2006.10.6(その2)
森田実の言わねばならぬ[407]

マスコミを信用してはならない――日本のマスコミは政治権力と合体し国民を支配し圧迫する凶器と化した【15】
田村秀(新潟大学助教授)著『データの罠 世論はこうしてつくられる』(集英社新書、2006年9月20日刊)を読む【3】

「人間がありとあらゆる感覚、感情、行動の自由、それ等のものを完全に抑圧され、ただ黙って、無抵抗に押し堪えねばならないという事は、呪に値する事実である」(葉山嘉樹『悪魔』昭和4年)


 新聞社による強引な世論誘導の実例として著者は、日本経済新聞の衆院選ネット調査を取り上げ、次のように記している(「第1章世論調査はセロンの鏡か?」pp.41〜42)。
 《日本経済新聞社は、ネットモニターに対して衆院選ネット調査を実施し、小選挙区では自民党支持が54%、民主党支持が33%という結果を一面で紹介している(日本経済新聞2005年9月3日)。実際の得票率はこれほどまで差がついてはおらず、また、調査が実施されたのが8月31日から9月2日まで、回答率が39.6%と低い点にも留意する必要がある。これは、あくまでも日経にモニター登録している人たちへのアンケートであり、世論調査と異なった結果になるのは当たり前なのである。しかし、このような記事が出ることで、世論全般がそのような意識があると考えてしまう読者も少なくないだろう。》

 日本経済新聞がしたことは、露骨な世論誘導である。小泉政権を勝利させようとする意思が働いていることは、明らかである。
 最近の大新聞の新聞記者・報道記者のほとんどが「保守」側に立っている。とくに、政治部の中心メンバーは現政権支持者である。大新聞社政治部の中心メンバーは、「小泉・安倍」支持者によって固められている。「大新聞社も森派一派支配が確立している」と友人の政治部OBは嘆いている。
 世論調査会社の実態は隠されているが、大新聞社、大テレビ局の支配下にあることは明らかである。大新聞社、大テレビ局が小泉政権を勝たせようとして世論誘導を仕掛ければ、世論調査のスタッフも追従せざるをえない。世論調査の数字は、大マスコミが意図的につくり上げているものなのである。大新聞社、大テレビ局が行っている世論調査は、ほとんどが世論誘導を目的に行われているのだ。

 著者(田村氏)は「『時事通信』によればデータのねつ造などを行っていた社団法人のやり口が明らかにされた」として、次の時事通信の記事(2005年9月5日)を引用している(pp.51〜52)。長い引用になるが、お許しいただきたい。
 《内閣府は5日、世論調査を委託した外郭団体の「新情報センター」(永島泰彦会長)がデータねつ造など不正な処理を行っていたと発表した。同センターをめぐっては、日銀委託を受けた調査でも同様の不正処理が判明しており、回答のねつ造を常習的に行っていた疑いがある。
 不正処理が判明したのは、今年7月に発表された「地域再生に関する特別世論調査」と、「食育に関する特別世論調査」。内閣府が別の2件の調査と合わせて1956万円で委託した。食育調査はデータを修正した上で5日、発表された。
 内閣府によると、同センターは面接方式で行われた地域再生調査で2108人から回答を得たと報告。しかし回答者に照会した結果、22人は調査を受けておらず、38人は調査対象者ではなくその家族らが回答していた。また497人については、不在などの理由で回答したかどうか確認できなかったという。食育調査でも、ほぼ同様の比率で不正処理が確認された。
 内閣府は、8月に日銀委託の国民意識調査でデータの水増しが発覚したことを受け、同センターに過去の内閣府発注の調査についてデータを精査するよう指示。内部調査の結果、約20人の調査員が不正処理にかかわっていた疑いがあることが分かった。ただ、昨年受注した13件については、既に調査票を焼却しているため回答者への確認は困難としている。(後略)(時事通信、2005年9月5日)》

 「このようなデータのねつ造」は氷山の一角とみなければならない。各新聞社やテレビ局は世論調査を頻繁に行っている。かなり安い費用で世論調査会社を使っている。世論調査の現場は、かなり危うい、とみなければならない。
 著者(田村氏)はこう述べている(p.53)。
 《調査員をしっかりと管理できていなかった外郭団体の責任は重大ではあるが、このような調査員は、おそらくアルバイト、あるいは嘱託といった身分であり、他の民間調査機関でも同様なことが起きていないと言い切れるだろうか?
 また、同ホームページによれば、日銀調査の担当者は回収率を気にするあまり、低い地域の補充調査を行っていたとあり、結果として無作為性を損なうデータも多数加えられたことが分かる。
 これ以外にも総務省の家計消費状況調査でも、同センターによる不正が行われていたようである。》

 私は、1970年代から90年代初めにかけて、世論調査に直接・間接に携わったことがある。その頃、大新聞の記者から、「世論調査のナマの数字が、われわれ政治部記者の見方と同じものなら手を加えないが、違えば補正する」という話をよく聞いた。新聞の紙面に掲載される「世論調査」は加工されているのである。大新聞の記者は「加工」を平然として行っている。罪の意識はまったくない。