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社説

沖縄密約訴訟 歴史の「真実」を葬るな(9月5日)

 一九七二年の沖縄返還は戦後史を画する出来事だ。その歴史と向き合うことがこんなにも難しいとは。

 返還の一年前に日米両政府が交わした協定には、国民が知らされていない裏取引があった。元毎日新聞記者の西山太吉氏が極秘公電を基にそう暴いた。

 協定では米側が払うはずの軍用地復元費用を、実際は日本が肩代わりするとの内容だ。いわゆる沖縄密約事件である。西山氏は国家公務員法違反に問われ有罪が確定した。

 「不当な起訴で名誉を傷つけられた」と国に損害賠償を求める訴えを起こしたのは二〇〇五年だ。一、二審は敗訴した。上告していたが、最高裁も訴えを退けた。

 敗訴が確定したのだ。

 民法には、不法行為から二十年で請求権は消滅するという規定がある。最高裁は、この規定を適用した一、二審の判断を踏襲した。

 訴訟は西山氏にとって単なる名誉回復の戦いではない。本当の狙いは法廷で密約の存在を証明することにあった。だが最高裁も密約問題には踏み込まなかった。完全な門前払いである。極めて残念な結果だ。

 当時の佐藤栄作首相は沖縄返還に政治生命を懸けた。「沖縄の祖国復帰が実現しない限り、戦後は終わっていない」という言葉は有名だ。

 その実現に際し、軍用地の復元費用以外でも「核の再持ち込み」などさまざまな内密の約束をしていたと研究者たちは指摘している。

 返還には日米の同盟関係を安定させ、強化を図るという政治的な目的があった。今から三十六年前のことだが、現在につながる歴史だ。

 真相を明らかにし、正しく位置づけていく作業の重要性は、あらためて強調するまでもなかろう。

 二〇〇〇年と〇二年には西山氏の主張を裏付ける公文書が米国で見つかった。〇六年には元外務省アメリカ局長が北海道新聞記者の取材に密約はあったと明確に認めた。

 事実だと証明されたも同然だ。それなのに外務省は「一切ない」と全面的に否定している。

 国家間の交渉ごとに秘密は付きものだということだろうか。だが相手国は文書の公開に応じている。外交上の信義に反することはあるまい。

 時間も十分に経過した。事実をつまびらかにすることが、歴史に対する誠実な姿勢というものだろう。

 西山氏の敗訴が決まった日、ジャーナリストや学者のグループが関連の文書を公にするよう外務省と財務省に情報公開請求した。

 政府はこれ以上、国民の「知る権利」を侵してはならない。民主主義の根幹にかかわる問題である。一日も早い公開を強く求めたい。

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