上司が電話を受ける。
「手紙受け取って頂きましたか?」
「ええ」
「主人は生活費を入れてくれないんです。主人に何か言って下さいました?」
「いえ、これはご夫婦の問題なので、二人で解決して下さい」
「それができないから、手紙を出したんですよ」苛立ちながら言うヨウコ。
「夫婦の問題を会社に持ち込まれても困るんですが」と、極常識的なことを言う上司。
「そんなこと言ったって、社員の家族の面倒も見るのが大きい会社の勤めなんじゃないですか!」と、無茶なことを言う。
「とにかく、家庭の問題には会社は口出ししませんので、夫婦で話し合って下さい」と、上司は電話を切った。
電話を切ると、ケイの方へ目線を向けた。
視線を感じたケイが、上司を見る。
上司は目配せをし、廊下に出るよう促した。
喫煙スペースでタバコを燻らせる。
「何かあったんですか?」
「今、カミさんから私に電話があったよ」
「そうなんですか?それはすみません」
「私は構わないよ。社員の家族面倒まで見るのが大きい会社の勤めじゃないですかだと。どうしてそんな発想になるのかねぇ」
「そんなこと言いましたか」
「ところで、生活費は入れてるよね」
「もちろん。給料をかなり入れてます」
「しかし、聞きしに勝る女だね。生活費もらってないって言うんだから」
「そんなこと言いましたか」
「ありゃ、簡単に別れないだろうなぁ」
「それを考えると憂鬱になりますよ」
「夫婦のことに会社は口出ししないって言ったから、もう電話がかかることもないだろう。まっ、私のことは気にするな」
「ありがとうございます」
また、この様なことがないようにケイは、給料のほとんどをヨウコが管理する口座に振り込み、この年の夏のボーナスは100万振り込んだ。お金さえ入れていれば文句はないだろうと。
しかし「ユウにお金が要る」と、ケイの携帯に頻繁に電話がかかった。この頃には住宅ローンは完済し、他にローンはなく十分に生活できるだけのお金は振り込んでいるのに、それでも飽き足らず金の要求をするのだった。
家を出る前に、通帳を見せるように要求するとケイの通帳には100万ほどの金しかなかった。
そんなはずはないと思い「他にあるだろう!」と言うと「これだけしかない」と、ヨウコは言うのだった。
ウソだと思うケイ。
自分の生活が成り立たないぐらいに送金していたので、ケイは、また借金する羽目になった。でないと生活できないのだ。
毎月の送金額を見ると、ケイの生活が成り立たないなど一目瞭然である。ヨウコはケイの年収を把握しているのもかかわらず、金を要求するのだ。一体ケイにどうやって生活しろというのか?借金をするしかないことなど簡単に推測できる。
電話がかかっても金の要求だけで、ケイを労わる言葉や生活の心配をする言葉など一切ない。帰ってきての言葉もなかった。
住所を知っているのにも拘らず、下着の一枚も送ってくることはなかった。
正しく、亭主元気で留守がいいというところだろう。
ヨウコは、お金さえ送金されれば良かったのだ。
そして、この状態で2年の年月が流れた。。