日本弁護士連合会主催  「死刑廃止を推進する議員連盟の『死刑執行停止法案』を考える」 報告


2003年5月24日(土)に東京の弁護士会館2階の講堂クレオにて、日弁連主催で「死刑廃 止を推進する議員連盟の『死刑執行停止法案』を考える」と題して、映画の上映とシ ンポジウムが行われた。



当日のプログラムは下記のとおり。

第1部 映画上映 12:30〜13:30
「ある殺人に関する物語
  ―あなたはなにものをも殺してはならない」
(ポーランド1988年 クシシュトフ・キェシロフスキ監督)

第2部 13:50〜18:00
1,主催者挨拶  日本弁護士連合会会長 本林 徹氏
2,報告
(1)基調報告    亀井静香氏(死刑廃止を推進する議員連盟会長)
(2)法案の概要   保坂展人氏( 同 事務局長)
(3)日弁連の報告  小川原優之氏(日弁連死刑制度に関する提言実行委員会事務局 次長)
3,パネルディスカッション
【パネリスト】
  亀井静香氏 (死刑廃止を推進する議員連盟会長)
  浜四津敏子氏( 同 副会長)
  金田誠一氏 ( 同 副会長)
  木島日出夫氏( 同 副会長)
  保坂展人氏 ( 同 事務局長)
  山花郁夫氏 ( 同 事務局次長)
  菊田幸一氏 (明治大学教授)
  山内敏広氏 (龍谷大学教授・一橋大学名誉教授)
  石塚伸一氏 (龍谷大学教授)
  原田正治氏 (犯罪被害者遺族)
【コーディネーター】
  大谷昭宏氏 (ジャーナリスト)
  安田好弘氏 (弁護士)


以下に、亀井氏・保坂氏・小川原氏のそれぞれの報告の要旨と、パネルディスカッションの内容(抜粋)を掲載する。

■基調報告 −亀井静香氏(死刑廃止を推進する議員連盟会長)−
私どもは衆参議員122名で「死刑廃止を推進する議員連盟」を超党派で結成し て運動しております。私どもは死刑が存在しているということは、国家として本当に 恥ずかしい事だと思っております。

世界の国々においてどんどん死刑が廃止されてい く中、いわゆる先進国、何が先進だかよくわかりませんけれど、そういう国の中で日 本とアメリカという数少ない国だけで存置しているという状況。これをきっちりする のは政治家の責任であると思っています。いつまでも牛の涎のようにズルズルと引き ずっているわけにはいかないのであります。

残念ながら我が国の世論、マスコミの調査、これもいい加減な部分がありますが、 存置の人が60%〜65%ぐらいという結論がでております。これも設問の仕方によって いろいろ回答が違ってくるのではないかと思います。やはりまず、マスコミの方に死 刑は廃止すべきであるという考え方になってもらうこともたいへん大事なことだと、 実践的な意味においても思います。

私の性格的な面もあるかもしれませんが、やはり 具体的にもっと現実的に物事を進めていこうということ、特に超党派ということがあ りますからそれぞれ違いがあります。その違いの中から一致できる点を見出して死刑 廃止に向けて一歩でも進んでいこうということで今の議員連盟はやっているわけです が、一挙にこうした国民世論の中、国会で死刑廃止法案を通すというのはなかなか難 しい面があります。そういう中で死刑廃止に向けての流れをつくっていくための、ま ずは一里塚を作っていくことが現実的である、と判断いたしました。

いわゆる終身刑の導入をする、と同時に死刑をどうするかという死刑臨調を国会の 中に設定してそこで3年間論議をする。そして結論を出す。この3年とその後の1年間 を足した4年間は死刑執行をしない、という事を一括した法律を出そうということで 議員連盟は意見がまとまりました。今国会に提出するつもりであります。今国会にお いて成立するのは難しいかもしれませんが、秋の臨時国会、通常国会まで視野に入れ てきちんとしていきたい、そのように考えております。

■死刑廃止議員連盟の死刑執行停止法案の内容 −保坂展人氏−
一昨年の秋に亀井氏が議員連盟の会長に就任しました。その9月11日にニュー ヨークのテロ事件がありました。それと時を同じくして韓国で死刑廃止法案が提出さ れました。我々は韓国へ行き、また韓国からも鄭大哲議員を日本へお招きして、勉強 会をしながら死刑廃止議員連盟を増やそうということで、現在122名になっておりま す。

昨年は欧州評議会から20名の議員を中心とした訪日団を迎えました。国会の中で2 日間衆参両院で議論を行いました。議員連盟としてはその頃から法案を用意してきま した。

死刑廃止議連の法案概要を説明します。

『死刑廃止議連案』(通称、終身刑導入および死刑臨調設置法案)の概要
  1. 死刑制度の存廃等に関する臨時調査会の設置
  2. 死刑の執行停止に関する刑事訴訟法の特例
  3. 重無期刑の創設に関する刑法等の一部改正
以上3項目を一本の法律案で規定する。

上記の三項目の概要
  1. 死刑制度の存廃等に関する臨時調査会の設置
    1) 各議院に、死刑の存廃、廃止の場合の代替刑の内容等に限定し、期限を設けて 結論を出す検討機関として、「死刑制度の存廃等に関する臨時調査会」(仮称)(以 下、「死刑臨調」)を設けるものとする。
    2) 構成員は法案の提出・質疑の権限を有する国会議員とする。また、専門家、各 界を代表する民間人の意見を参考人として継続的に招致するほか、公聴会を開催し幅 広い聴取を行う。
    3) 設置期間は3年とする。
    4) 平成16年4月1日に設置するものとする。
    5) 死刑臨調の調査を終えたときは、調査の経過および結果を記載した報告書を作 成し、各議院の議長に提出するものとする。

  2. 死刑の執行停止に関する刑事訴訟法の特例
    1) 死刑臨調設置の日(平成16年4月1日)から、死刑臨調が調査・報告を終えた日 から1年を加えた4年が経過する間、死刑執行を停止するものとする。
    2) 死刑臨調の結論を踏まえた立法措置を講じる期間として、死刑臨調を終えた日 から1年間も死刑執行停止期間とした。
    3) 死刑執行停止の対象者は、死刑臨調設置後に死刑の言渡しを受ける者はもとよ り、既に死刑の言渡しを受け判決が確定した既決者も含まれるものとする。

  3. 重無期刑の創設に関する刑法等の一部改正
    1) 重無期刑創設に関する刑法の一部改正
    (1) 法定刑として死刑が規定されている罪について、死刑と無期刑の間の中間刑とし て、重無期刑(重無期懲役刑及び重無期禁固刑)を創設する。
    (2) 重無期刑は仮出獄を認めないものとする。
    (3) 重無期刑の者が恩赦により刑の軽減を受け無期刑になった場合、重無期刑を受け 服役していた期間は、無期刑の仮出獄に必要な10年には算入しないものとする。
    2) 重無期刑創設に関連する恩赦法の一部改正
    仮出獄を認められない重無期刑者にも一定の期間経過後は無期刑への軽減を可能と するために、現在は監獄の長が持つ恩赦上申権を重無期刑者にも認めることとし、その バランス上、死刑囚および無期刑者にも恩赦上申権を認めることとする。
    下記の者について、下記の期間経過後恩赦の上申権を認めることとする。
        T 重無期刑受刑者  15年
        U 無期刑受刑者   10年
        V 死刑囚      期間制限なし

■日弁連の「死刑問題に関する提言」について −小川原優之弁護士−
日弁連の提言の趣旨は次のとおりです。
  1. 日弁連は、死刑制度の存廃につき国民的論議を尽くし、また死刑制度に関する改 善を行うまでの一定期間、死刑確定者に対する死刑の執行を停止する旨の時限立法 (死刑執行停止法)の制定を提唱する。

  2. 日弁連は、死刑制度に関して、下記の取り組みを推進する。
    (1) 死刑に関する刑事司法制度の改善
    (2) 死刑存廃論議について日弁連内論議の活性化と国民的論議の提起
    (3) 死刑に関する情報開示の実現
    (4) 死刑に代わる最高刑についての提言
    (5) 犯罪被害者・遺族に対する支援・被害回復・権利の確立等

上記の提言をする大きな理由は二つあります。
  1. 死刑廃止へと向かう世界の潮流がある。
  2. 我が国の死刑制度の持っている、誤判防止制度の欠如、死刑に直面する者に対す る権利保障死刑確定者の処遇や執行手続きにおける人道上の問題等の基本的人権 侵害に対する擁護。
また、死刑廃止と犯罪被害者・遺族に対する支援は車の両輪である事を強調してお きます。

今回の法案が提出され、議論されている間も死刑の執行はなされるべきではないと、 日弁連は訴えます。議論する議員のみなさん、マスコミのみなさんも含めて、事実上 の死刑執行を止めていく力になってもらいたいと考えています。

■パネルディスカッション
続いて、大谷昭宏氏(ジャーナリスト)と安田好弘氏(弁護士)がコーディネータとなって、パネルディスカッショ ンが始まった。
大谷氏は死刑存置の立場から、安田氏は死刑廃止の立場からパネラー の人たちとの議論が行われた。

以下、議論の抜粋である。


<終身刑導入について>
安田:
死刑執行停止法案の中で、大きなテーマとなるのは終身刑導入ということだと 思います。この事から話し合いに入りたいと思います。「終身刑導入なくして死刑廃止 はない」と歴代の議員連盟の会長は言っておられましたが、亀井会長はどのようなお考 えで終身刑を導入しようとしておられるのか。

亀井:
私は、死刑廃止ズバリそのものを法律にした方が良いに決まっていると考えて います。しかし先程言いましたように、国民世論というものがあり私ども議員は選挙 で選ばれているわけですから、多くの意見が存置であるとするならば、廃止に一歩でも 近づくために、まず終身刑の導入をする。終身刑を導入するから死刑はなくてもいいのではないか、という流れをつくることです。自民党の中では終身刑を導入するなら死刑を廃止してもよいという人はけっ こういる。まず外堀を埋めてしまおうということです。終身刑が導入されれば、凶悪 犯罪で死刑判決であろうと思っても終身刑が多くなっていくのではないか。終身刑判 決が多くなって、死刑にしなくてもよいという許容する感情が広まっていくというこ とがあり、死刑そのものの廃止がやりやすくなる状況ができてくると考えます。

石塚(龍谷大学教授):
私は、終身刑導入には反対です。刑務所へ入る人即ち犯罪者を減らすには、 刑罰の量をできるだけ少なくするという政策によって可能だと考えるからです。刑務 所へ長く入れておくという刑罰は、社会復帰を遅くし再犯者を増やしているという現 状があります。また、終身刑の人たちの処遇というのは極めて難しいものです。一生 刑務所から出て来られないのですから希望がありません。希望がないまま社会復帰が あり得ない人をずっと拘禁しておくことは極めて人道的に問題があると考えます。

菊田(明治大学教授):
死刑廃止は絶対に実現しなければならないのです。終身刑はそのための方法で あり、死刑存置論者への橋なのです。存置論者が死刑廃止へと渡るための強固な橋で す。終身刑という橋を架けましたからどうぞこちらへ渡って下さい、というもので す。あらゆる世論調査は、終身刑を導入すれば、死刑を廃止しても良いという結果が 出ております。死刑廃止のために終身刑の導入は必要であると考えます。

大谷:
亀井会長におたずねしたいのですが、重無期刑ができたからといって何がなん でも死刑制度を廃止しなければいけないのか。例えば、9.11のようなテロがあったと きに、もし日本に死刑がなくなっていたら、犯人を捕まえたが死刑にはできないという ことで、国民世論が納得するだろうか。どうしても許せない者に関しては死刑を残し ておくという選択肢もあると思うのですが、どうでしょうか。

亀井:
そうした凶悪犯を死刑にしたら、何が生まれるのですか。殺して何が生まれる のですか。私は冤罪があるかないかというのが、死刑がいいのか悪いのかの分水嶺だ と思っている。たとえ100万分の1であろうとやっていない者、あるいは殆ど間接的 にしか関わっていない者が実行犯にされてしまうことがある。悪い奴は殺してしまえ という報復感情でやってはいけない。

<恩赦上申権の必要性>
安田:
終身刑は死刑以上に残虐な刑であるという意見、処遇は難しく経費もかかりた いへんだという意見もありますが。

亀井:
死刑はやはり一番残虐な刑だと思います。冤罪だとしたら、生きておる限り再 審の機会があるわけです。今は再審の機能がきちんとしておりませんが、生きておれ ば裁判の誤りが正される可能性が残るわけです。死刑のように殺してしまったら終わ りですから。

大谷:
そんな重無期をやったら、夢も希望もないと法務省も言っていますが、監獄の 秩序が守れないのではないですか。残酷な刑を廃止するというなら、この重無期刑も 極めて残酷ではないかと思われますが。

山内(龍谷大学教授):
死刑というのはやはり一番残虐な刑です。憲法の生命権を侵害する行為です。 今回の法案は、死刑が憲法違反であるならば、死刑廃止法案を出してもらいたかった というのが私の意見です。しかし、死刑の執行を当分の間は停止にするという効果を 伴うということにおいて、この法案を出された議員の方々に敬意を表するわけです。 重無期刑が、一生涯監獄から出られないという夢も希望も無くなった人間に与える精 神的ダメージを考えると、肉体的な残虐性はないかもしれないが、精神的な残虐性に おいては大変なことになると、認めないわけにはいきません。ですから重無期刑の人 たちには、恩赦への上申権を必ず確立させなければいけません。20年25年経ったら出 ていける少しの可能性でも残しておけば、重無期の残虐性を少しは軽減できるのでは ないかと考えます。



原田(犯罪被害者遺族):
死刑というのは人が完全に無くなってしまうことです。人間は誰でも生きた い、ものです。
終身刑であれば生きて償えるわけですから。死刑には反対です が、終身刑導入には賛成したい。


<死刑執行停止法案は憲法違反か>
大谷:
死刑執行停止に関してですが、三権分立の中で最高裁が最終判決を出して、法 務省が執行するわけですが、立法府は法律を作るところであって、そこが執行を止め ろということができるのか。司法が出した結論を、行政がやろうとしていることに、 立法が止めろということができるのかどうか。

亀井:
国会というのは国の最高の立法機関であります。一定期間ある結論を出すまで、 司法の判断の執行については、これを待ってくれというのは、立法府の立場で決める のは何も問題はない。判決の有罪を無罪にするなどということはできません。執行に ついて、その法律を検討しているから待ってくれというのは、何も問題がないと考え ます。

安田:
2月の22日23日に行った直近の世論調査ですが、死刑を存置すべきであるとい うのが45.7%、直ちに廃止すべきが2.1%、終身刑を導入して廃止するというのが 29.9%、直ちに廃止と終身刑を導入して廃止というのを合わせると32%となります。今 回の法案がどのような人たちに支えられているかと考えますと、亀井会長の言われた 終身刑を導入して廃止すべきであるという意見が大きいのかなとも思われます。

現状の無期懲役というのは10年〜15年経てば仮出獄できるようになっていますが、 実態は全く違っている。現実は20数年経ってやっとで、しかもほんの数人いるかいな いということがある。現状の建前と実態が全くかけ離れている、という認識が立法を していく場合も必要であると思います。

死刑執行停止法案が三権分立の精神から憲法違反になるという論議がありますが、 憲法学の立場では、山内さんいかがでしょうか。

山内:
法制局の方が言っているということですが、その論拠がまったくわかりませ ん。最高裁で死刑の執行が確定する。その後に法務大臣が判を押すことを要請されて いる。しかし、同時に憲法は恩赦の規定を内閣の権限として与えている。個別な最高 裁の死刑判決に対して、内閣の権限として恩赦を与えていることを憲法が保証してい るわけです。立法機関である国会が決めた死刑執行停止法案があって、それに基づい て内閣が司法に執行を待ってくれというのは、そういう観点からも憲法違反にはなら ないと考えます。もし、法制局が三権分立に抵触するというならば、法制局が立証す る責任があると思います。

<死刑臨調の成り行き>
浜四津:
何年死刑執行を停止するかというのは、国民的議論の必要な期間ということ です。5年間事実上の執行停止が続けば、その後に死刑を復活するというのはかなり 抵抗があるのではないか、という議論はありました。

金田:
今回提出するのは、3年の臨調に1年のモラトリアムの延長、つまり4年間の執 行停止になっております。その3年間で結論が出なければ、臨調の方から新たな考え が示されるだろうと考えております。 

大谷:
1956年以来の死刑廃止に関わる法案の提出ですが、もしも今回通らなかっ たら相当に影響が大きいのではないか。3年や5年の枠で決めていいのだろうか。もっ と長いスパンが必要ではないか。我々のような存置論者の方が圧倒的に強いのだとい うのは、心の隅に置いておいた方が良いと思いますがいかがでしょうか。

浜四津:
それはよく心に刻んでおります。ヨーロッパにおいても死刑廃止に至るまで は、多くのところで死刑存置論者のが圧倒的多数であったわけです。それを政治家が リードして廃止に持っていった。ですから必ずしも悲観的にはなっておりません。論 議の結論が死刑廃止にいくのかどうかはわかりません。日本人全体として死刑という のはどういう意味を持っているのか、どうしたらいいのかを全く論議してこなかった 現状を変える意味からも必要だと思います。そしてどうしても死刑が必要だというこ とになったら、私はそれでやむを得ない。日本は人権後進国なのだとあきらめる、今 回はですよ。その次の手を考える以外仕方がないと思います。

<被害者・遺族の問題>
原田:
被害者のことは全く考えられていないというのが現状だと思います。私は上申 書・嘆願書というのを何度も出しました。しかし、そういうのは一つも取り上げられ ない。無視されて、結局死刑は執行されてしまった。被害者の権利、加害者の権利が 全く無視されている。死刑が執行されて、被害者感情、国民感情だといわれる。国民 感情って何でしょう。よくわからない。被害者感情って何でしょう。それもわからな い。被害者の権利なんて何もないです。被害者支援の問題は、死刑執行停止法案と同 時に進めていかなければいけない。被害者支援を全く無視して、死刑廃止のことはで きないと思います。

大谷:
議員のみなさんは、被害者の方がどのようにしたら、癒されると考えておられ るのか。死刑のことと関連づける形でお伺いしたい。

浜四津:
アメリカで娘を殺された母親の話を伺ったことがあります。その母親は、加 害者が死刑にされたことで本当に癒されたかというと、そうではなくてむしろ虚しい 思いにとらわれた。本当に癒されるとするならば、愛する娘を殺した犯人が自分の やったことは心から申し訳なかったと反省をしてくれた時だろう、と。確かにそうだろう なと思いました。しかし具体的にどうすれば、加害者がそういう反省に立てるのか。 たいへん難しい問題だと思います。被害者の精神的経済的救済というのは、死刑囚が 加害者だというケースだけでなく、日本では大変遅れています。死刑の問題も含めた 司法全体の問題として、見直していかなければいけない。

金田:
私自身は犯罪の被害者になったことがないので、もしも体験した立場で今の法 案を出せばまた違ってくるのかなとも思います。しかし、死刑制度は国家が被害者の 立場に立って作ったものではありません。国家というのは人の命を奪うこともできる 超越した存在なのだ、という国家観が、それを手放したら国家の秩序を保つことがで きないという考えに立っているのではないかと思います。国家というのは全体的な権 力を持って国民の上に君臨する存在ではなくて、国民の総意のもとにそれに奉仕する 存在であるという近代的な国家観に移行できずにいるのが、日本という国家なのでは ないか。それが、薬害エイズであり、ハンセン病であり、原田さんの問題だろうと私 は思っています。

木島:
残虐な犯罪を憎むということと、そういう残虐な犯罪を起こさせない社会を作 るということは、矛盾しません。それと同時に死刑を無くしていこうという社会状況 を作っていくということしなければいけません。

保坂:
原田さんが、自分の兄弟を殺めた犯人を死刑にしないでくれ、ということで法 務大臣に会った。しかし結局死刑にされてしまったという貴重な体験を話されまし た。修復的な方法で、加害者と被害者が向き合っていくということは、今の量刑制度 の中ではなかなか難しい。難しくともその回路はしっかり見据えて被害者遺族の経済 的なことも踏まえてやっていかなくてはいけない。

山花:
懲役を勤め上げて犯人が出てきたからといって、被害者が癒されるということ ではありません、これは制度の問題ですから。被害者の人としては、加害者が被害者 に対して一体何をしたのかということを理解して反省し、相手の気持ちに立てるとい う状況を作るということが、精神面では大事なことではないかと思います。その一つ の方法として修復的手法があるのだと思います。  死刑というのは、そういった可能性いっさいを、国家権力が奪ってしまうもので す。
(2003.8.3 up)


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