【カイロ高橋宗男】イラク駐留米軍は1日、かつてイスラム教スンニ派武装勢力による対米攻撃の中心だったイラク西部アンバル県の治安権限をイラク当局に移譲する。スンニ派が多数を占める県での権限移譲は初めてで、全国では18県中11県目。だがシーア派中心のイラク政府は、治安回復を担った地元スンニ派部族らの「切り捨て」を始めており、宗派対立の再燃が懸念される空気が漂っている。
治安権限は軍や警察の正規治安部隊に引き継がれるが、アンバル県などのスンニ派地域で治安回復の柱となってきたのは、地元スンニ派部族で作る「覚せい評議会」だ。メンバーの多くは米軍の資金提供で、対米攻撃から反テロに転じた。評議会はアンバル県のほか、ディヤラ県やバグダッドなどでも設立され、米軍はメンバーを「イラクの息子たち」と呼ぶ。
ところがシーア派が中枢を占めるイラク政府は、治安権限移譲の進展と並行して「イラクの息子たち」の切り捨てに出始めている。マリキ首相の出身母体「アッダワ党」のアバディ議員は米紙に「元武装勢力に給与を支払い続けることはできない」と強調する。
政府は「イラクの息子たち」の20%を治安部隊に編入すると約束したが、手続きは停滞したままだ。ディヤラ県やバグダッドの一部では「息子たち」の摘発が始まっている。
シーア派の間には、覚せい評議会がシーア派に対する脅威になるとの危惧(きぐ)がある。政府の切り捨てにより、「イラクの息子たち」が再び武装勢力に吸収されるとの見方も出ている。
アルカイダなど過激なスンニ派武装組織に対抗するため、米軍が資金支援した「覚せい評議会」のメンバーを指す。現在、全国で10万人とされ、大半はスンニ派地域の地元部族民。米軍は1人当たり300ドル程度の月給を支給し、訓練費などと合わせ今年1月以降の支出は3億ドル(約326億円)に達した。イラク政府は正規の治安部隊とは区別し、民兵扱いしている。
毎日新聞 2008年8月31日 21時16分