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イージス艦事故:「あたご」前艦長ら争う姿勢 海難審判

入廷する前艦長の舩渡健・1等海佐=横浜地方海難審判庁で2008年9月4日午前9時20分ごろ、杉埜水脈撮影
入廷する前艦長の舩渡健・1等海佐=横浜地方海難審判庁で2008年9月4日午前9時20分ごろ、杉埜水脈撮影

 千葉・野島崎沖で今年2月、海上自衛隊イージス艦「あたご」と漁船「清徳丸」が衝突、漁船の2人が死亡した事故の第1回海難審判が4日午前、横浜地方海難審判庁(織戸孝治審判長)で始まった。刑事裁判の検察に当たる横浜地方海難審判理事所は事故原因をあたごの監視不十分と指摘、これに対し衝突時の当直士官、長岩友久・前水雷長(35)が「清徳丸の右転によって新たな危険が生じ衝突に至った」と主張するなど、被告に当たる指定海難関係人4人は争う姿勢を示した。

 指定海難関係人は▽前艦長の舩渡(ふなと)健1佐(53)▽長岩・前水雷長▽交代前の当直士官、後潟(うしろがた)桂太郎・前航海長(36)▽安宅辰人・前船務長(43)▽あたごが所属する第63護衛隊(現・第3護衛隊)=当時の司令、末次富美雄1佐が出席--の4人1組織。刑事事件としては長岩、後潟の両士官だけが業務上過失致死容疑などで書類送検されたが、原因究明を目的とする審判では海自組織の在り方も問われる。

 起訴状に当たる審判開始申立書によると、護衛隊と舩渡前艦長らは安全運航に関し適切な指示・指導を徹底しなかった。海上衝突予防法上あたごに回避義務があったのに、2士官は漁船の動静監視が不十分なまま直進を続け漁船と衝突。船長の吉清(きちせい)治夫さん(当時58歳)と長男哲大(てつひろ)さん(同23歳)を死亡させた。

 これに対し関係人の陳述で、舩渡前艦長は「漁船の位置について我々と漁船の方々と(の間で主張が)異なる」、後潟前航海長は「動静監視は行っていた」などと反論。一方、当時の第63護衛隊司令、末次富美雄1佐(52)は「誠に申し訳ない」と謝罪しつつ、事実関係には特に言及しなかった。あたご側補佐人の弁護士は「漁船の位置を確定することが重要。十分審理していただきたい」と述べた。

 陳述後、関係人に対する審判庁の尋問が始まり、理事所の調査に対して「見張りがおろそかになり、指導が不十分だった」と述べたことを巡り、「訓練不足だったということか」と問われた舩渡前艦長は「そうは思っていません。(事故原因は)一時的な注意不足だったと思う」と供述。日常的な安全運航指導が不十分だったとの申立書の指摘を否定した。

 審判は早ければ月内に結審、年内に裁決がある。88年の海自潜水艦「なだしお」事故の審判では、1審で海自組織を指導不十分とする「勧告」が出たが、2審では見送られた。【池田知広、鈴木一生】

 【ことば】海難審判 海難審判法に基づき、海難事故の再発防止を目的に原因を究明し、関係者を行政処分する「海の裁判」。故意・過失があったとされる事故当事者を、刑事裁判の被告に当たる受審人や指定海難関係人に指定し、検察に当たる海難審判理事所が海難審判庁に審判開始を申し立てる。船長・機関長ら海技免状所有者は受審人、免状のない海上自衛隊員や法人などは指定海難関係人となる。裁判官に当たる審判官が故意・過失を認めれば、受審人には業務停止などの行政処分を、指定海難関係人には是正措置を求める勧告の裁決を出す。

毎日新聞 2008年9月4日 11時13分(最終更新 9月4日 12時44分)

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