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議長の発言―率直な河野流を買いたい

 河野洋平衆院議長の、このところの積極的な発言が注目される。

 ひとつは、全国戦没者追悼式での式辞だ。63回目の終戦の日に「特定の宗教によらない、すべての人が思いを一にして追悼できる施設」を真剣に検討するよう政府に求めた。

 小泉政権時代、首相が靖国神社への参拝を繰り返し、中国など近隣国との外交がおかしくなったのは記憶に新しい。国内でも論争を巻き起こした。

 戦争で亡くなった人々を、だれもがわだかまりなく追悼できる施設がほしい。当時、官房長官だった福田首相に有識者の懇談会が提言した「無宗教の追悼施設」は、そんな考えに基づく。

 首相が参拝を控え、近隣国との関係も落ち着いてきた今こそ、この議論を詰めたらどうか。これが河野氏の言いたかったことだろう。

 同じ式辞の中で、議長は領土問題にも触れ、「互いに内向きに領有権を主張するばかりでなく、真摯(しんし)に向き合い、話し合いによる解決を」と述べた。韓国と争いになっている竹島が念頭にあったのは間違いあるまい。

 いずれも、中国などアジア諸国との関係を重視してきた河野氏の信条に根ざした発言なのだろう。

 これに対し、中立であるべき議長なのに特定の立場を表明するのはいかがか、時と場所をわきまえていない、という意見もある。

 しかし、そうだろうか。

 議長が議会運営にあたって与野党の主張をくみ、公平に差配するのは当然のことだ。その立場から、言動に一定の自制が求められるのも確かである。

 だが、だからといって、国の基本的なあり方について、立法府の長が自らの思いを語ることまでしばられるべきではなかろう。

 戦争の反省を踏まえ、追悼のあり方や近隣諸国と良好な関係を持つ重要さを説くことが、追悼の場にそぐわないとも思えない。

 河野氏は、小泉時代の06年の追悼式でも「戦争責任をあいまいにしてはならない」と発言した。三権の長のひとりが、そうしたメッセージを内外に向けて発した意味は大きかった。

 もうひとつは、G8の下院議長会議を広島に誘致したことだ。米国のペロシ下院議長にも直談判し、来月2日の会議出席に快諾を得たという。

 原爆投下をめぐっては、それを正当化する米国の認識と日本との間には大きな開きがある。現職大統領のひとりとして被爆地を訪れたことがないなかで、大統領継承順位3位という、これまででもっとも地位の高い下院議長を招く意義は大きい。

 議長というと、議会の公正な行司役といった役回りばかりに目が向きがちだが、批判をおそれず、率直に信念を語るという議長像もあっていい。

新型エコカー―高い目標を技術が追う

 米カリフォルニア州でこの夏、日本製の新型車がデビューした。

 見た目は普通の乗用車と変わらないが、燃料は水素だ。空気中の酸素と反応させ、燃料電池で発電しモーターで走る。反応で出るのは水だけ。温暖化をもたらす二酸化炭素は出ない。

 初の本格的な燃料電池車として注目されるホンダのFCXクラリティである。新開発の小型燃料電池を備え、4人乗りで最高時速160キロ。水素を満タンにすれば約600キロ走れる。

 究極のエコカーともいわれる燃料電池車だが、課題はなお大きい。

 まず、価格だ。ざっと1億円はするので、今秋の日本デビューも含め、当面はリース方式で提供する。10年間で1千万円を切るのが目標という。

 ガソリンスタンドに相当する「水素ステーション」もまだほとんどない。

 だが、地球温暖化に歯止めをかけるには、脱化石燃料の新技術を育てていくことが欠かせない。こうした挑戦に拍手を送りたい。

 環境にやさしい車の開発で、日本企業は世界をリードしてきた。

 トヨタのハイブリッド車は、生産が追いつかない人気ぶりだ。2010年には、家庭の電源で充電でき、ガソリンの消費をさらに減らすプラグインハイブリッド車を出す計画という。

 電気自動車の開発も進んでいる。日本には電池技術の蓄積という圧倒的な強みがある。来年以降、三菱自動車や富士重工業などが相次いで発売する予定だ。充電に時間がかかり、1回の充電で走れる距離が短いなどの難点をどう克服するかが鍵になる。

 ただ水素も電気も、多くの場合は、つくるときに二酸化炭素が出るという問題が残っている。

 ホンダは太陽エネルギーを利用した水素づくりの研究もしている。そんな試みも大切だ。

 エコカーの本命をめざして、さまざまな技術が競い合ってほしい。

 こうした技術開発を促す施策として注目したいのが、米カリフォルニア州の排ガスゼロ規制だ。排ガスを出さない車の販売を一定の割合で求める厳しい制度だが、世界中の技術の動向を調べ、それに応じて規制内容を見直す柔軟性も併せもっている。

 「合理的な目標が設定されれば、技術者はそれに向けて努力する」。自動車メーカーの技術者はいう。

 70年にできた米国のマスキー法は、排ガスに含まれる窒素酸化物などを一挙に10分の1にすることを求めたが、ホンダをはじめ日本勢がまずクリアし、飛躍につなげた。大胆な目標設定は、技術が大きく進むきっかけになりうるのである。

 日本国内でも、エコカー技術の底力を花開かせるような、思い切った目標を掲げられないものだろうか。

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