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【主張】川辺川ダム 公共事業に中止の勇気を
九州最大規模とされる熊本県の川辺川ダム建設に蒲島郁夫知事が反対の意向を表明した。賛否両論が渦巻く中での苦渋の決断といえるが、国主導の公共事業の在り方に大きな一石を投じたことは間違いない。
国土交通省は地元の決断として知事の判断を尊重すべきだろう。同時に事業の是非や地元との協議などにも問題がなかったか、今後の公共事業の進め方についても真剣な反省が求められる。
このダムは同県南部を流れる球磨川の支流に当たる川辺川を建設予定地として42年も前に計画が発表された。当初は治水に加え、農業利水や発電を目的とする多目的ダムの計画だったが、流域農家の反対や電力会社の事業撤退などで現在は治水専用ダムに計画は縮小されている。
それでも総事業費は約3300億円と巨額だ。地元の熊本県も最終的に約300億円を負担することになっている。既に約2000億円が道路など周辺整備に投じられているが、本体工事はこれからだ。事業継続となれば総額がさらに膨らむのは確実である。
地方にとって国の大型公共事業をいかに取り込むかが、地域振興の切り札とされてきた。事業費の一部は地元負担となるにせよ、それをはるかに上回る巨額の事業が転がり込むからだ。自治体首長の実力度も、それで測られてきた側面は否定できない。
だが、こうした公共事業の進め方は無駄とも思えるハコモノ行政を助長し、地域の活性化どころか北海道夕張市に象徴される地方自治体の破綻(はたん)を招く大きな要因のひとつにもなってきた。財政再建を掲げる蒲島知事の判断にもそうした思いがあったようだ。
国の責任で是が非でも実施すべき公共事業はもちろんあろう。だが、何が必要で何が不要かという公共事業実施の基本的判断は、関係住民にもっとも近い場所で行われてこそ実効性を持つ。地方分権化が強く求められる理由もまたそこにある。
熊本県の最終決断に至る過程で国交省の九州地方整備局長は「ダム建設を中止するなら水害を受忍してほしい」旨の発言をしたという。いったん走り始めたら、地元を恫喝(どうかつ)してでも走り続けようとする国の姿勢も問題だ。霞が関の机上プランだけで現場の実情を見ようとしない公共事業の在り方は根本から見直さねばならない。