チノパンにポロシャツ姿。球場内のごみを拾い、ファンと気軽に談笑し、時に着ぐるみの中にも入る2A球団「チャタヌーガ・ルックアウツ」の社長兼ゼネラルマネジャー、フランク・バークさんは最難関のハーバード・ビジネススクールの修了生だ。47歳。大金持ちになった同級生もいる。「でも、クラスメートの中で一番若く見えるのは私だ」と笑う。「野球ビジネスは楽しい。球場を後にする子供たちの笑顔は、お金では買えない」
バークさんがハーバード大学院を修了したのは87年、26歳の時。ミネソタ州の大手フルーツ菓子メーカーで管理職を務めるなどした後、94年秋、売りに出されていたルックアウツを、別の2A球団を所有する父親と共同で350万ドル(3億8000万円)で買い取り、翌年、チャタヌーガに居を移した。「根っからの野球ファンであり、中小企業家として腕を振るうのにふさわしい場所」と考えたからだ。34歳だった。
マイナーリーグの各球団は「提携」関係にあるメジャーとは独立した経営体だ。ゲームの采配(さいはい)は、選手、コーチ、監督、トレーナーをマイナー球団に派遣するメジャーが振るが、ビジネス全般はマイナー球団が行い、ゼネラルマネジャーが業務を統括する。
1950年代はメジャーが約8割のマイナー球団を保有していた。球団の乱立や娯楽の多様化などで経営が悪化し、次々と経営権を手放した。結果、現在のオーナーの大半はバークさんのような個人になった。
バークさんはビジネスマンらしく、野球を「固定費ビジネスだ」とみる。1試合を開催するのにかかるコスト、つまりアルバイトを含む人件費、飲食物の仕入れ、球場使用料などは同じ金額。利益を出すには単純に観客を増やせばいい。エンターテインメントを活用する集客努力などで、それまで無料チケットを1年に何万枚も配るような赤字球団を黒字球団に立て直した。この14年間で入場料を値上げしたのは1度だけ。しかも1ドルだ。00年には新球場を自前資金1000万ドル(11億円)で建設した。
マイナーリーグ全243球団を統括する「マイナーリーグ・ベースボール」のパット・オコナー社長は「全球団の3分の2は黒字だ」と明かす。球団価値は3Aで2500万~1500万ドル(27億~16億円)、2Aで1700万~1000万ドル(18億~11億円)……。その額は年々上昇し続けているという。
昨年末、ボストン・レッドソックスの関連会社がヒューストン・アストロズ傘下の1A球団「セーラム・アバランチ」を買収した。レッドソックスのサム・ケネディ上級副社長は「利益を上げている球団で、純粋な投資だ」と、その狙いを明かした。球団は有望な投資物件でもある。【岡田功】=つづく
毎日新聞 2008年9月18日 東京朝刊