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特集:07年政治資金収支報告書-中央分

 ◇小沢氏、際立つ財力--自民総裁候補5氏と比較

 07年の政治資金収支報告書(中央分)で、自民党の総裁候補5人と民主党の小沢一郎代表の資金力を比較したところ、小沢氏が22億7154万円で他の5人を大きく上回った。与謝野馨経済財政担当相は3億521万円、5人合計でも6億円余りで、小沢氏の資金力が際立っている。

 資金力は6人に関係する政治団体のうち、活動地域が複数の都道府県にまたがり、総務相に報告書を提出した団体に限定して調査。07年1年間の収入と、06年からの繰越金の合計で比較した。関係する団体同士の資金移動は除いて計算した。

 小沢氏の資金力の9割以上は06年からの繰越金で、資金管理団体の陸山会など6団体で21億2331万円に上る。収入は1億4823万円。1000万円以上の政治資金パーティー3回で計5402万円を得ており、個人からの献金も1650万円で他の5人を上回る。東京都内や地元の岩手県内に土地・建物を所有し、賃貸料や不動産の売却益などで2770万円を得ている。支出は2億4506万円で、収入を9682万円上回り、繰越金を切り崩して充てている。

 麻生太郎幹事長は07年6月、東京都内で1621人を集めた大規模パーティーの8473万円を筆頭に1000万円以上のパーティーを3回開き、小沢氏の倍以上の1億1779万円を集めた。

 石原伸晃元政調会長も東京都内で1000万円以上のパーティーを3回開き、6782万円の収入。与謝野氏も9回のパーティーで6182万円の収入があり、いずれもパーティーでの集金力では小沢氏を上回っている。

 ◇時代は空中選挙戦

 ◇テレビCM・ネット広告、宣伝費が急増

 07年の政党交付金の使途(本部、支部の合計)は、テレビCM放映料などの宣伝事業費が過去最高の156億4400万円となり、これまでのピークだった03年(92億8600万円)の1・7倍に急増した。交付金の支出全体に占める割合も35・7%で過去最高。一方、公認料や遊説費などの選挙関係費は55億1200万円で宣伝事業費の約3割5分にとどまっており、選挙戦術はイメージ戦に比重が移っている様子がうかがえる。

 政党別で、宣伝事業費の伸びが最も目立つのが民主党。衆院選、統一地方選があった03年は33億4900万円で、選挙関係費の41億7500万円を下回っていたが、07年には2・8倍の94億4100万円に伸び、選挙関係費の25億900万円を大きく上回った。年初から4月の統一地方選、7月の参院選へとテレビCMを5連続で打ち出し、制作費や放映料が約55億円に上った。さらに女性層を狙った雑誌広告に8900万円、インターネット上のバナー(横帯状)広告に1億4200万円をつぎ込むなど新たな支持層開拓を模索し、広告関連とみられる支出に総額約79億円をつぎ込んだ。

 結果的に民主党は参院選で、改選121議席の過半数に迫る60議席を得て圧勝。当時同党の広報委員長だった千葉景子参院議員は、「小沢代表からは『選対と広報は両輪で』と指示があった。選挙区が広い参院選では、より広報が効果的だと考えていたのではないか」と話す。

 対する自民党の07年の宣伝事業費も58億2900万円で、選挙関係費16億1600万円の約3・6倍になる。ただ、03年には54億6100万円で民主党を上回っていたのが、今回は民主党の約6割どまり。自民党も統一地方選で1回、参院選向けで2回のテレビCMを打ったが、物量が及ばなかった形だ。政治資金収支報告書では、広告関連とみられる支出の細目を「宣伝広報費」で統一し、計35億6500万円を計上しているが、テレビCMや新聞広告などの内訳は明らかにしていない。

 一方、強固な支持組織を持つ公明党は、07年の宣伝事業費が1億2800万円で、選挙関係費の9億3800万円の7分の1程度。宣伝事業費のほとんどを交付金でまかなっている自民、民主両党と違い、自前の収入からも宣伝事業費を出しているが、それを加えても選挙関係費が大きく上回っている。

 その他の政党の宣伝事業費は、社民党4600万円▽国民新党1億6200万円▽新党日本3500万円--だった。

 ◇宣伝効果? 比例代表明暗

 ◇当選--1800万円、民主候補/落選--2.7億円、自民候補

 07年の政党交付金で、宣伝事業費に過去最高の約94億円をつぎ込んだ民主党は、同年の参院選比例代表で約2325万票を獲得、20人を当選させた。その余波で、大金をつぎ込みながら落選の憂き目をみた自民党の比例代表の「組織内候補」もいる。政治資金収支報告書が比較的そろっているケースで実態を調べてみた。

 比例代表の非拘束名簿式では、各党の得票に応じてまず議席の配分数が決まり、その後に個人得票に応じて当選者が決まる。自民党は14議席しか確保できず、当落ラインは20万票台にせり上がった。日本医師連盟が支援した武見敬三氏は、自身の党支部や後援会など三つの関係団体で、選挙関係費や組織活動費などの政治活動費で2億7563万円(重複を除く。以下同じ)を支出したが、得票は18万6616票で、次点で落選。日本薬剤師連盟が推した藤井基之氏も、同様に4団体で1億7605万円を費やし、16万8187票を得たが及ばなかった。

 一方、民主党の当落ラインは6万票台後半。浄土真宗の僧侶で、民主党山口県議だった藤谷光信氏でみると、支部と後援会の2団体で支出したのは1808万円のみ。得票は7万9656票だったが、17番目で議席を得ている。

 ◇「抜け道」小分け献金

 ■複数団体経て巨額に

 政治資金規正法の改正で06年から、政党や政党の政治資金団体を除く政治団体の間では、同一団体への献金額が年5000万円以内に制限された。日本歯科医師連盟の裏献金事件を受けた法改正だったが、当初から、献金額を小分けにして複数の政治団体を経由させる「抜け道」が指摘されていた。日本医師連盟などの07年の政治資金収支報告書からは、その具体的手法の一例がうかがえる。

 同連盟は日本医師会の政治団体。07年の収入は15億1306万円で、政党や政治資金団体以外ではトップの集金力だ。自民党の政治資金団体「国民政治協会」への2億円をはじめ、自民党派閥や有力国会議員など政界に潤沢な資金を提供し、社会保障政策に影響力を及ぼしている。

 規制前の05年には、収入17億1536万円のほぼすべてが都道府県の医師連盟からの献金で、東京都医師政治連盟の2億1000万円を筆頭に、9都府県が5000万円以上の額を出していた。

 献金額の上限が5000万円となった07年は、東京都医師政治連盟からは次の三つのルートで日本医師連盟に資金が渡った。

 (1)同連盟への直接の献金132万円。

 (2)組織内候補の西島英利参院議員と武見敬三前参院議員(07年参院選で落選)の後援会に、それぞれ4811万円を献金。二つの後援会が同額を同連盟に献金。

 (3)07年11月に設立された「医療問題懇話会」に4733万円を献金。懇話会は、大阪府医師政治連盟からも4819万円の献金を受けた後、日本医師連盟に5000万円を献金。

 (2)、(3)は献金を迂回(うかい)させた形で、大阪府医師政治連盟は日本医師連盟に直接5000万円の献金もしている。

 小口分散化の手法により、日本医師連盟は法改正前の05年にはやや及ばないものの約15億円を確保している。

 ◇民主に献金、渋る大企業 自民との差、歴然

 07年の参院選に圧勝し政権交代への期待が高まった民主党だが、企業・団体献金の額では依然、自民党に大きく水をあけられている。民主党の政治資金団体「国民改革協議会」への献金は前年比317万円減の8546万円。一方、自民党の政治資金団体「国民政治協会」は同2億8671万円増の30億8574万円で、集金力の差は歴然としている。

 自民党に2000万円以上を献金した企業は計24社に上るが、同時に民主党にも献金したのは9社にとどまった。献金額も自民の7億8647万円に対し、民主党は1302万円。2大政党化と言われながら、大企業は依然、民主党への大型献金をためらっているのが現状と言えそうだ。

 政治資金規正法改正(06年)で外資の株保有比率が50%超の企業の献金が解禁されたが07年に献金した企業はソニーや中外製薬などにとどまる。

 ◇伸びぬ収入、頼みは「貯金」 交付金からの支出、過去最高

 統一地方選、参院選が行われた07年の政党交付金からの支出額は過去最高の438億1400万円に上った。国政選挙がなかった06年に比べると226億3400万円増えた。献金やパーティーの収入は伸び悩んでおり、各党は交付金の一部を積み立てた政党基金から約118億円を拠出し、選挙資金を賄っていることが分かった。

 07年の政党収入のうち、献金は63億3600万円で前年比2億8200万円増だった。選挙資金を募ったためとみられるが、個人献金は同1億7900万円減の14億6900万円に落ち込んでいる。また、政治資金パーティーを含む事業収入は333億4800万円で同6億4800万円減った。

 収入の伸び悩みから、各政党は選挙資金を政党基金に頼った。06年末の基金残高合計は170億5824万円だが07年末は51億9021万円で69・6%減少した。特に民主党は06年末に70億825万円あった残高を07年末には5億4888万円まで取り崩している。同年の民主党本部のパーティーの収入は2億5580万円で06年と同水準となっており、参院選に「貯金」のほとんどを費やしたと言えそうだ。

 その他の政党の07年末の基金残高は▽自民党31億6496万円(前年比46億7826万円減)▽公明党9億2360万円(同5億3603万円減)▽社民党4億8875万円(同1億8837万円減)▽国民新党256万円(同306万円減)▽新党日本6144万円(同295万円減)。

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 ◆Q&A 政治資金収支報告書

 ◇来年から新制度 1万円超の支出を記載

 Q 総務省が公表した政治資金収支報告書って何?

 A 政党や政治団体の1年間の収入、支出、資産状況が記載されています。今回公表されたのは07年分で、活動範囲が複数の都道府県にまたがる団体が対象です。一つの都道府県に収まる団体は各都道府県選管が公表します。衆参両院の議員数や得票数に応じ、各政党に交付される政党交付金の収支も同時に公表されました。

 Q なぜ公表するの?

 A 政治資金の透明性を高め、不正を防ぐためです。年間5万円超の献金をした人や、1回の政治資金パーティーでパーティー券を20万円を超えて購入した人は氏名や住所が記載され、政治活動費(選挙や宣伝の費用など)として1件5万円以上を支払った場合にも支出先の氏名や住所を載せます。いずれも政治資金規正法で規定されています。収支報告書に虚偽の記載があった場合には、5年以下の禁固や100万円以下の罰金に処せられることもあります。

 Q いつから始まったの?

 A 1948年に政治資金規正法が議員立法で成立し、収支報告書の公表が始まりました。しかし、「政治とカネ」を巡る問題が次々と発覚。その都度、改正を繰り返してきました。

 Q 来年から新しい制度が始まると聞いたけど。

 A 赤城徳彦元農相の事務所費など07年に事務所費の不明朗な会計が相次いで発覚しました。それで同年12月に政治資金規正法が改正されました。人件費以外のすべての経費で1件1万円を超える支出明細を記載し、1円以上の領収書の保存が義務化されました。弁護士などが務める「登録政治資金監査人」の監査結果をまとめた監査報告書の提出も必要になります。新制度は来年1月からで、収支報告書は10年秋に公表されます。

 Q それで問題は解決する?

 A 新制度の対象は国会議員が代表を務める政治団体など国会議員に関係する団体だけで、それ以外は不適用です。別の政治団体を使って資金を迂回(うかい)させ、収支の流れを分かりにくくするなど「抜け道」が残っているとの指摘があります。「政治とカネ」の問題の決着は新たな制度よりも、政治家の良心にかかっています。

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 ■最近の政治資金規正法改正の流れ

 (★は改正時期、カッコ内は主な改正内容、肩書は当時)

2004年    日本歯科医師連盟(日歯連)から自民党旧橋本派への1億円裏献金事件

  05年    ★改正案が成立(政治団体間の献金を年5000万円に制限)

  06年    ★改正案が成立(外資比率が50%超の企業献金を解禁)

  07年 1月 松岡利勝農相事務所の不明朗な光熱水費が問題に

         小沢一郎・民主党代表の資金管理団体が秘書の独身寮購入費を事務所費に計上

      5月 松岡農相が自殺

      6月 ★改正案が成立(資金管理団体の人件費を除いた「事務所費」や「光熱水費」など5万円以上の「経常経費」に領収書添付を義務付け)

      7月 赤城徳彦農相が、実家を政治団体の所在地として届け、多額の経常経費を計上。8月1日に辞任

     12月 ★改正案が成立(国会議員の関係する政治団体を対象に1円以上の領収書添付を義務付け)

  08年 8月 太田誠一農相の政治団体が秘書官の自宅を事務所として届け、事務所費などを計上していた問題が発覚

毎日新聞 2008年9月13日 東京朝刊

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