞任表明は、いかがなものかなと思う」と苦言を呈す。
 5人が立候補した総裁選はイメージ回復に格好の場。「堂々と政策論争を繰り広げて開かれた総裁選をやれば党にはプラスに働く」と述べ、民主からの「パフォーマンスだ」との批判を一蹴(いっしゅう)。所属する津島派からは石破茂前防衛相が出馬したが、派閥は自主投票。「争点は経済政策。とにかく強いリーダーに期待する。認知度、期待度、知名度を考えれば麻生さん」とみる。
 衆院解散、総選挙に話が及ぶと「10月実施でもいいように準備はしている」と臨戦態勢を強調。戦術に奇策はない。
 「王道を行くだけ。衆院選は政権選択を問う選挙。政策、信条に加えて政権継続を訴えていく」
 県内では7月に候補者を正式決定した2区(名古屋市千種・守山・名東区)の宮原美佐子氏、5区(名古屋市中村・中川区、清須・北名古屋市、西春日井郡)の寺西睦氏の新人2人を重視。「新進気鋭の2人はシンボル的存在。ツートップにして前面に押し出したい」と重点的なてこ入れを示唆。
 争点は経済政策。原油をはじめとする資源高で苦しむ国民生活を危惧(きぐ)して年明けから「この1年は日本経済の立て直しがテーマ」を主張し続けてきた。
 8月29日に政府与党が定額減税などを盛り込んだ大型補正予算案を作成したが、参院で優位に立つ民主の反対で早期成立は厳しい。「ねじれ国会」で苦しむ自民。「すべてをつぶしにかかる野党・民主」を、ナポレオンを破ったロシア軍の戦術を引き合いに出して「焦土作戦だ」と猛然批判。
 先の通常国会では障害者福祉政策の法律でさえ廃案になった。「民主は県内で例えると、長寿医療センターをつぶせといっているようなものだ」と、衆院厚生労働委員会の筆頭理事として法案つぶしへの怒りをあらわにする。
 大村氏は民主を「悪魔」、小沢一郎代表を「悪の権現」と表現。「悪の権現を打ち砕かないと景気対策、福祉や医療の充実もできない。そのためにも新体制ができたら直ちに衆院を解散をして民意を問うべきだ」と熱っぽく語る。次期選挙を「悪の権現を打ち砕く戦い」と位置付ける。
 自公で衆院過半数を維持しても民主が参院で優位な限り「ねじれ」は続くが、民主が衆院選で負ければ離党者が出て、政界再編も予測される。「国民の審判を仰いだ結果を尊重すべき。参院でも反対ばかりできないはず」と指摘する。
 臨時国会召集時期をめぐり関係がこじれ気味の公明党との関係については「トップが代われば関係も修復する」と楽観視。
 大村氏本人も週末は地元に戻り、精力的に支持者回りを行う。これまで年明けの解散、総選挙を想定して動いていただけに、準備を急ピッチで進めている。
 「このままでは日本は沈滞する。今回の総選挙はすべてを廃案に持ち込む悪の権現、小沢民主を打ち砕く戦い。非常に分かりやすい構図だ」

■民主党愛知県連代表・伴野豊氏
 どぶ板覚悟、高齢者に手応え

 次期衆院選で政権交代を狙う民主党。支持母体の連合愛知の力が強く「王国」とも称される愛知県。県連代表として初の国政選挙に臨む伴野豊氏は「愛知県で勝たないと政権交代はない」と強調する。
 「政権交代の是非を問う選挙」と伴野氏は次期衆院選を位置付ける。民主愛知は昨夏の参院選で改選3のうち2議席を獲得、参院躍進の一翼を担った。衆院選は前回(2005年)、小泉旋風に遭い県内15選挙区で6勝9敗と惨敗。「前回は何をやってもノーを突き付けられた」と、伴野氏自身も苦戦を強いられ、比例復活当選で議席を得た。前々回(03年)は10勝5敗と大きく勝ち越しただけに今回は真価が問われる。民主にとっては政権交代の最大のチャンス。
 「前回は突然の解散だったが、今回は準備が進んでいる」。昨年12月に県内15選挙区の立候補予定者をそろえ、12日に党本部が発表した小選挙区1次公認に15人全員が選ばれた。「取りこぼしなく重点地区に選んでもらった。責任を感じる。小沢代表の応援がなくても戦えるようにしたい」と気持ちを引き締める。20日には情勢分析や支援態勢を話し合うため、名古屋市内で衆院選対策本部を立ち上げる。
 戦術については「地道にこつこつと行動する。どれだけ地域を回り、地域の声を拾って、地域に訴えていくか。勝利に王道はない」と断言。議席のない5人を県連としてどうサポートするかが鍵。「正直、濃淡はある。地域との一体感をどう強化するか。相手に競り負けないノウハウをベテランが持ち込んで補完する。地域によって事情はばらばらだし、特効薬はない。粛々とやっていくだけだ」と語り、10月末にも予想される決戦への態勢強化を課題に挙げた。
 一方、自民党に対しては冷たい視線を送る。「2代続けて異常な辞め方をしたのに反省が全くない。おわびの言葉をほとんど聞かない」と5人が乱立して盛り上がる総裁選よりもまず「おわび行脚」を要求。総裁選については「派閥が機能しなくなった。まとめる人がいないのでは。実力者が枯渇している」。
 にぎやかにお祭り騒ぎを繰り広げる総裁選を「茶番」と表現。小沢代表の無投票3選が確定したことで、民主の存在感が薄れ、埋没が懸念されるが「有権者は前回(05年)で懲りている。ブームやムードに惑わされない。その点は安心している。向こうが浮かれている間にこちらは地域をこつこつ歩いて選挙に備える」と強気だ。
 自身は選挙区での当選を目指して南北に長い知多半島を精力的に回る。
 街頭では「官僚制度はぼろぼろ。天下りを禁止して税金や(年金)保険料の使い方など命にかかわることから使わせろと言いたい。一度、民主党に政権をやらせていただきたい。手段として政権交代を」などと訴える。
 地元を回って感じるのは「これまで自民支持だった高齢者が『今度はあんたらに頑張ってもらわな困る。このままでは国がおかしくなる』と危機感を募らせて、民主に期待を寄せてくれている」と確かな手応えを感じている。
 転換点は4月から導入された後期高齢者医療制度という。「あれから一気に流れが変わった。今までは握手を求めにいく方だったが、逆に握手を求められるようになった」と「地殻変動」を誇らしげに語る。
 15日は途中で雨に降られながらも街頭演説を続けた。1日で10カ所以上回ることも珍しくない。スタッフが着ていたポロシャツの背中には「政権交代!」の文字。
 「15人全員当選を目指す」と来る選挙に懸ける思いは人一倍強い。


【写真説明】(左から)民主党愛知県連代表の伴野豊氏、自民党愛知県連会長の大村秀章氏

(2008年9月18日更新)


18日のニュース



コラム



サイト内検索


AND OR
このページの著作権は社団法人名古屋タイムズ社に属します。無断での複写、転載を一切禁じます。
Copyright(C)2008 The Nagoya Times All Right Reserved.