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野球再発見

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野球再発見:第10部・マイナーリーグ/1 魅力満載のエンターテインメント

 ◇「明日のファン」育てる

 真夏の午後、鋼鉄の盾を携え、全身よろいずくめの中世の騎士2人がダウンタウンに現れた。「“2人の騎士(トゥ・ナイト=今夜)のゲーム”はAT&T球場で7時15分から」という宣伝ボードを首から掛けている。気温30度。汗を滴らせながら甲冑(かっちゅう)の中に入っているのは、米大リーグ、シンシナティ・レッズ傘下の2A球団「チャタヌーガ・ルックアウツ」の社長兼ゼネラルマネジャー(GM)のフランク・バークさん(47)と球団職員だ。通りがかった子供たちが2人をワッと取り囲んだ。

 米テネシー州、人口約15万人のチャタヌーガ市。1880年、オハイオ州シンシナティとの間に米国初の旅客列車「チャタヌーガ・チュー・チュー」が運行され、グレンミラー楽団が列車の名前をタイトルにした曲を発表したことで、世界中にその名を知られる。ルックアウツは毎年20万人以上の観客を集める地元の人気球団だ。

 マイナーリーグにスター選手はいない。だからこそ、エンターテインメントが集客のカギを握る。

 ルックアウツは96年から数年間、2頭のラクダをセンターの芝生で飼育していた。歩いてテネシー川を渡る様子は地元紙の1面を飾った。97年からは本物の小型戦車を球場に登場させ、試合前にグラウンドを一周する。

 チームが勝利するか、ホームランが出るたびにライトフェンス上に現れるのは「チャタヌーガ・チュー・チュー」。かつての名物機関車の模型で、煙を吐きながらフェンス上を行き来する。観客は歓声を上げ、大喜びだ。

 楽しい仕掛けはこれだけではない。カチカチに凍ったTシャツを早く着る競争など、短いイニングの合間にもさまざまなプロモーションを「連打」する。

 社長兼GMのバークさんが一番気に入っているのは高級車を賞品にした「ビークル(自動車)ナイト」。トヨタ車のディーラーがスポンサーになっているイベントで、赤青黄など10色に色分けした自動車のカギを各色1本ずつ、全70試合のホームゲームで観客にプレゼントする。最終戦、まず当選の色が決まり、同じ色のカギを手にした70人がグラウンドに下りる。そして順々に賞品の自動車に試して勝者が決まる。今年の賞品はミニバンだ。

 「マイナーリーグは『明日のスター』を育てる場所であり、『明日の野球ファン』を育てる場所でもある」とバークさんは語る。いかに球場に足を運んでもらうか。観客を楽しませる努力と工夫には終わりがない。

   ◇  ◇

 米大リーグを支えるマイナーリーグ。大半の球団は大リーグと一線を画す独立組織で、3分の2以上は黒字だ。健全経営の秘密、メジャーとの関係、選手の日常や待遇などについて報告する。【岡田功】=つづく

毎日新聞 2008年9月17日 東京朝刊

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