秋葉原の無差別殺傷事件現場付近に設置されている献花台では、通行人らが手を合わせていた=20日夕、鬼室黎撮影
東京・秋葉原の無差別殺傷事件で、殺人容疑で再逮捕された加藤智大容疑者(25)をよく知る同級生や元同僚は、車が好きで、普段はまじめだが、突然怒りを爆発させる姿を覚えていた。親しい人には涙を見せるなど弱い一面もあった。現実でもネットでも「孤独」に陥ったと供述している加藤容疑者の、出身地・青森に戻ってきた1年半前から事件までを追った。
加藤容疑者は07年1月〜9月、青森市内の運送会社でトラック運転手として働いていた。仕事ぶりはまじめで、入社3カ月で正社員となり主に2トントラックを運転。「車が好き。もっと大きい車を運転したい」と話したという。
仕事の合間にはゲームセンターに頻繁に通い、景品のぬいぐるみを車内に並べたり、同僚にあげたりしていた。
運送会社では何度か、先輩社員の荷物の積み込みを長時間手伝った。その影響で自分の仕事が遅れ、それを取り戻すために有料道路を使ったとして、先輩に料金を請求、「金払えと言ってるだろうっ」と大声を上げたことがある。仲間がとりなして騒ぎは収まった。後日、飲み会の席で、ほかの同僚に「迷惑かけてすみません」と泣きながら謝ったという。
同僚は「青森にいれば友だちもいて、こんなことにならなくて済んだのに……」と話す。
昨年11月から派遣社員として働いていたのは静岡県裾野市の関東自動車工業の工場。1台につき約1分間、目視などで塗装状態を確認していた。仕事ぶりは熱心だったと周囲は認める。
今年3月に職場の同僚と高速バスなどで秋葉原に行ったことがある。ゲームソフト店、メードカフェ、そして裏路地にあるアニメ同人誌の店……。解説しながら明るく同僚を案内した。帰りのバスで「アキバはこんな感じですよ」と仲間に話したという。
事件前の最後の出勤となった6月5日、つなぎ(作業服)が見あたらないことで激高し、職場から姿を消した。その前にも何度か、感情をあらわにすることはあった。
乾燥炉がある塗装工程は密閉され室温は37〜38度に上昇する。5月下旬、空調機が故障した際には「暑い、ふざけるな」と大声を上げたという。同僚がなだめてもしばらく怒り続け、落ち着きを取り戻すと素直に謝罪した。時折、「今日もまた仕事か」と派遣仲間に漏らすようになったという。
派遣会社が用意した市内のマンションでの独り暮らしだった。部屋のパソコンはインターネットには接続しておらず、ゲーム専用だった。ネットの世界には携帯電話を使って飛び込んでいた。
事件の数日前。「どうせ1人だし」「ネットでも無視されるし」「部屋の中に携帯のカチカチ音がむなしく響いている」と書き込んでいる。
送迎バスで職場に向かう毎日。仕事仲間と職場近くの居酒屋に繰り出すことはあったが、自宅周辺で、普段の姿を知る人は極めて少ない。