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死刑の是非を考える少年審判の傍聴は是か非か? 日弁連がシンポ「傍聴すれば被害者は傷つく」と反対派軸丸 靖子(2008-04-10 11:40)
少年が起こした重大事件の被害者や遺族が、家庭裁判所での審判を傍聴できるよう認める法案が、今国会に出されている。
法案は、「事件で何があったのか事実を知りたい」という被害者や遺族の声に応えるのが狙い。しかし、日本弁護士連合会(日弁連)や家裁の調査官らは、「少年法の理念と矛盾する」「かえって被害者を傷つける」と反対の立場だ。 4月8日夜に開かれたシンポジウム「被害者等の少年審判傍聴・ここが問題」(日弁連主催)では、漫画『家裁の人』原作者の毛利甚八氏や少年の更生にあたる関係者、少年院に送致された経験のある現役大学生や息子を殺害された被害者遺族らが意見を交わし、それぞれに重いメッセージを残した。一部を紹介する。 蚊帳の外に置かれてきた少年事件の被害者 シンポジウムでは毛利氏だけ、天候不良で飛行機が着かず、ライブ中継での発言となった=8日午後8時、東京・霞が関の弁護士会館(撮影:軸丸靖子) 「加害者は拘置所や家裁、少年院で手厚く保護され、1~2年で社会に復帰する。これに対して、被害者の側は、事件当日から保護されずに放置され、マスコミの取材攻勢にさらされるだけで、何があったのか知る権利すらない」という状況が長くあった。 2000年の少年法改正によって、審判開始後の事件記録の閲覧・謄写、裁判官による意見聴取、審判結果の被害者への通知などができるようになったものの、被害者を支える体制は、依然として不備だらけといえる。そうした中で、被害者らが強く求めているのが、家裁審判の傍聴、つまり司法への参加の権利だ。 日本弁護士連合会(日弁連)や家裁の調査官らはこれに反対するが、その理由は何なのか。 (1)被害者が同席すれば少年が委縮して、真実を話しにくくなる (2)少年や親族のプライバシーに触れる資料を出しにくくなる (3)裁判官は傍聴席の被害者を意識して、少年の心情に配慮した発言をしにくくなる (4)少年審判は事件からまもない段階で行われる。少年の発言や態度で、被害者がさらに傷つくことにある (5)被害者の意見陳述でも、帰り際に少年をたたいたり、審判の様子をインターネットで流すなどの、少年法の理念に反するトラブルがすでに発生している 日弁連はこう整理する。「被害者の傍聴は『少年の更生』の意味でデメリットが大きい。だが被害者にとってのメリットはなんだろうか」(角山正・日弁連副会長)となる。 審判段階では高まっていない贖罪の念 リレートーク方式で行われたシンポジウムでは、最初に後藤弘子・千葉大学法科大学院教授が、審判傍聴の問題点を概説した。 「被害者が傍聴席にいることで少年の内省が促せるのではと言うが、事件からごく短い期間のうちに内省を深めるのは不可能。逆に、狭い審判廷内に“傍観者”がいるという萎縮効果を生んでしまう」 とデメリットを説明した。 毛利氏も、審判段階では少年の贖罪の気持ちは十分でないとして、 「少年の更生は、少年院での教育期間の中盤あたりから、事件のことを振り返らせ、被害者のことや罪を償うということについて考えさせていくもの。審判という入り口の段階で被害者の気持ちをぶつけても、少年の内省は高まっていない」。 さらに光市母子殺害事件の例を挙げ、 「(当時)少年はこれまで8年間拘置所にいて、更生の教育も何も受けていない。そして、被害者遺族の社会に向けた発言に対して、怒っている。彼がもっと早くに刑務所や少年院に行っていれば、もう少しまともな心理状態になっていたのではないか。彼は拘置所で、8年間幼稚な心理状態のままで置かれ続けている。少年への更生の教育を妨げることは、かえって被害者の尊厳を傷つけることになるのではないか」 と語り、贖罪するにも教育が必要と指摘した。 被害者の思いと少年の考えの落差 一方、少年院や鑑別所、裁判所で加害少年と30年以上向き合ってきた元職員らは、「少年が被害者のことを考えるといっても、被害者が思うのに比べれば天と地ほどの差がある」と審判傍聴で被害者が傷つく可能性を語った。 八田次郎・元小田原少年院長は、少年院から少年が被害者に書く謝罪の手紙の例を取り、 「知能が(知的障害と判断される)限界ぎりぎりの子では教育もなかなか難しく、『亡くなった息子さんの分まで頑張って生きていきます』などと無神経なことを書いてしまったりする。説諭して書き直させるが、被害者の思う謝罪と、実際に少年の書く手紙にはそれほど落差がある。被害者への支援は本当に必要だが、少年に贖罪を求めるのとは別のところ、心理ケアや経済支援などで充実させるべきではないだろうか」。 家裁調査官をしていた茂木薫氏は、 「(刑事裁判とは異なって)家裁の審判は基本的に少年の更生の場。裁判官が審判で少年を認めたり、保護者の苦労をねぎらうような言葉を聞くのは、被害者を傷つけることになるだろう」 と、少年審判の被害者傍聴に消極的な意見を示した。 シンポジウム参加者ら=8日午後8時、東京・霞が関の弁護士会館(撮影:軸丸靖子) シンポジウムで参加者の目を引いたのが、強盗致傷で少年院へ送られた経験のある都内の大学生(23)の発言だ。 「家裁の審判は通過儀礼だと思っていたけれど、『ここは君を責めたりする場所ではない』という裁判官の言葉に、心のタガが外れた。まだ自分は見捨てられていないと、素直になれた」 「素直になるということは、更生に重要なファクターだと思う。審判では、自分の一番の暗黒、自分がこうなった原因のようなものを話すことになる。経験上、それを被害者の前でいうのはやはり抵抗があり、難しい」 こうした意見はもっともだ。もし、被害者の審判傍聴が実現すれば、被害者は全身に怒りと悲しみをたぎらせ、傍聴席から少年をにらみつけるだろう。「少年の健全育成」を掲げるいまの少年法を大事にするのなら、被害者傍聴は“できない相談”だ。 だが、被害者にとっては、加害者が成人だろうが少年だろうが知ったことではない。自分は傷つけられたのに、少年だから大事にするという理念自体、受け入れられる話ではないだろう。自分が被害者なら、どう考えるだろうか。 12年前に池袋で息子が殺されたという男性は、最後にフロアからマイクを握り、 「いま、加害少年の何%が更生しているか考えてほしい。60%が再犯しているという実情を無視して議論が進んでいないだろうか。(少年に対しても)正当な裁判をするのであれば審判傍聴などいらないはずだ」 と現実を突きつけて、こう言い切った。 「謝罪なくして更生はありえない。そのことをよく考えてほしい」 ◇ 同法案の審議は4月下旬からの予定。 死刑の是非を考える トップページへ バックナンバー
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