ASCII24 / インサイドストーリー
韓国巨大メーカー 日本席巻の“野望”は成るか
2002年7月15日
スパイダーマンをめぐって起きた“事件”
映画『スパイダーマン』の予告編をめぐってある事件が今春、米国で起きた。ニューヨークのタイムズスクェアの空中を、縦横無尽に駆けめぐるスパイダーマン。だがその背後に見えるはずのサムスンの看板広告がなぜか予告編の映像から消去され、かわりにUSA Todayの広告がはめ込まれていたのだ。
サムスンの反応はすばやかった。即座に製作元のソニー・ピクチャーズ・エンタテインメントに抗議。さらに看板のあるビルを所有している不動産会社を促し、同社を相手取って損害賠償訴訟を起こさせたのだ。ソニー・ピクチャーズ側はあわてて映画のシーンを再編集し、サムスンの看板を復活させた。事件後、とあるパーティーの席上でサムスン米国法人幹部は誇らしげに語ったという。「彼らは、われわれをタイムズスクエアから追い出そうとした。しかし、見てほしい。サムスンはまだここにいる」(6月13日付ウォールストリートジャーナル紙)
なぜソニー・ピクチャーズがサムスンの看板を消去したのかは、明らかにされていない。だが米国のIT業界に詳しい関係者は「世界市場で急激に頭角を現し始めているサムスンは、ソニー・ピクチャーズの親会社である巨人ソニーにとって今後最大の強敵となってくる可能性が高い。たとえ娯楽映画の中であっても、ソニーが競争相手の存在感をなるべく薄めたいと考えるのは自然でしょう」と語る。先述のウォールストリートジャーナルの記事も、こんな風に指摘している。「サムスンには、とりつかれたように『ソニーに勝つんだ』と語る幹部が多い。この対抗意識は、かつて韓国を植民地にしていた日本に打ち勝たなければならないという国民的な熱意と重なって見える」
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東京・渋谷駅前に登場した日本サムスンの大型看板広告。若者たちの集まる街で、あらたなブランドイメージ戦略をうかがう |
サムスンは1990年代以降、世界のコンシューマー市場に彗星のように登場してきた。かつてその製品が「安かろう悪かろう」の代名詞のように言われたのは、はるか昔の話。ウォールストリートジャーナルによれば、同社はいまではメモリーチップと液晶パネルで世界第1位のシェアを誇るトップメーカーだ。さらにDVDプレーヤーでは世界第2位、携帯電話メーカーとしても世界第3位。韓国の国民総生産の半分以上を稼ぎ出し、押しも押されぬ超巨大企業としてアジアの空の下に君臨している。
そしてその巨大メーカーは、ブランドイメージに関してきわめてナーバスだ。スパイダーマンをめぐる騒動は、その一端に過ぎない。最近も米国の経済週刊誌フォーブスが世界の企業の特許出願状況を扱った記事のビジュアルで、サムスン電子に日章旗をつけるというミスを犯し、同社から抗議を受けた(6月12日付朝鮮日報)。あるいは6月3日に東京で開かれたソニー主催のメモリースティックフォーラム。司会者がサムスン電子を誤って旧社名の『三星(サンセイ)』と呼び、日本サムスン側からクレームがつけられた。日本サムスンの広報担当、リ・マリアさんは言う。「シェアはもちろん大切。だがそれと同じぐらいに、ブランド力が重要。シェアがどれだけ大きいとしても、それに見合ったブランド力を持たなければならない。ソニーのように、製品に対するユーザーの絶対的信頼を得られるのが理想的だ」
そして世界各地でそのブランド戦略に成功を収めつつあるサムスンにとって、最後に残された大きな舞台が、“近くて遠い国”日本といえるかもしれない。そしてこれまでのところ、その戦いは一部は失敗に終わり、一部は成功を収めてきた。しかし決戦場はまだ先だ。
記憶にある人はいるだろうか。Windows 95が発売され、空前のパソコンブームが訪れた1995年冬。「レッツ・ビギン・サムスン!」というコピーが目を引くテレビコマーシャルが、日本のテレビに躍った。白人のダンサーたちが、巨大なパソコンやテレビの前でダンスし、ジャンプする。韓国電機メーカーの日本法人、三星電子ジャパン(現・日本サムスン)が12億円を投じた宣伝戦略だった。あれからいくつもの星霜を重ね、7年が経つ。時代はどう変わったか。
「当時の成果はどうでした?」と聞くと、日本サムスン広報担当のリ・マリアさんは苦笑した。「成果はどうでしたか……と聞かれる程度にしか皆さんの記憶にはないということですよね」。広告への問い合わせは殺到し、知名度は上がったが、サムスンの製品を買おうという購入行動には結びつかなかったのだという。
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